話題:ひとりごと

すききらいが激しいわけではないけれど、すきとどうでもいいの分け方は激しかった。すきなものは、何度でも触れたくなるもので、本や映画、アニメ、音楽、食べ物、そして、人も。何度も読んだり、観たり、聴いたり、食べたり、話したりしても飽きることなく、あたしを包んだ。その代わりに、流行りものや興味本位で触れたものは、いとも簡単にわすれてしまう。記憶に残ることなく、ぼやけることもなく、跡形もなく消去される。それは、すきなものでいっぱいな容量のために、無駄なものを削除してく機械データと似ていた。すきなものだけを記憶する自分は、ソフトウェアをアップデートしては進化してく携帯電話とは真逆だ。アナログなんだろう、そう納得させた。


彼の記憶のキャパシティは、あたしよりもちいさいのだろうか。彼は、ほとんどのことを記憶しない。わすれてしまう。ホワイトデーだって、安定にその前日までは用意するからねと期待だけを煽り、当日は何事もなく終わってしまう。ホワイトデーのホの字さえ出ることはなく、むしろ、不機嫌そうでさえあった。彼は変だ。期待させるだけ期待させて、そこから突き落とすのがすきなのだろう。そんな悪趣味な性格なのだろうかと何年一緒にいても彼のことをちっともわからない自分がいることに気づく。いつもそうだ。誕生日もクリスマスも覚えてることもはなく、プレゼントは気まぐれにあったりなかったりする。あたしからのプレゼントはもらっても、お返しをするという習性が彼にはなかった。

彼は感情が欠落していた。相手の気持ちを汲み取ることが下手くそで、空気を読むことをしなかった。一匹狼でいることを誇らしく思っているようにさえみえた。彼は、ひとりになることが当たり前に多い人生だった。自分に正直に生きている。すきなものだけがすきでいればいい。去るものは追わず、来るものは拒まない。そんなことを思うのは自由だが、それを実行させてくのはあまりにも愚かだと思った。自分に正直に生きるというのは都合がいい言い訳にすぎない。自分以外の人と関わりながら生きていくこの世界で、自分のことしか考えないで生きていくのは自分勝手に思えた。自分の気持ちだけには真剣に向き合い、最優先させる。自分に歯向かうもの、意見が食い違うものは切り捨て、傷つけることさえ当たり前。よわいから、味方だけを周りに置いておきたい。都合がいい人だけをそばに。そんな仮初めの世界は脆く、簡単にこわれてしまうのに。
自分をすきになってほしいと思うなら、その殻を破らなくては見つけてもらえない。察してほしい、思いやってほしい、愛してほしい、支えてほしい、一方的に求めてばかりではだれも見向きもしなくなる。なにもしてくれない人に、なにかするほど人生は長くない。自分を軸に公転しない。惑星ではないのだからあたしたち人間は。せめて、あたしだけにはその殻のなかのあなたをみせてほしいと願った。