2年連続で最下位だったヤクルトが、セ・リーグの優勝を決めた。開幕前、ヤクルトの優勝を予想した人はほとんどいなかったでしょう。優勝どころか最下位予想をした人が多く、私もその1人です。最下位予想する際に「評論家として忖度(そんたく)なし。仮に予想が外れても、最下位脱出したならいいや」といった思いでした。それが優勝です。最下位予想を恥ずかしいと思う気持ちはありますが、1人のOBとして誇らしく思っています。



想像以上の強さで、その強さの最前線にいたのが、村上です。1年目は2軍で結果を出し、2年目には36本塁打をマーク。そして3年目は三振を減らし、打率3割7厘。ひとつひとつ課題をクリアし、階段を上っていました。
ただ、私の中では「まだ足りない」と感じていた部分がありました。どんなに打っても、チームは最下位。優勝するチームで成績を残すのが“本物の一流”です。最下位では緊迫した試合になりません。優勝争いをする中で打ってこそ“本物”だと胸を張れると思っていました。
この“最終課題”は打つだけでは達成できません。チームが苦しいときには「防波堤」になり、勢いのあるときは「ニトロガソリン」になって、さらなる爆発力を生む存在になって、優勝しなければいけないのです。
ヤクルトの攻撃陣の「主柱」は、年齢的な部分や実績面で見ると青木でしょう。ただ、青木は攻撃的な気質は文句なしですが、気持ちの浮き沈みが激しいタイプです。もう1人は山田です。野球の実力は文句なし。しかしチームを鼓舞するような闘争心を表に出すタイプではありません。その点でいうと、村上は打てなくてもションボリせず、悔しそうな顔で闘争心があふれ出ます。打っているときでも、調子に乗ってヘラヘラしません。勝負の世界で大事な「軸」を持ち、そして“ブレ”がありません。
もうひとつ、大事な資質を持っています。2年目の春先、強烈な三塁ゴロに反応できず、打球がヒザを直撃しました。どちらのヒザだったか忘れましたが、かなり痛そうな場所に当たったと記憶しています。ベンチに帰って「大丈夫か?」と聞くと「大丈夫です」とひと言。その後、プレーを続けました。長い間、チームの主力として活躍できる選手は、例外なく体の強さを持っています。レギュラーになっても「疲れた」や「痛い」と言って休む選手は、すぐに控え選手に脱落します。
現代野球では首脳陣が気を使って休ませるのが主流です。休養して少しでもパフォーマンスを上げてくれればチームのプラスに働くため、現代野球では必要なことだと思っています。しかし主力選手が出続けると「俺なんかが休めない」といった雰囲気が出ます。毎日、試合に出続けるためには体のメンテナンスケアなど、生活面での配慮も必要です。チームにいい緊張感を与えてくれます。首脳陣が休ませたのなら、代わりの選手が活躍しても、起用し続けるわけにはいかないでしょう。度重なれば競争原理が崩れ、不平不満の元にもなります。
チームの「大黒柱」になれるような資質と気質をともに備えている選手は、なかなかいません。三塁守備も段階を踏んで上達しています。「村上がいるからヤクルトは強い」−。今年だけでなく、今後もそう言われ続ける選手になってくれるでしょう。(日刊スポーツ評論家)