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終焉のアリア(番外編集)
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EMS軍本部―――――


「おかえり雨岬!」
「ただーいま」
いつもの気だるそうな調子でダグラス学園から帰ってきた空を、本部入口で待っていた鵺が迎える。
「……。何ソレ」
空は冷たい目をして見る。鵺の前髪を止めている明らかに女子物のヘアピンを。
「これけ!?これなぁこの前俺が前髪伸びたて〜言うてたらミルフィがくれたんら!」
「……」
呆れて無言でスタスタと歩いて行く学生服姿の空の隣を歩く鵺が興味津々に目を光らせている物は、空が食べている物。
「なあなあ雨岬!」
「何」
「お荷物お持ちしますらて〜!」
そう言うと、空の学生鞄をひょいと持つ鵺。空はポカーンと空いた口が塞がらない様子。
「は?何?頭打った系?お前が親切だと夏なのに明日雪降るじゃん」
「そんげ酷っで事言うなて〜」
いつもなら"なしてそんげ酷っで事言うんら!うっすらぽんつく!"とすぐ怒るはずの鵺が今日は空に嫌味を言われてもニコニコ。だから空は未だに空いた口が塞がらない。
「何…鵺お前マジで頭打っただろ?それかアレか?漫画でよくありがちの誰かと中身が入れ替わったとか…」
「荷物持ってやったお礼にそのメロンパンくれて!」
バッ!と満面の笑みで差し出された両手を見て、空はようやく納得する。
――コレ欲しさにイイコ演じてたわけか…――
鵺が狙っていたモノそれは、空が食べているメロンパンだったのだ。
「はぁ。別にイーけど」
「わーい!」
空の方に体を向けている鵺の後ろから、EMS軍の白軍服を着た軍人達がこちらへ歩いてきている事に気付かない鵺。
「鵺。そこ、人が通るから道開け、」


ドンッ!

空が言い終える前に鵺は軍人達にぶつかり…いや、軍人達の中の1人がわざと背後から鵺にぶつかってきたのだ。衝撃でよろめく鵺だが、何とか体勢を持ちこたえた。























「痛ってぇて!誰ら!ぶつかってきたうっすらぽんつくは!!」
「ごっめ〜ん!チョロチョロと鼠が邪魔だったから退かせちゃった〜!」
「!?」
歩いてきた9人のEMS軍人達を前に、2人は頭上にハテナを浮かべる。見た事の無い軍人達だからだ。
その内の、鵺にぶつかってきたミントグリーンの髪にピンクのカチューシャに制服を可愛らしく改造している少女軍人は口に手を添えて意地悪そうに笑う。名は『ケリー・ギブン』
「木偶のクセにボク達EMS軍人様の邪魔しないでくんない?チョー目障りッ!キャハハハ!行こ行こエリちゃん!」
サーモンピンクの長い髪に黒い軍服を羽織った寡黙な少女軍人『エリ・イーヴィル』の背をケリーが押せば、それに続いて他の7人もゾロゾロと、空と鵺の脇を通り過ぎていく。
「ケリーお前マジで喧嘩売るの好き過ぎねー?」
淡い金髪で低身長の少年『ライト・シェイ』
「……」
紺と黒髪でボーッとしている少年『ハルク・ヘイト』
「なーんかどっちもあたしのタイプじゃない芋クサイ野郎共じゃん?」
白髪で眼帯をして制服を露出度が高く改造した褐色の少女『アリシア・ロットー』
「私の愛器達が言ってるよ。早く血が欲しいってねぇ。ヒャヒャヒャヒャッ!」
2本の巨大なノコギリを持ちマスクをした青髪の少女『月島 翡翠』
「翡翠煩い」
「コン!」
小狐を抱えている黄緑色の髪と帽子をかぶった少年『月島 縁』
「にゃにゃ〜にゃ〜」
カンパニューラブルーの色をした髪をツインテールに結び猫語を話すいかにも能天気な少女『キティ・クレア』
「コココ此処、トトト通らせてモモモらうネネネ」
制服がはち切れそうな程の筋肉質でスキンヘッド、口には針のマスクをした巨漢『ボイキンス・ゴットー』
「木偶眼鏡と木偶チビ、アデュー!」
ケリーがあっかんべーをしながら手を振り…


バタン!

入口の扉を閉めると、彼らの賑やかな笑い声が遠退いていき彼らは本部を出て行った。



























「何だったんだあの変人集団…。サーカスでもやるのか」
「ムキーッッ!!」
「!?ど、どうした鵺!」
ダン!ダンッ!と跳んだり足踏みをしながら顔を真っ赤にして突然怒り出した鵺に、空は目をギョッとさせる。
「あいつ俺の事チビ言うたねっか!!俺が一番気にしてる事だってがんに!許せねぇて!!」
「チビはチビなんだから仕方ないじゃん」
「何らて!?雨岬おめさんはあいつらの味方するんけ!?」
「はぁ、はぁ!メガネ君と鵺!」
「あ」
すると廊下の奥から走ってくる月見、風希、鳥の3人。いつもの私服ではなくEMS軍の白い軍服を着ているし髪型も違うから、いつもと雰囲気の違う3人に目を丸める空と鵺。
「なしたんら月見さん、風希さん、お鳥さん」
「さっきウッッザーーイ奴等がそっち歩いて行ったでしょ」
「行ったて行ったて!俺の事木偶チビ言うたんら!」
「あたしなんてチビデブ女って言われた!ムカつくよね!」
「ムカつくて!」
ねー!と顔を見合わせて怒る鵺と鳥。
「風希ちゃんなんて丑三つ刻女ですもんね、どうしてあんな酷い言い方をするのでしょうか」
「月見姉様はロケットおっぱい女…ぷっ…!ぷぷっ…!」
「ふ、風希ちゃん笑わないで下さい〜!!」
「つーかあいつら何なんすか。見た事無いんすけど」
空が本題を出せば、月見と風希が話す。
「わたくし達も今日初めてお会いしたのですけれど、グレンベレンバ将軍が不在のこの1週間の間に入軍した方達のようです〜」
「1週間!?そんならってがんにあんげ威張ってんのけ!?」
「入軍試験時にMADの首を500体持ってきた事でアイアン大佐から推されているそうですよ〜」
「ご、500体の生首…」
血まみれでMADの首を満面の笑みで持っているエリ達を想像してしまった空と鵺は顔を真っ青にして「う"ぷっ…!」と口を押さえる。
「それでさっき私達が食堂でご飯…食べてたら…向こうから喧嘩売ってきたの…」
「あれ?そういえば月見さん達はなしてEMS軍本部に居るんら?」
「アメリカでの任務があるからに決まってるでしょ…」


ギロッ!

相変わらず怖い風希の睨みに、鵺はビクッ!として空の後ろに隠れてしまう。

























「因みにバ花月は仮病で休んだから居ないんだけどね」
「仮病??」
空達5人は、夜の静かな軍本部廊下を歩き出す。自分達の部屋へ向かって。響く5人分の足音。


カツン、コツン、

「そういえば…煩いピンクはどうしたの…」
「ああ。ミルフィっすか。MADに壊滅させられて今はEMS領になったベルギーで復興ライブに行ってます」
「寂しいでしょ…」
「はぁ!?」
思わず風希に顔を向けた空を見て、3人はヒソヒソ。
「見て見て。メガネ君の顔真っ赤」
「ぷっ…!」
「可愛らしいですね〜」
「うっっざいんすけど」
「じゃあ少佐と中尉と少尉は何処行ったんら?」
「ハロルドさんは中国の孤児院を訪問なさっていて、アリスさんはオフでカナダへお出掛け中で、ファンさんはスウェーデンで任務中でお留守ですよ〜」
























そうこう話していると、各自部屋の前に着いた。
「じゃあ鵺。明日までにあいつらに最っっ悪なあだ名考えておこう」
「やり返すんらな!分かったて!」
謎の団結をしている鵺と鳥を空と月見が苦笑いしながら、各自が部屋のドアノブを掴む。
「じゃあおやすみなさ、」


ガチャッ、

「シューートッ!!」


ドカンッ!!

「ぶっ!?」
「あ、雨岬!?」
突然部屋の扉が中から開けば、部屋の中から勢い良く跳んできたナニカが空の顎から顔面にかけて命中。眼鏡はガシャン!と吹き飛び、空は顔を押さえる。
「っつ〜…!」
「雨岬でぇじょぶら…、ひぃいっ!?」
空に駆け寄った鵺が顔を真っ青にして思わず空から離れる。
「な、何あれ?!」
「ひぇええ!怖いです怖いです風希ちゃあああん!」
「何アレ…グロッ…」
小鳥遊3姉妹も思わず後退りしてしまう。
当の本人空は首を傾げているが、今自分の顔面に直撃したモノが転がっている背後を見ると…
「何が…、…!」
床には生々しい緑の血がべっとり飛散したMADの生首がこちらを見ていた。






















「んなっ…!?」


ベチャッ…、

「!!」
MADの生首が直撃した自分の顔面に触れたら緑の生々しい血がベチャッと付着。これには、いつもクールな空も呆然としてしまう。
一方…。
「キャハハッ!キャハハハ!見た見た〜!?木偶眼鏡達のチョービビった顔!最ッッ高!キャハハハ!」
「ちょっと!何で君達があたし達の部屋に居座ってるの!」
鳥が言うように、空&鵺の部屋にはエリとケリー。
月見&風希&鳥の部屋には縁と翡翠とキティが我が物顔で部屋を独占しているのだ。
「エリちゃんボクのシュートチョー上手いでしょー!次はボクがキーパーでエリちゃんがキッカーね!」
先程のMADの生首を取りに来て部屋へ戻ろうとしたケリーの肩を、ガッ!と掴む鵺。
「無視すんなてば!人の話はちゃんと聞けって習わねかったんけ!?」
「はぁ〜あ?キモいんですけど。軽々しく女子に触んじゃねーよ木偶チビ」


バシッ!

ケリーは意地の悪い表情で鵺の手を振り払う。彼らの部屋の扉が閉まる寸前。


ガシャン!

「風希ちゃん!」
閉まり欠けた扉に鎌を挟んで閉じさせまいとしたのは風希。
「さっすが風希ちゃ、」


ガシャーン!!
ドスッ!

「!!」
しかし風希自慢の鎌が弾き返され、空の頭上スレスレを跳んで壁に突き刺さる。
「危っぶね…!」























「歯切れの悪い鎌だねぇ。そんな物でMADと戦おうだなんてアンタ正気かい?」


ズッ…、ズルッ…、

室内からは、2本の巨大なノコギリを引き摺った翡翠がやって来る。マスクをして口は隠れているが、笑っているのが雰囲気で分かる。一方の風希はギロッ!と翡翠を睨み付ける。
「愛器を…大切に扱わないで引き摺るような人に言われたくない…」
「へぇええ!愛器を研いですらいないアンタに言われたくないねぇ!ヒャヒャヒャヒャッ!」
翡翠の不気味な笑い声に、空と風希以外の3人は顔を歪めて耳を塞ぐ。
「あ、あの〜…そ、そろそろお部屋に入らせてもらえませんでしょうか〜…?」
「月見ちゃん!入らせてもらえませんでしょうかじゃなくて!此処あたし達の部屋!!」
「コンッ!」
「あらあら?」
すると今度は室内から1匹の小狐がやって来て、月見の足首をペロペロ舐める。
「何も聞いていないのかお主らは」
小狐の飼い主の少年縁がそう言えば、空達は首を傾げる。
「エリちゃん!木偶達に見せてやって!」
「うん。でも」
「イーから!」
ケリーにぐいぐい押され、無表情で寡黙なエリが申し訳なさそうに、1枚の紙を取り出すと空達5人の前に突き出した。
「?」
その紙に書かれてある内容を、無感情で抑揚の無い声のエリが読み上げる。
「今月のEMS軍除籍者を此処に記す。雨岬空。鳳条院鵺。ハロルド・パティンスキー。アリス・ブラッディ。ファン・タオ。ミルフィ・ポプキン。小鳥遊月見。小鳥遊風希。小鳥遊鳥。小鳥遊花月。以上の10名」
「ってーコトでお前らの代わりにボク達が入ったからお前らもう用済み〜!EMS軍人じゃない一般ピーポーはお家帰ってパパとママとねんねしてな〜!キャハハハ!」


ドサ!ドサッ!

室内から空達の荷物が廊下に放り出され…


バタン!

扉を閉められた。
「何らて…?」
「わ、わたくし達が…」
「EMS軍を…」
「クビにされた!?」
各自の部屋だった扉の前で呆然と立ち尽くしている鵺、月見、風希、鳥。


ヒュウウゥ…

窓から虚しい秋風が5人の間を通り抜けていった。
「つーかその前に…」
空は、先程壊された眼鏡を拾う。
「…俺、EMS軍人になった覚え無いんだけど」


















to be continued...













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