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中野:(中略)日本人の賢さが裏目に出て、子賢くなっているという感じがするんです。つまり、賢い人間は、『言っても無駄』と判断するわけです。橋下市長を批判すると、ツイッターで悪口を一方的に書かれる。たいていの人間は、それが不当なレッテル貼りであっても、しつこく垂れ流されるとうんざりする。ワンワン吠えかけられても相手にしないのが普通の人間です。実は私もそういう目に遭うのが嫌で、もともとあまり関心がなかったこともあって、放っておいた。また、いろいろな知識人の方からも、相手にしないほうがいい、面倒に巻き込まれるだけだと言われ、頷いていた。けれども、そうさせるのが彼のやり方なんです。彼は、自分が批判されないように、批判をする者に粘着する。粘着して相手を黙らす。これは、トクヴィルが言ったように、武器を使わずに相手を黙らせ、民主主義を堕落させるやり方です。言っても無駄と思う人がいっぱい増えると、彼の思う壺になるんですね。もし日本人が小賢くなくて、『言っても無駄』という判断ができない愚直な人たちならば、独裁は生まれない。『わしは愚か者なので、自分の言うことに効果があるかどうかはわからん。でも、言うべきことは言うまでよ。』このような愚直な姿勢で批判をする日本人が増えれば、橋下的やり方は通用しなくなるんです。
藤井:今のお話を理論的に研究した社会科学者の代表がノエル・ノイマンです。彼女はナチスのもとで大衆煽動についての研究を行い、後にアメリカに移った。
その彼女が開発した理論が沈黙のらせん理論です。意見Aと意見Bがある。どちらが正しいかは問わない。たまたまBのほうが49対51で少し優勢だったとする。人間には同調傾向があって、多数派の意見が言いやすい時には、少数派の声は控え目になる。すると、意見分布が49対51であったとしても、49の人の声はちょっと小さくなって、51の人の声はちょっと大きくなる。結果、47対53になる。すると、47の人はさらに控え目になる。そして、次第に、40対60、30対70、20対80となり、最後は0対100になる。
このようになるのは、『少数派の人が黙るから』です。いったん黙ると、沈黙が沈黙を呼んで、らせん状に沈黙が大きくなっていく。だからこれは、『沈黙のらせん理論』と呼ばれるんですが、この理論の恐いところは、0対100になっても、もともとの意見分布は49対51だということです。黙っているだけであって、意見は変わっていない。
ところが、さらに長期的なプロセスを考えると、事態は変わってくる。沈黙のらせんが5年、10年続くと、場合によってはたった1〜2ヵ月続いただけでも、意見そのものが変わってしまうこともある。意見分布が20対80でも、20の奴の声が馬鹿に大きかったり、ものすごく強力なマスメディア装置をもっていたりすると、20の意見のほうが優勢になっていく。
例えば70万人も見るようなツイッター装置の力を借りて、少数派が世論を変える可能性もあるんです。