SPEAK/24

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2020/12/4 16:23 +Fri+
桜の下で待っている/彩瀬まる

彩瀬まるさんの本、ここ数年とっても好き。
なんといっても、(個人的に)ハズレがない。
温かいなかにも、尖っていたり痛々しかったり、ちょっと怖いお話も結構あるけれど、この小説はタイトルや表紙からして優しげな感じがして、受けた雰囲気は間違っていなかった。

故郷、家族、旅にまつわる5つの短編集。
舞台は主に東北地方。青森が残念ながらなかったのは恐らく、東日本大震災の影響を強く受けた土地を選んだからだと思う。
彩瀬まるさんは関東の方だけど、震災当日に東北を旅行していて被災したらしく、その関連の本も出されている。震災をモチーフに描かれた「やがて海へと届く」という小説は私も以前に読んだ。

福島にある彼氏の実家へ、彼女である主人公が一緒に帰る「からたち香る」は、放射能のことを気にしながらもそれを口にしていいのか迷う様子がリアルだった。
その土地に住む人にとってそこは愛する場所だけれども、よその土地の人にとっては少しの脅威を感じる場所になる。震災の影響で、いろんなかたちで傷ついた人がたくさんいるのだという事実を感じた。
他の短編にもタイトルや話中に必ず花や植物が登場する。
「ハクモクレンが砕けるとき」はほんの少しのホラー要素も混ざっているような幻想的なお話で(基本は温かいのだけど)、表題作は一番最後に据えられているのだけど、最後に配されたことに大きな意味がある。

故郷は楽しいばかりの場所ではないし、家族というものは面倒くさい面もある。「菜の花の家」はとくにそういう側面が表れている。
だけど、故郷や家族はなくならない。亡くなっても、なくなるものではない。
帰る場所とは思えなくても、それは確かに存在している。
その少しの鬱陶しさや、心強さを、感じられる物語群だった。



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