恋人前提なルカメイルカ。
妙に長い。
メイコ視点。
「ルカー」
「…ごめんなさい、後にしてもらえますか?」
「………」
想定通り、こちらを見ないで拒否。
…ああもう、つまらない!
今リビングには私とルカだけで、ソファーに隣同士で腰掛けてドラマを観ている。
正確には、私はルカに付き合って何となく画面を眺めているだけなのだが。
チラリとルカの様子を窺うが、勿論こちらの様子に気づくわけはなく、数分前と変わらず視線はテレビに注がれている。
白いウサギのぬいぐるみを両腕で緩く抱いているのも変わらない。
ああ、やっぱり可愛い。
じゃなくて。
少しくらい構ってくれたっていいのにと思う反面、ルカのこのドラマへの熱中具合を知っているので邪魔はできなかった。
ルカがあまりに誘うので一話から一緒に観ているが、典型的な恋愛ドラマだ。
出会って、振り向いてもらえるように頑張って、ライバルが現れて…と、およそ先が読める作品だった。
それ故につい、観てしまうのかもしれないが。
私にはルカほど熱中できるような内容ではなかったのだ。
ルカも夢中になってるから構ってくれないし。
それでもドラマはもう半分以上放送を終えているのだ、毎週付き合って観ている私を誰か褒めてほしい。
じーっと見つめてみてもやはりルカはテレビに夢中で。
なんだか虚しくなって、私はうんざり顔でテレビの方へと視線を戻した。
ストーリーは後半で、主人公の女の子が想いを寄せる男の子と向き合っていた。
夜の街で二人きり、緊張した面持ちで向き合っている。
キスするな、とすぐに思い至った。
そこでふと、気になったことがある。
ルカはどんな顔でこのシーンを観ているのだろうか。
またチラリと目をやる。
やっぱり視線はテレビ一直線だったが、ウサギのぬいぐるみを少し強めにキュッと抱いて、頬はほんのり赤く染まっていた。
段々赤くなる頬は、きっと画面の向こうの二人の距離に比例してるのだろう。
ついに頬だけでなく顔が真っ赤になってウサギの顔に顔を埋めてしまった。
…ゼロ距離になったのね、画面の二人。
そこでドラマがCMに入ったことを音声で確認した。
偶には空気読めるわね、CMも。
「ルカ」
「…な、なんですか?」
やっぱりまだ顔が赤いのか、ぬいぐるみに顔を半分埋めて上目遣いで私の方を向いてくれた。
…可愛い、可愛すぎる!!
「キス、しない?」「え!?な、んで急に!!?」
驚いたのか、バッと顔をぬいぐるみから離して叫ぶように言った。
また真っ赤になってる。
「…ぷっ…!」
「え、」
「あはは、冗談よ冗談。あまりにルカが顔真っ赤だったから、言ってみただけよ」
「なっ…!!」
本当はちょっと本気だった。
からかいたい気持ちが私の心の半分以上を占めていたけれど。
「ふふふふ、」
「…そんなに笑わないで下さいよ」
ムッとした視線を送りつけているのだろうが、赤い顔では説得力がない。
照れて余裕のないルカも、やっぱり可愛い。
もう少しだけからかってやろう、という悪戯心が芽生えてきた。
「だって、毎日私とキスしてるのにドラマのキスシーンくらいで真っ赤になってるウブなルカは可愛いし…」
「〜っ!!」
「ふふ、また赤くなった」
本当に可愛いなぁ。
その純粋な反応がたまらなくて、なかなか笑いがとまらない。ふふふ、と唇から自然と漏れてしまう。
さすがに笑いすぎかなと内心反省して、ルカの方を伺った、刹那。
視界には見慣れた綺麗な顔のドアップ。
唇に甘く柔らかな何かが、触れ合ってすぐに離れてしまった。
「…ぇ、」
「メイコさんの、バカ」
そう言った彼女の表情は桃色の長い髪のせいでよく見えなかったが、またテレビの方へと向き直っている。
それに倣って画面に目をやるとドラマの続きが既に始まっていたようで、さっきの場面とは全く違っていた。
キスなんて、毎日してるのに。
なのに、なぜ今私はこんなに顔が熱いんだろう。
今度は私が真っ赤になる番だった。