ネバーランドには程遠く
※マイソロ2設定。ゼロスパパは生きてます。
※しかもなぜかアドリビトムに居候してます。
甘党にオススメされたパニールの特製パフェをつつきながら、
「俺さまたちって、見れば見るほどそっくりだよなあ」
と正面で紅茶を飲む息子にぽつりと言えば、しかめっ面で睨まれた。
ゼロスはティーカップをソーサーに置いて、俺に反論しようと口を開く。
「全然。顔と体格と声と口調くらいしか似てない」
「それだけ似てれば世間一般では『そっくり』って言うんだよ、息子よ」
「そんな迷信、俺さまは信じない」
「意固地だなあ」
そういうところも俺さまにそっくりだ、と微笑むとものすごーく嫌な顔をされた。
ちょっとちょっと、それはさすがに酷くない? 俺さま超ショックなんですけど。
へこんでいる間に、パフェのてっぺんを飾っていたさくらんぼをゼロスに掠め取られた。
「あ、それ最後のお楽しみだったのに……」
「40過ぎのおっさんがきもいこと言うな。そーゆーセリフは、ガキか女の子が言うものって相場が決まってんだよ」
ゼロスめ、食べ物の恨みは怖いんだぞ?
さくらんぼがゼロスの口の中に消えるのを眺めながら、頬を膨らませて屁理屈をこねる。
「だって俺さま永遠の24歳だもん」
「もう黙れよ、遅咲きのピーターパン」
「それはクラトスに言ってやれよ、あいつ自称28歳だから。で、話は戻るんだけど……」
「俺、さっき黙れって言わなかったか」
黙れと言われて黙るなんて、そんなの俺さまじゃないだろ? なんてったって、俺さまは『喋ってても2枚目』なんだから。
誰だ、嘘だろって言ったやつ。覚えてろよ。
「俺さま、イイコト思いついたんだ」
「あんたの思いつきは大抵ロクでもないことだから。そのまま胸の内にしまっといてくれ」
むむっ、ゼロスのやつめ、言うようになったな。
だがしかーし! 息子の反抗期ごときでくじける俺さまではない。それを上回る息子への愛とハイテンションでカバーしてみせる!
「ネバーランドへ行かないか、ウェンディ?」
冗談めかしてそう言ってみると、俺と同じ色をした瞳が丸くなった。
――可愛いなあ、もう。
そして、所変わってゼロスの部屋。
前々から用意していた衣装に身を包み、ゼロスにそれを披露してみれば。
「これのどこがネバーランドだ! このクソ親父!」
怒号とともに、思いきりゼロスに頭を殴られた。くそ、髪型のセットに何時間かかったと思ってるんだ。いや、すいません嘘つきました。そんなにかかってません。
でもそれなりに時間がかかったのは事実。まあ、ゼロスだから許すけど。
「ゼロスってば、もしかして期待してたわけ? 俺さまの言葉が十中八九たわ言だって分かってるくせに〜」
「自分で言うな!」
なんでゼロスがこんなにカリカリしてるかというと。俺さまの格好が原因だったりする。
黒のタンクトップにピンクの上着、そしてゆったりめの白のズボン。二の腕まである手袋とバンダナをすれば、あらフシギ。ゼロスが2人いるよ! これなんて俺得?
鏡の前に2人並んでみれば、ほとんど見分けがつかない。我ながら見事な変装だ。
「この格好でバンエルティア号のやつらをからかってやるんだ。――面白そうじゃね?」
「はいはい、そーですね。行ってらっしゃい」
ゼロスがため息混じりに言った。もうどーでもいいから早く出てけ、という本音が見え見えだ。
まあ、そんなゼロスの本音に乗っかってやるつもりなんて、こっちには微塵もないんだけど。
「何言ってんだ、ゼロス。おまえも一緒に来るんだぞ?」
「はあ?」
「題して、『どっちがゼロスくんでしょうゲーム』! こーゆーの、おまえも好きだろ?」
俺はゼロスの腕を掴む。
ゼロスは割とその場の勢いに流されやすい。この部屋から連れ出せば、あとはどうとでもなるという自信が俺にはあった。
「ネバーランドへ、さあ行こう!」
「馬鹿だろ、あんた!」
と、そのとき。
「ゼロスー、仕事一緒に行かない? ロイドもいるよ」
そんな声とともに、ドアをノックする音。
「お、ナイスタイミングでカモが来た! はいはーい、今出ますよー」
「ちょっと、親父!」
ゼロスが止めるのも聞かず、俺は部屋のドアを開ける。
現れたのは、いつも笑みを絶やさない黒髪の少年。この世界を危機から救ってくれるという、おとぎ話のディセンダー。それがこのラスラ少年だ。
ラスラは金色の瞳を俺にまっすぐ向けて、
「ゼウスさん、何してるんですか?」
と首を傾げた。
どうして分かったんだ! 俺の格好は今ゼロスそのものなのに!
理由を尋ねてみれば、ラスラはあっさりと答える。
「だって神子って言っても、ひとりひとりの光は違いますから」
ラスラの指摘に、俺は頭を抱えた。
「しまった! ディセンダーにはそういうチート性能があったことを失念していた!」
「チートって、おい……」
ディセンダーは強い輝きを放っており、光纏いし者とも言われる。しかし、その光は精霊や神子にしか見ることができない。
神子は人間でありながら、ディセンダーに近しい存在。だからディセンダーの光が見えるし、ディセンダーと同じように光を持っている。
ディセンダーの出現をいちはやく察知するため、俺たちのご先祖さまはそういう能力を与えられたらしい。それが代々受け継がれ、今おまえに宿っているのだ、とかなんとか。
若いころ、くどくどと説教されたことを思い出す。そういえばあいつ、あのときから28歳を自称してたんだよな……。
その理屈でいくと、コレットちゃんにも一発で見分けられてしまうということか。あと他にちょっかいをかけやすそうなのは……。
「誰かを騙したいのなら、ロイドはどうですか? ロイドならすぐに連れてこれますよ」
俺の考えを汲み取ったかのように、ラスラが言った。
その提案にゼロスは渋い顔をしたが、俺は快く了承した。
「気が利くじゃないか、ラスラくん。じゃあ、頼んだ」
「はい、頼まれました」
にこりと笑って、少年が部屋から姿を消す。
ロイドといえば、自称28歳男の息子だ。本人はそのことを知らないみたいだが。
どうやら俺のゼロスとは恋仲らしく、ラスラ少年がゼロスを仕事に誘い出す文句に使う程だ。お父さんは断じて認めないぞ。
あいつが俺さまたちを見分けられないようなら、ゼロスは絶対嫁にやらん。
そして数分もしないうちに、ラスラがロイドを連れてきた。
「ロイド。どっちがゼロスか、分かる?」
楽しそうにラスラが尋ねる。前から思ってたけど、こいつ性格悪いな。俺さまが言えたことじゃないけど。
ロイドは状況が飲み込めていないようで、戸惑ったように俺たちを見ていたが、
「こっちがゼロスだろ」
さほど悩むそぶりも見せず、ゼロスの腕を引いた。
ロイドが正解して安心したのか、ゼロスがロイドに抱きつく。
「ハニー! 愛してるぜ〜!」
「うわ、ゼロス! いきなり抱きつくなよ、びっくりするだろ!」
くそ、いちゃつくな。ゼロスから離れろ。
ぎりぎりと歯噛みしていると、ゼロスが得意げに言い放つ。
「見たか、親父! 俺さまたちの愛の勝利だ!」
抱きつかれたロイドが苦笑を漏らす。
「そんなおおげさな話じゃないって……」
じゃあ、どういう話だよ。
俺は目だけでロイドに訴えかけた。睨んだとも言う。
すると、ロイドは苦笑したまま俺を指差して、見分けられたのはその目が理由だ、と言った。
「親父さん、俺のことずっと睨んでるからさ。すぐ分かるんだよ」
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彩華さまリクエスト、『ワイルダー親子でドタバタ劇』でした。
なんかいろいろと突っ走ってしまいましたが、これで大丈夫ですか……?
しっかしアレですね、無駄に長いですね。その割にまとまっていないというか、なんというか。
会話文でも地の文でも喋りすぎなんだよ、この人……。
自称『喋ってても二枚目』だから仕方ないのかな(開き直るな)。
タイトルは書いてる途中で閃いたものです。
あまり話とは関係なかったりします←
神子の設定とかは私の勝手な妄想です。真に受けちゃ駄目ですよ!
リクエストありがとうございました!
(2010.03.01)