でてくるひとたち
ボルドーはつま先から
新しい購読者さん、初めまして。
拍手くれた方、ありがとうでした。
つづき。
ちょっとだけ
そういう話を。
◇
お湯をためた湯船にゆうと浸かる。背中から抱きしめられるみたいにして、ゆうの脚の間におさまる。耳のすぐ後ろで聞こえるゆうの声がくすぐったい。
「ほんで、なにしよったん?」
「最近?特になんもしてないよ」
「ほんま?僕に会わんと、ちゃう男と遊びよったや?」
「え?なんでわかるん?」
「僕にはなんでもお見通しやからな」
ああ、懐かしい、なまった「僕」。わたしが笑ったのは、懐かしさが半分。
「お前ほんま悪い奴やな、言い寄ってくる男、誰でもええんか?」
ゆうがまたふざける。
「いや、なんで?ほんまなんもしてないから」
「あいつには会ったや?ほら、あの大学の時の悪い男」
よのもとくんのことだね、きっと。思えば本当に全然会っていない。連絡は来たけどね、忙しくってね。いつも突然だし。
「面白がってゆうてるやん。しかも会ってないし。そんな時間あったら、ゆうに会いにくるし」
「え?なに?もっかいゆうて、さっきのん」
「なんでやねんよ」
「かえ、本気か冗談かわからんからな。気になったことは確認しやんとな」
ふざけてちょっと甘いことを言ったりやったりすると、すぐ「もっかい」って言う。もちろんこっちもわざとにやっているのだけれど、スルーしてくれていいよ。言葉は見えなくって、流れてゆくものでしょう?
天井の照明を見上げて、目をこらすと、湯気が冷えて小さな水滴になって漂っているのが見えた。
このままだとのぼせるから。上がろうって言おうとして、振り返りかけた瞬間、ゆうがわたしにキスする。ねえ、狙ってやってるの?ねえ、どうしてそんなにさらっとキス、するの?
ゆうの舌が甘い。比喩じゃなくてね、甘い味がした。
上がろうって言葉はどこかにやってしまって、ただ黙った。ゆうの手がわたしの胸をなでる。
それだけで、お腹にきゅうと力が入る。思わず脚を組み替えた。すると、ゆうが言うの。
「足の爪、また赤くしてんな。いいわ、その赤、すきやわ」
って。
なんだか急にいろんなことが恥ずかしくなった。ゆうはいつもなんでもよく見てくれているから。
ゆうに会う前に塗り直した足の爪も、ゆうになでられてかたくなる胸の先も、それだけで力の入るお腹も。歳上のゆうに全部見透かされているみたいで恥ずかしい。
嫌じゃないんだけど、ね。
だって、ほら、一緒に立ち上がると、ゆうがかたくなったのをわたしに押しつけてくるから。おあいこ?
お風呂から上がって髪を乾かす間に、ゆうは先にベッドにいる。バスタオル1枚だけ巻いてそこに行くと、ゆうが布団の片方を持ち上げて言う。
「ほら、風邪引くで」
って。
ああ、いつも通りだなって改めて思うとまた恥ずかしい。馬鹿みたい。
「入りって。ぬくくしたるやん。そのタオルいらんから」
ってゆうが笑う。素直に布団に入ると、本当にあたたかくって、笑ってしまった。
ゆうの首に腕を回す。目を閉じた。
しあわせかもしれない。
△ ・・TOP・・ ▽