でてくるひとたち


ボルドーはつま先から



新しい購読者さん、初めまして。
拍手くれた方、ありがとうでした。

つづき。

ちょっとだけそういう話を。





お湯をためた湯船にゆうと浸かる。背中から抱きしめられるみたいにして、ゆうの脚の間におさまる。耳のすぐ後ろで聞こえるゆうの声がくすぐったい。

「ほんで、なにしよったん?」

「最近?特になんもしてないよ」

「ほんま?僕に会わんと、ちゃう男と遊びよったや?」

「え?なんでわかるん?」

「僕にはなんでもお見通しやからな」

ああ、懐かしい、なまった「僕」。わたしが笑ったのは、懐かしさが半分。

「お前ほんま悪い奴やな、言い寄ってくる男、誰でもええんか?」

ゆうがまたふざける。

「いや、なんで?ほんまなんもしてないから」

「あいつには会ったや?ほら、あの大学の時の悪い男」

よのもとくんのことだね、きっと。思えば本当に全然会っていない。連絡は来たけどね、忙しくってね。いつも突然だし。

「面白がってゆうてるやん。しかも会ってないし。そんな時間あったら、ゆうに会いにくるし」

「え?なに?もっかいゆうて、さっきのん」

「なんでやねんよ」

「かえ、本気か冗談かわからんからな。気になったことは確認しやんとな」

ふざけてちょっと甘いことを言ったりやったりすると、すぐ「もっかい」って言う。もちろんこっちもわざとにやっているのだけれど、スルーしてくれていいよ。言葉は見えなくって、流れてゆくものでしょう?


天井の照明を見上げて、目をこらすと、湯気が冷えて小さな水滴になって漂っているのが見えた。


このままだとのぼせるから。上がろうって言おうとして、振り返りかけた瞬間、ゆうがわたしにキスする。ねえ、狙ってやってるの?ねえ、どうしてそんなにさらっとキス、するの?

ゆうの舌が甘い。比喩じゃなくてね、甘い味がした。

上がろうって言葉はどこかにやってしまって、ただ黙った。ゆうの手がわたしの胸をなでる。

それだけで、お腹にきゅうと力が入る。思わず脚を組み替えた。すると、ゆうが言うの。

「足の爪、また赤くしてんな。いいわ、その赤、すきやわ」

って。

なんだか急にいろんなことが恥ずかしくなった。ゆうはいつもなんでもよく見てくれているから。

ゆうに会う前に塗り直した足の爪も、ゆうになでられてかたくなる胸の先も、それだけで力の入るお腹も。歳上のゆうに全部見透かされているみたいで恥ずかしい。

嫌じゃないんだけど、ね。

だって、ほら、一緒に立ち上がると、ゆうがかたくなったのをわたしに押しつけてくるから。おあいこ?


お風呂から上がって髪を乾かす間に、ゆうは先にベッドにいる。バスタオル1枚だけ巻いてそこに行くと、ゆうが布団の片方を持ち上げて言う。

「ほら、風邪引くで」

って。

ああ、いつも通りだなって改めて思うとまた恥ずかしい。馬鹿みたい。

「入りって。ぬくくしたるやん。そのタオルいらんから」

ってゆうが笑う。素直に布団に入ると、本当にあたたかくって、笑ってしまった。

ゆうの首に腕を回す。目を閉じた。


しあわせかもしれない。





11/17 00:22
ぶっくまーく






・・TOP・・


-エムブロ-