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「なにっ」
ビシンと、水を伝って感じる声。二度目だ。
「まだ居たのか」
あれからどれぐらい経ったのか分からないが、奥へ消えてそのままだった白い巨人がまた目の前にやってくる。
どうやら眠ってしまったらしい。
「帰れと言ったろう」
そんな勝手を言われたって、彼の体にとってはこのテーブルから降下することさえ決死であるし、どの道をどう来たかもわからないのに、元居た場所に戻ることもできそうにない。
そもそも、あの生息エリアにこだわりがあって棲んでいたわけじゃなかった。
どこでもおんなじなのだ。
「むう……まあいいか。別にうるさくないしな」
白い手が彼を持ち上げる。
居心地悪そうにしていた大理石の丸テーブルから床へ。
「自由にしていろ」
だだっ広い石床はテーブルよりは歩きやすかったが、やはり真平らで何も無く落ち着かない。ここは生き物の棲む空間ではない。
とりあえず壁まで行って、そしてそこから壁伝いにちょっと進んだ。
そして、……
その挙動を終始、白い巨人は見ていて、好きに破顔するのだった。
「ぷっ、なんだそんなに端に縮こまらなくてもいいぞ」
もうちょっと壁伝いに進んだ。
「お前は小さいし、邪魔にはならんからな」
そう言って笑んだ。
奴は少しお喋りだが事実しか口にしない。
たぶん嘘も無い。
これがカニがアトラスの笑ったのを見たはじめての日だった。