スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

スウィートハニー!

「将クンとはもう付き合えない…」

「…へ……?」



陽も沈みかけた放課後。教室。
人影は無い。

そういえば、校舎の教室は、東の方角に向けて窓が作られるんだそうだ。
だから西側に廊下があり、東側に教室が並ぶ。
最も授業の多い午前中、教室に光が射し込むように。

(ああ、だからこんなに暗いのか…。)

小学校の理科の授業を思い出しながら、現実逃避。

ユリちゃんからの突然の別れの宣告に、全く頭がついていかない。
ユリちゃんはウチの高校のアイドルで、少女漫画から出てきたように愛らしい女の子。幼い容姿に反して巨乳だ。
彼女は引く手数多、狙っている男は星の数だ。
そんなユリちゃんから告白され、狂喜乱舞したのが1ヶ月前。
それがどうして、たった1ヶ月で別れを告げられているのか。

「え、どうしてそんな突然…」

「……」

ユリちゃんは言いにくそうに視線を逸らして、一言。

「女の私より可愛い彼氏なんて、耐えられない……」




…………。

あれ、耳がおかしいのかな俺。
その台詞、なんだか凄く聞き覚えあるんですけど。
デジャヴ?これデジャヴ?

『だって将クン、私より可愛いし、』
『女として、負けてるっていうか…』
『一緒に街を歩いてても、声を掛けられるのは将クンだし、』

今までの彼女達の台詞が、走馬灯のように頭を過ぎった。


『耐えられない……』


耐えられない………。


耐えられない……―――




















「あははははははっ!!」
「笑うなボケ!黙れ死ね。」
「校内一の美少女でも、将への劣等感には勝てなかったか…。」

フラれた翌日には学校中に噂が広まるなんて、一体モラルはどうなってるんだウチの高校は。

そして毎度の事ながら友人達に爆笑される可哀想な俺。

「だからいつも言ってんじゃん。俺の彼女になれ、って。」
「死に晒せ腐れホモ。俺は男だ。」

生物学上、一生かかっても“彼女”にはなれんわ。
寝言は寝て言え。
つか寧ろ、死ぬまでその口を開くな。

龍之介は3才の頃からの幼なじみで、見た目も中身も手をつけられない程のチャラ男だ。
根っからのタラシで、セフレの数は両手じゃ数えられない。
本人曰わく、今まで一度も彼女はいない。
というのも、毎回告白してきた相手に返す言葉が、

『将より可愛い女じゃないと勃たない。』

だ。

本当死ねばいいのに。


俺になら勃つのか、なんて馬鹿な事を聞いてはいけない。

中学の頃に一度だけ尋ねた事があるが、その時の返答はもう思い出したくもない。

『勿論。だって俺、毎日オカズにしてるもん。』

一度頭かっ開いて脳味噌診てもらえ。

セフレは相手に奉仕させて勃たせるそうだが、なんて倒錯的な生き方してるんだこの色情倒錯者め。

「まぁそう落ち込むなよ将。俺らがいるって。」

ああ、お前はいい奴だな京平。
俺の心のオアシス!

「そうだよな!京平がいるもんな!」
言わずもがな変態は頭数に入っていない。
「待てよ将チャン、俺もいるじゃん!」
「京平ダイスキー」
「はいはい、判ってるよ将。」

そう言っていつものように京平に抱き付いて、その胸元に顔を寄せた。
変態の発言はこの際華麗にスルーの方向で。

村井君と宮野君。03

「ちょ、ちょっと待って。状況が読めない…」

つか俺、なんで村井にこんな絡まれてんの?

いや、そんな事よりも村井。どうして貴方はそんなに顔を近付けて来るのですか。

いやいやいやいや、ちょっと近過ぎないかこれはっ。
このままだとくっついちまうだろうが口と口がっ!
ま、待てって村井っ……




「……」
「………」

俺は今、きっと凄く間抜けな表情を晒しているに違いない。

しかし、これは仕方ないと思う。
なんてったって、男にキスされたんだからなっ!
もう笑うしかない。ハッハッハッハッ…はぁ。
駄目だ。顔の筋肉が全く言う事を聞かない。
「俺が、冗談でこんな事すると思うか?」

ハイ。思います。
…とは口が裂けても言えないチキン野郎、宮野圭介17歳。

というか、これが冗談やからかいでないとすると、事態はもっとややこしい方向に…。

「もう一度だけ言うぞ。……お前が好きだ。」

「…うん…」

気付いたら頷いていた。
目の前の、ひどく整った顔が告げてくる言葉が、本心からだと判ってしまったから。

「お前にキスしたいし、抱きたい。一度掴んだら二度と離さない。それも嘘だとか疑ってないよな?」
「…うん…」
「それで?お前の返事は?」


切な気に囁くこの男の、青く澄んだ瞳に見つめられると、何も考えられなくなった。


「……うん…」













お父さん、お母さん。
貴方達の息子は今日、彼氏が出来ました。

ヤンデレラ。



「まさゆき、んあっ、まさ、ゆき…雅幸っ!」

「…っ」

俺の上に跨り、嬌声を抑えようともしない、美しい人。

快楽に溺れてうつろ気な琥珀色の瞳。
そこから止め処なく無く溢れる澄んだ涙。
薔薇のように色付いた唇と、煽欲的にのぞく舌。
陶器のような白い肌。

何もかもが美しい。

まるで、神に愛されているかの様な、完璧な存在。



これが男だなんて、世の中間違ってると思う。

「やだっ雅幸っ他の事、考えないで…っちゃ、んと、動いて…ふ…ン…」

…なんて我が儘な女王様だ。

「お前が、声抑えないからだろ。…ったく、ウチの壁はお前んチの豪邸と違ってオンボロなんだから、隣の学生クンに丸聞こえなんだよっ」

可哀想に、これじゃ勉強に集中なんて出来やしねぇだろうが。

「ンぁぁああっ、雅幸っ怒んないで…っ、だって、…ふぁっ…学生クンが、雅幸を好きになったり、したら…ヤだ、から…俺のモノだって、教えない、と……ん」

…これだ。


自慢じゃないが、容姿成績家柄どれを取っても平々凡々の俺に、こうまで独占欲を燃やす意味が判らない。

「そんな物好き、お前くらいだろ」
「ん、んあ、そ、だといいけ、ど…っ」
「俺はお前みたいに何もかも完璧じゃないの。」
「ふ…それ、褒めてくれてる、の?」

頬を赤らめて、心底嬉しそうに微笑むこの男は、自分の側には俺だけ居ればいいと言う。
そして俺の側にも、同じように自分だけだと言う。


「ねぇ雅幸…俺以外の人間なんて好きになったら、ダメだからね…?」
「………」
「もしもそんな事になったら、」




「        」




そう言って細められた、色素の薄い瞳が、あまりにも鋭く射抜いてきたから、俺は何も言葉を返せなかった。

村井君と宮野君。2


どうやら俺の頭は容量オーバーのようだ。

村井の放った言葉に、思考回路が凍りついた。



「……え?…へ……??」



俺の口から出るものは意味を成さないひらがな達だけだ。

そんな俺に苛立ったのだろうか、

「……チッ」

こ、この人今、舌打ちしたよぉぉ!!
やだよ何なのこの人っ!

「な、なんだよ!だって、いきなり…そんなワケわかんないこと言われても…」

いきなりっておい。何なんだ俺。
何その乙女的発言。
狼狽え過ぎですよねそうですよね。

「いきなりじゃねぇだろうが。お前こそワケわかんねぇ」

いやいや、そんな理不尽なキレ方されましても。

…って、え?

「いや、いきなりだろ…?何の前触れもなく…」

「チッ…てめぇ」


またやったこの人ぉぉ!
なんで俺こんなに不利な立場にいんの!?

…ハッ!そうか!
新手の虐めかっ!

そう考えると、全てがすんなり受け入れられた。
てっきり村井はホモだったのかとか、今までの女好きな噂はフェイクだったのかとか、そんなとんでもない考えを浮かべた自分が恥ずかしい。

寧ろ、なんで一番に気づかなかったのか不思議なくらいだ。

「ゴメン村井っ!」

「?」
村井は不思議そうなカオで俺を見る。
「俺、勘違いしてたっ」
「……何が」
何がって、そんなんこの状況で一つしかないだろうに、わざわざ聞いてくる意味がわからん。
「いや、俺一瞬、村井に本気で告白されたのかと思ったからさ。からかうつもりだったんだろ?本気にするとこだった。村井はホモだったのかと思っちゃったよ」
だから、ごめん、そう告げると、村井の眉間に刻まれた皺が深くなった。

「…は?」

それは地の底を這うような低い声で、チキンと自覚している俺には、平常心でいる事なんてできる筈もなかった。

「え…?な、何怒ってるんだよ…っ」
だって、どちらかといえば怒るのは俺の方だろ。
からかわれて、ていうか謝ったんだぞ俺。
いや、謝る必要なかったか。
それでどうして村井、お前が怒るんだ。

ちくしょう、手が震えてる気がする。
いや、多分、実際に震えてるんだろうけど。

もうやだ。帰りたい…。

resonance 番外

「盛ってんじゃねぇよボケ」
「うぅぅ…」

やっぱり今日も今日とて冷たい愛しい人、深雪さん。
「深雪さぁぁあん」

 ドカッ

「…っっっってぇッ!!」
「当然だ。もう一度そんな呼び方してみろ。
―――ちょん切ってやる」
「ち、ちょん切るってドコを!?深ゆっ…ユキさんっ!」

危うく彼の名前を呼んでしまいそうになったところを、鋭い眼光に射られ、訂正する。

…そう。深雪さんは、自分の名前が嫌いなのだ。
理由は言うまでもなく、女みたいだから。

可愛いのに。

「俺のちょん切ったら困るクセにぃー。」

 ジャキッ。

「っ!」
―――深雪さん。いつもサバイバルナイフを常備してらっしゃるんですか。





(教訓、長いものには巻かれよう。)
前の記事へ 次の記事へ