「はい、政宗」
「うむ」
半分近く欠けた月を眺めながら、二人で桃の節句を祝う。
私に合わせてくれているのか、最初の一口だけ桃酒を飲んで、あとは桃の果実を漉した汁を一緒に飲んでくれている恋人の杯に、桃汁を注ぎ足すと、政宗がふと微笑んだ。
「風流じゃな」
「はい。闇に白く浮かんで香る梅が、また、風情がありますよね」
「おう」
桃の節句に相応しい、穏やかで落ち着いた、静かな夜。
「あ、光秀。こっちへ来い」
「?…何です?」
ひらひらと手招きされ、政宗との距離を詰めると、ぐいっと抱き寄せられる。
「わ、わわっ!」
身体が大きく揺らめいた拍子に、全体重を彼に掛ける体勢になってしまい、慌てて身体を離そうとすると、それを拒まれ、余計に強く抱き締められた。
「ま、政宗…っ」
まさか、あの一口で酔うような人じゃないと思いながらも、酔ってます?と尋ねようと口を開くと、私がそれを言うよりも早く、政宗が言葉を発した。
「こうして、二人で楽しげに座っておると、儂等が内裏雛のように見えぬか?」
にこにこと笑って楽しげに言う政宗に、一瞬目を丸くして、でも、彼の言葉の意味を理解すると、ふふ…と笑みを浮かべる。
「…こんなに仲良さげな内裏雛は他にいないでしょうね」
「おう!儂等が今日の主役じゃ!」
「はい。私の御内裏さま」
くす…と笑って、政宗の頬に手を伸ばすと、その手が上から包み込まれ、優しい口付けが降ってきた。
「ん…っ、政宗…」
「…愛しておる、光秀」
「私も、貴方が好きです、政宗」
見つめ合い、何度も口付けあって、この幸せを分け合うように笑いあう。
今宵は桃の夜。
同じくらい、甘く溶け合うことが許される、恋人の夜。
流した厄で綺麗になった身体を、恋しい人と愛であうのも、また、いいんじゃないだろうか。
そっと押し倒され、肌を吸われながら、ふとそんなことを思った。
fin.