SPEAK/24

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2017/1/17 15:04 +Tue+
夏の庭/湯本香樹実

あまりにも有名な小説を、今更ながら。
無駄がなく、すごくシンプルな筋だけど、それがまっすぐな感動に繋がる。
本当に爽やかな読後感。
あぁ良い物語だったな、と素直に思える。

小学6年の3人の少年たち。その中の山下のお祖母さんが亡くなったのをきっかけに、木山と河辺も、人が死ぬところを見てみたいという好奇心に駆られるようになる。
そして3人は、町外れに1人きりで暮らすおじいさんを観察し始める。生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目で見るために。
3人の好奇心は日ごと高まっていくが、不思議とおじいさんは元気になっていくように見えて…。

「人が死ぬ」ということを芯から実感したのはいつだっただろう、と考えた。
初めて経験した身近な死は中学生のときの祖母の死だったけれど、身近で衰えゆく姿を見たわけではないし、亡くなる瞬間に立ち合ったわけでもないから、本当に実感したとは言えないかもしれない。
生きているものはいつか必ず死んで、会えなくなる日がくる。そしてそれはいつか自分にも訪れる、ということを、実感したのはずいぶん大人になってからだったかも知れない。

この小説の少年たちも、死という概念がまだ自分のなかには存在していない。
祖母を喪った山下でさえも、死ぬということは何だかぼんやりと靄に包まれた感覚だ。それは普段あまり会ったことがなかった祖母だったから、というのがとても大きい。
だから、知りたいと思った。死ぬ、ということを。
という、幼いからこその残酷な感情が元で1人のおじいさんを追いかけ観察を始めるのだけど、それが思いがけない方向に転がってゆく。

流れや結末を書いてしまうとこの物語の良さが薄れてしまうので書かないことにするけれど、その夏少年たちがした経験は、彼らのなかに一生忘れられない記憶として残るのではないかと思う。
切なく、大きく、だけど瑞々しい子ども時代の経験として。

青々とした植物やみどりの感じとか、プールに行ったりサッカーをする描写とか、面倒くさがりながらも塾に行くところとか、夏休みを目一杯楽しんでいた幼い日のことが懐かしくなる。
1日1日が冒険で、新しく知ることで溢れていた年代。
瑞々しい、という言葉が私のなかでは一番しっくり来る、素晴らしい青春小説だった。



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