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小説のリメイク、掲載について

お久しぶりです。おそらく、これを見てくださっている方はいないと思いますが、一応ネット上にふわふわ漂わせていた責任もありますゆえ、ここに記載させていただきます。
結局、更新するする、移転するする、などするする詐欺を続けて、何年経ったことか。
相変わらず私生活は多忙ですが、スマホの発展のおかげか、小説の更新がし易い環境に乗じて、心機一転。
小説を再リメイクすることにいたしました。
ncode.syosetu.com
から飛べるはずです。
もし興味のある方がいらっしゃいましたら、お立ち寄りくださると嬉しいです。

8ー5.そっと恐ろしさを拭う。






脅威と驚異と。

ルサンチさん、否、アルグラードさん、と呼んだ方がいいのだろうか、その人は、私を見る目にそんな感情を滲みだしていた。


知り合い、なのだろうか。

それにしては、酷く物々しい。

急に、身体の中に、冷たいぞっとするようなものが駆け抜けた。


怖い。恐い。こわい。


叫びだしてしまいそうな、衝動が、貫く。

肩を捕まれた手から逃れたくて、身体をよじる。

「いや……やめて……」

絞り出た声は、いつの間にか荒くなっていた自分の息に掻き消える。

視界が、白く滲みかけて、声に、凛とした声に、呼び戻される。

「……気安く、お触れになりませぬよう。勘違いではございませんか?それとも、この娘と本当に面識がおありですか」

肩を掴む手が離れた。

はっとして顔を上げれば、ルイさんが、アルグラードさんの手首を掴んでいた。


丁寧な口調だが、今までの言葉の何よりも、冷たい。

そして、アルグラードさんの手が変な方向にねじれかけている。


「っ……は、離せ!」
「ああ、失礼を致しました」

切羽詰まったアルグラードさんの声に、爽やかに答えて手を離すルイさん。

アルグラードさんはぱっと手を引っ込めて、手首をさすっているようだ。
ねじれかけていたのは気のせいではなかったらしい。

「……失礼、知人に似ていたが、人違いだったようだ」


私の事を言っているのだと気が付いて、はっとする。


今のは、何だったのだろう。

あの恐ろしい感覚は。




「……あまりここで時間を潰す訳にもいかない。失礼する」

「そうですか、残念だ、永田、お見送りを」

全然残念そうではなくルイさんが言い、小さく、はい、と返事をする永田さん。

永田さんは、すごく優秀な部下だ、とふと、全然関係のないことを思う。





「鈴音、大丈夫だった?肩」

ぼーっとアルグラードさんが出ていくのを見ていたら、ルイさんが尋ねてきた。


「え?肩?……あ、あぁ、はい、大丈夫です。すみません」

慌てて頭を下げる。

「大丈夫?とても恐がっていたようだけれど」

遥祈さんが私の手を握り締めた。

「何故か分かりませんが、急に、寒気に襲われてしまって」
「あの男に、覚えは?」

要さんが低く問う。
怒っているようだ。

「……ありません、多分。でも……」

もう、会いたくはない。

あの感覚を思い出して、身震いが起こる。



ルイさんが、そっと私の頭を撫でた。

「ごめんね、もう、二度と鈴音の前に姿を現させないから」

細く長い指が、私の頬を拭う。




私は泣いていたらしい。











.

8ー4.ささやかな平穏を破る。




固有名詞に、一瞬だけ誰だっけと考えてしまったが、ルイさんの事だと気が付く。
ルイさんはシャルレ家の次期当主だ。屋敷の中で働いている人達は、若旦那、と呼ぶ。



「アルグラード様!困ります、勝手に!!」

次いで慌てたような声。

確か、ルイさんの部下の……。
名前が思い出せない。


永井さん?

永谷さん?

「すみません若旦那、応対しきれず……アルグラード様、この部屋には…―」
「いいよ永田、仕方ない」

永田さんだった。


暢気に私が名前と格闘し終わって、気がつくと、場は険悪な雰囲気。

「どうなさったのですか。アルグラード様とあろう方が、私室に押し入るなど」

それでもルイさんはあまり驚いた風もなく、丁寧に応対する。
アルグラードさんは、怒っていることをわざと強調しているかのような足音で、立ち上がったルイさんに歩み寄る。
つまり私の座る椅子のすぐ傍だったが、同席している遥稀さんや要さんや私に一切構う様子はない。


「……どういうおつもりかな?」
「何の事です?」

わなわな、という表現がぴったりな言葉にも、ルイさんはあくまでも落ち着いている。

「我々との取引を全て取りやめた事だ!」

どうやら仕事関係の揉め事らしい。

ああそれなら、とルイさんは何でもないことの様に答えた。

「我々シャルレと貴公ルサンチの利害が残念ながら一致しなくなった、それだけです」

何やら難しい話に突入しかけているようだ。

ルサンチというのが、この男の人の家名らしい。
聞いたことのある名前の気がして、頭の中をめぐらす。
勿論、私の脳内とは関係なしに、話は進んでいる。


「シャルレは我がルサンチの恩を忘れたということか?」

ルイさんが嘲笑を僅かに滲ませて笑った。

「ははっ、ご冗談を、アルグラード様」

「冗談だと……?」

「それは私の祖父の代のお話でしょう。既に恩は十分過ぎる程お返ししました。それを未だに振りかざす等、ルサンチの名が泣きますよ」
「……っ、庶民の成り上がりめがっ!」

何の感情の変化もなく滔々としたルイさんと、憤慨するルサンチ家の男の人のやり取り。

ルサンチという名前を検索しても、わからなかった。
とりあえず成り行きを見守っていると、遥祈さんが私の肩に手を置く。

「ルサンチという名前に心当たりはある?」

私は黙ったまま首を振る。

「天宮という名前と、ミュゼットという名前は?」
「確か……貴族の家名だと思います」

その二つの名前はピンとくる。どちらも由緒正しい貴族だったはず。

けれど遥祈さんの質問の意図がわからずにいると、遥祈さんは神妙に頷いた。


その間もルイさんとアルグラードさんの会話は続いている。

「仮にも貴族を敵に回してどうなるかわかっているのか」
「仮にも?おや、私の勘違いでしたか?既に敵ではありませんか」
「……何を……」
「私が存じ上げないとでもお思いですか?」

緊迫した空気が一層張り詰める。

「先代まで守り通して来た両家の関係を、今になって反古にしようと画策したのはそちらではありませんか」

そのルイさんの言葉に、私への質問を終え、会話を聞いていた遥稀さんが、そういうこと、と小さく呟いた。
要さんがこそっと遥稀さんに話し掛ける。

「何なんだ?何の話だ?」

私もさっぱりわからない。

ルイさんは、この西の地で、貴族ではないけれど大きな勢力をもつ貿易商の、若旦那だと聞いている。
その取引の話ではあるのだろうけれど。

「後でルイに聞いたらいいわ」

素っ気ない態度に、要さんは小さくため息をつく。

「お前、めんどくさがんなよ」
「失礼ね、その方が効率がいいだけ。それより」

遥祈さんが要さんの腕を引き、より一層小さな声で耳打ちをする。

「鈴音を出来るだけ見せないように部屋を出るわよ」

どうして見せてはいけないのか、私にはわからなかったが、遥祈さんの言葉に要さんの顔色が変わり、真剣に頷いた。

「私達は失礼致しますわね」

そう、ルイさん達に聞こえるよう言い放って、立ち上がる遥稀さん。

二人の会話が途切れる。

「あぁ、失礼をしました天宮様。別室に案内させます」

天宮様?

天宮というのは、由緒ある貴族。しかも、特に高位の。

その名をルイさんは遥祈さんに向けて言ったということは。


知らなかった。

この、私の手を優雅な笑みで引いてくれるこの人が、天宮様だったなど。

「……天宮?まさか」

ルサンチの人も私と同じく驚いたらしい。

「挨拶のないまま失礼を致しました。天宮とルサンチの間に交流はございませんが、どうぞお見知りおきを」

素敵過ぎる。

ルサンチさんはかなり動揺しているような返事をした。

「……こ、これは失礼をしました。まさか貴族の中でも名高い天宮の方がいらっしゃるとは」

急に低姿勢になっている。

「どうぞ私にはお構いなさらず。今は友人として個人的にお会いしているだけですから」
「そ、そうですか。ご友人でいらっしゃると……」


さすが、遥稀さんの振る舞いには威厳がある。

ルサンチさんは何だか圧され気味だ。


「で、では時に、そちらのお嬢様は……?」

私に注意が向くと、要さんが私の前に立ち、遥祈さんは軽く手を上げ制す。

「私の知り合いのご令嬢ですよ。とある事情で預かっているんです」

更にルイさんがさらりと答える。
記憶を失っている見ず知らずの娘だとは確かに言えないだろう。


「……そうですか……」

何かを深く考えるように、ルサンチさんがつぶやく。

「……随分と天宮様に懐いていらっしゃる様で。天宮様はよくこの屋敷にいらっしゃるのですか?」
「……それが何か?」

ルサンチさんの言葉がなぜか嫌味のようなものを帯び始めて、遥稀さんの声が固くなる。

「天宮の現当主はお忙しくなかなか帰宅されないというのは噂に聞いておりますが……」

遥稀さんを挑発しているような、そんな感じだ。

私には、ルサンチさんが何を言いたいのかさっぱりだが、場の雰囲気がかなり緊張している。

その中、要さんが口を挟む。

「天宮様、私は先にお嬢様をお連れしてます」

どこかぎこちない丁寧口調で言いながら、私の肩に手を置いて、扉の方へ誘導する。

「……ええ、そうして下さい」

遥稀さんが加わっての談議に発展しそうになったために、要さんが気を効かせてくれたようだ。

「永田、客間に」

ずっと部屋の隅に控えていたらしい永田さんは、はい、と小さく返事をした。

要さんに誘導されるがまま、歩きだす。
すると急に、思いもしない方向から手が伸びて肩を捕まれ、無理矢理振り向かせられた。


「っお前……!何故こんなところにいる!?」






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寒中お見舞い申し上げます。


お久しぶりです。

喪中なもので、新年のご挨拶は控えさせていただきます。
こんな更新ミジンコなサイトに足を運んでくださっている方々、本当に有難うございます。
今年も恐らくミジンコでありましょうが、何卒宜しくお願い申し上げます。

ちんたらなけなしの更新をささやかながらさせていただいてますので、宜しければどうぞです。


と、まぁ、堅めの挨拶はこの辺までとして。(笑)

いやぁもう、これを読んでくださっている方々、本当に感謝します。有難うございます!
創作欲には満ちあふれているのですが、何しろ時間が…。あと、携帯トラブルがまだ続いてまして……。

まぁ言い訳はよしとして。

漸く、旧サイトの物語から道筋をずらしはじめることが出来ました。大筋は変わらないんですけどね。なのでちょくちょく読んだ覚えのある文章は出てくるかと思います。
旧サイトから話を読んでくださってる方で、気持ち悪い感じを味わっていらっしゃる方がいたら本当にすみませんm(__)m

ゲームでよくあるような分岐点があり、その分岐の選択をより良いゴールの為に選び直したと思ってくだされば幸いです。

休みの間、出来る限り更新頑張ります!





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8ー3.懐かしいものを思い出す。



それは、食事の終わりがけ、会話も弾んできた時。

「え、要、じゃあビエスタンにも行ってきたの?」

要さんの仕事についての話の途中、ルイさんが珍しく興味深けに口を挟む。


ビエスタンとは、私達のいる国、『奈義・リアスタリート国』の隣の国である。

珍しく民族主義が徹底されている国で、物質の交易はあっても、人の交流がない事で有名だ。
ビエスタンの国の人を目にすることは極稀なことであるし、ビエスタンの国に入った人など更に稀であるという。


何故かそういった知識を私は誰に教えられずとも知っていた。
お医者様によると、なくしてしまった記憶は、私に関わる人間についてのものだけであり、学問や社会的知識、喋り方やダンスなどの身体的な記憶は、残っているらしい。

実際そのようで、ある程度までならばルイさん達の会話についていける。


「まぁ仕事だからな。髪染めて、目の色隠してよ」

要さんは、運び屋という仕事をしているらしい。
今までにも経験談を色々と話してくれたが、とても格好良い。違法の職業らしく、ルイさんや遥祈さんはあまりいい顔をしないが、私としては本に出てくる物語の主人公の様で素敵だと思う。



「ビエスタンの人達って、青色の髪、水色の目、ですよね?」

私が言うと、三人が驚いた顔をして私を見た。

「……よく、知ってるのね」

私は知らなかったわ、と遥祈さんが言う。

「ビエスタンはその民族主義を守るために、民族の特徴を人には明かさない。やむを得ず関わり姿を見られた他国の人間にも口外を禁じている」

だったかな?とルイさんが要さんに言う。

「あら……?」

ならば何故私が知っているのだろう。

「私、ビエスタンの人に会ったことがあるんでしょうか?」
「うーん……会ったことがあるんなら、口止めされてるはずだけどなぁ」

要さんが首を捻る。

「要は何故知っていたの?」

遥祈さんが指摘する。

確かにそうだ。

「まぁ、そりゃ、裏で回る情報ならいくらでもあるからな」

なんだかかっこいい。

「鈴音、あまり要を格好良いだとか素敵だとか思っては駄目よ」

思った傍から指摘をされる。
私はどうも感情が表に出やすいようだ。

「どうゆう意味だよ」
「褒められたものじゃないってことだよ」
「う……」

要さんが聞けば、ルイさんがバッサリと切り捨てる。

「でも、違法でも、冒険物語の主人公みたいです!ロビン・ハットとか……」

言葉に詰まった要さんのフォローをしようと言えば、三人がまたも揃って変な顔をした。

「ロビン・ハット……?」

ルイさんが不思議そうに首を傾げる。
私の好きな物語の一つだ。よく小さい頃に読んでもらった。


あれ?


誰に、だろう?



何かもやもやしたものを見定めようと頭の中で藻掻くが、やはり、思い出せない。



「ロビン・フットの間違いじゃね……」

要さんが少し呆れたように言い掛け、変に言葉を切る。

「ああ、ロビン・ハットね、懐かしいなぁ」
「弓の名手よね」

ルイさんと遥祈さんが急に納得したように畳み掛けた。

「そう、ですよね……」

もやもやのとれないまま、頷く。

すると遥祈さんがこちらをじっと見つめてきたので見返すと、言った。

「ロビン・ハットを知っているということは、きっと鈴音が小さい頃に読み聞かせてくれる人がいたのかもしれないわね」

それは、そうだ。

けれど、誰にだろう?


「はい、そうだと、思います」


忘れてしまった誰かが、もやの向こうで悲しい顔をしている気がした。

胸が、痛い。




その時だった。

急に部屋の外が騒がしくなる。
あわただしく走る音。
それを制止するような声。

乱暴にドアが開く音と、低い怒声が部屋に響き渡る。


「シャルレ殿!」





見事な金髪に高貴な身なり。
息を切らして顔を紅潮させた男の人が、仁王立ちをしていた。





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