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アンソロジー空 am感想 その2(小説編)

「朝焼けの人形」
無機質でどこか機械的な人たちの住む空間。にんまりと笑う男と少女のわずかな時間の冒険ですが、ほこりっぽい空気、冷たい地面、太陽の光とはおおよそ似ても似つかない天井の電球の明かりなど、二人の足音や淡々とした口調と共にその世界を体感していく。最後の解放感から男の瞳へ一気に集約していく部分に清々しさと一抹の不安もちょっと感じたり。

「空を巡る、ひと夏のおもい」
ある夏の兄妹の十日間に現在と過去と未来が集約されていて…物語がこうカーブを描くように動いていく。そこで一番、勢いがつくのが二人の移動の場面なんですよね。飛行機、電車、車、そして、という。父親と同じ空の下で歩んでいく。始めはふわっとしていた父親への感情が次第に固まっていくのが、見ていて気持ち良かったです。

「焦がれた空が呼ばう」
うちの近くのコンビニに生ハムクリームチーズサンド売ってないので、これは作るしかない…猫も飼っているといい、これはかずらさんとお近づきになりたいわと思いました。先生との軽口、猫との軽快な応酬を聞いているととても楽しげに見えるのですが、そこに潜む曇り空。呼ばう空とは。さらりと書かれた容姿の違いに核心があるんだろうなあ。

「星の中の空、星の外の空」
色鉛筆で沢山の細かい線を使って描いているような。様々な星の情景がとても綺麗。何気ないある一日の出来事ですが、ある人は夢を込めて、ある人は後悔を込めて空を見上げ、それを眺める運転手の穏やかな佇まい。そうなるまでに至った道は酷ですが、それでも真空の空を悲劇的なものにしなかったのは彼の優しさだろうと思いました。そう、優しい物語です。

「都会の空は今日も狭い」
世の中狭いんだよ、という言葉を思い出しました。いえ悪い意味ではなく。こうして転校した先で同じ世界を見つめられる仲間に出会えたというのは、彼女が感じていた不安ほど世の中茫漠として寒々しいものではないんだよ、と諭してくれるような感覚。何事も背中合わせ、肩を並べたところにいるもの。今日も狭い、と彼女が笑って言っているように聞こえました。

「SONATINE BREVE」
極光文字と書いてオーロラコードと読む…そのルビふりが出っぱなからツボでしたが、読み進める内に言葉の妙を使ったすれ違いや応酬などが出てきて面白かったです。喧嘩をしていたと思えば英語とロシア語、記録を取る上での言葉のあやの修正など。断片が繋ぎ合わさって、彼と彼女のコンビが何を追い求めているのかが少しずつわかっていく。空は物語の真ん中ではなく、舞台として詳細に語られなくとも存在感を持つもの、という感覚でした。物語としても面白いんですが、言葉の連続としても面白かったです。だからこのタイトルなのかなと。田鳧を覚えた。久しぶりに漢和辞典を開いたよ…でもこうして文字の意味を辿りながら読むのがこの物語なのかもしれないとか。

「天使の降りてくるところ」
なんて素敵な先生なんだ…自分の担任だった先生を思い出しました。しおりちゃんにとっては初めての理解者。その存在感は体格含め大きなものだったと思います。でも今は一緒になって考えて泣いてくれる友達もいる。天使の梯子は連れていってしまうものでもあり、彼女の下へ降ろしてきてくれるものでもあったのだろうなと。

「それはただ、空へ向かうだけの」
詩的だなあと思いながら読み始めたらふいに呼び掛けられて、ぐっと自分も舞台へ入り込む。その後はまるで歌を聞きながら絵を眺めているようでした。誰かの歌、もしくは「あなた」の歌。それを眺めている自分がいて、改めて物語の中で語られる風景を綺麗だなと感じているのです。不思議な感覚でした。

「なの花色のランプビーズ」
ガラスの中で夜が明ける。この一文が好きだったのでまずそこを。郁さんにとって空の思い出は宝物のようなもので、その宝物を織り込むように作られているのがとんぼ玉なのだろうと思いました。近眼の魚、群れる魚、これは自身のことを思い返していたのかな。木塚さんとの交流で何かが開け、タイトルのランプビーズが暖かい色で揺れているような。できれば、それは例の銅像の側で。

「雨が好きだと、泣くきみへ」
宙ちゃんの小気味よい感じが好きだなあ。テンポよく晴太郎くんをこきおろすシーンが好きです。天音ちゃんが元気なシーンなどはきっと曇り空なんだろうけど、この三人が話しているだけで私にはとても鮮やかな世界に見えました。例の雨合羽を着て楽しげに飛ぶ天音ちゃんを早く見たいですが、晴太郎くんの心の準備が間に合うのか(笑)そしてそこに宙ちゃんは絡んでこないのか!今後が楽しみになる三人でした。

「その部屋は時を止めた」
山から湖に向けて吹き降ろす風を感じ、その向こうにある空を見上げて、この舞台となった湖の側で読んでいるような気持ちでした。透き通った物語。アイベクさんとマリーさんの再会あたりからその透明度が更に増した気がします。描く空はどんな色。そこに彼の心があって、その色にこそ未来が潜んでいたんだなと。部屋の時間が動きだした時、二人の時間もゆるやかに繋がって動き出していく姿が凄く素敵でした。そして関係ないけどタイトルをどうしても「その時歴史が動いた」と空目してしまう…すみません…

「ヨミゴト」
はー読みやすい。すごく読みやすく、すらすらと文字が入ってくる。元々の言葉のテンポがいいんだろうなあ。そこへイサメの軽快な笑い声と、カナタの訛りまじりの無骨そうな声が混じって、すごく楽しい。山の匂いや雨の音、カナタがはまった泥の冷たさなど、風景がとても色鮮やかでした。どこかにあった昔話の一端を紐解いたような、ただしその色は極彩色で、懐かしさと鮮やかさが眩しい。守られていくものの温かさ。

「戀と残照」
読んでいるこちらまで奏さんにエスコートしてもらっているような気持ちになるのですが。やべえときめく。奏さん自身の色もそうなのですが、作中に出てくる色がとても綺麗でした。茜色、橙色、真っ白、藍色、水色、赤色…他にもあったかな。文で追うごとにまっさらだった風景へ絵の具で色を落としていくように、広がっていく。鳥の飛ぶ光景が現れるごとに結末悲しいことにならないじゃろかと不安だったのですが、読み終わって「良かった―!!」とほっとしました。良かった。

「或いはひとつの門出」
読み終わってから、これ「可能性」を示唆した題名なのかなあとか…。真綿でくるんだような不安を終始感じながら読みました。その人の空とは、見えてしまったら、見えているものは。それを外側から見つめるだけというのはしんどい一方でどこか寂しい。真綿でくるんだ不安を手の上で転がしていたら、不意に中から何かで刺されるような終わり方でした。いい一撃。

「蒼穹に、真実の祈り響いて」
レオノールの透明感がいい。巫女だからというのもあると思いますが、無垢な心というか眼差しを通して見る「彼女の国」はとても綺麗でした。風景も建物も人々も。ただし引っくり返ってみればまた別のもの。その先で仰いだ空の方が色味を増して、より人間らしい暖かさを伴って見えました。アンクレットの音、風が響いて鳴る音、コンドルのはばたき…音が印象的だったなあ。

「パイドームの中の砂糖菓子たち」
冒頭読んでいてパイドームってこれか!と膝を打ったら、最後でマジか!?となりました。おおおこれは独特の世界観…童話というには甘すぎず、物語というには辛すぎず、色んなものが絡み合った複雑な甘さ。あ、チャイのような。スパイスもちょっときいています。飴で出来た空とかパイドームとかものすごく見てみたいですけど、最近甘いものが食べられるレベルになった身としてはまだまだハードルの高い世界だ…外からなら見れるか…。

「In New Heaven」
こちらも微かな不安を覗かせるお話。先の「或いは〜」が真綿でくるんだものなら、こっちは厚手の皮がめくれてむき出しになる不安というか。隠されもせず誰もが感じるものだけど、誰もが積極的に口にしないもの、もしくは諦めたもの。この中でお父さんが一番、人間らしさを感じるかなあ。セイジはハクアにとってこの世界を肯定できる存在だったんだろうか。とするとあのボタンを押したことでそれは揺らいだりしたのかなとか、色々考えましたがお父さんを送った姿に不思議と何かを納得したような雰囲気を感じました。

「雷来竜笑」
ああ、この文章好きです。波打つような言葉と現実と幻想の数々。タケダの登場の仕方と話術と予定表(笑)あちらの世界も色々だなあ。雨や嵐を起こしていく道中の風景や。高度を上げるごとに透明度と寒さを増していく光景など、ものすごいよくわかる。その先でふっと思い出すその瞬間、タケダの言葉がしみるなあ。重いからこそ飛べる。この先、雨がふるごとに「笑う」雷の音を楽しみにしてしまいそうです。

「空中散歩劇場」
もっっのすごく視覚的に面白かったです。始まりはいつも突然に。日常の風景から幻想の世界への入り方がジェットコースターのようでした。次から次へと見たことのないものが飛び出してくる面白さ。空のかきわりと、ワゴンと、土星頭と、文字そのままに落ちてくる月と。飛び出してくる物の色彩や形や音はどれも活き活きとしているのに、そことなく漂う不穏の色。最後、その正体がわかってからもう一度冒頭に戻って読み返してみると、最初に感じた面白さとはまた違うものを感じられました。

「もう一人のメアリー」
モノクロの世界から始まるんですが、不思議とそれ以外の色も感じるような世界でした。メアリーを通しているつもりが、自分の視覚を通して読んでいたからかなあ。彼女たちの星や砂や海はどんな色をしていたんだろう。鯱だけは彼女たちと同じ認識で感じることができそうで、そこが物語の窓口になったような。”いろんな「ありうる世界」が空を見ることで「たった一つの世界」に絞られる”の一文が、二人のメアリーの存在とひっかかってくる。触れたことのない学問の扉の前でうーんと唸りながらちょっと開いてみようと思えるお話でした。あと出てくる人間の絶妙なエグさが好きです。

「God replica」
青い空と草の匂いと、暖かい風がずっと吹き寄せてくるようなお話だなあ。イサルを通して見る彼女の世界はそれほど辛く苦しいものではありませんでした。焦りと切望の中でもがきながら、それでも求めずにはいられない空の美しさ。ミーシェはその表れのようにも思えました。素直にも純粋にも寛大にも蠱惑的にも誘う空のもう一つの形。空へ飛びこんで、そして受け止めたミーシェによって解放されたイサルの、すっきりとした顔が浮かぶようでした。出来れば、二人で飛ぶ空を見てみたいです。

アンソロジー空 am感想 その1(イラスト編)

「青空日和」
絵の半分ほどもある青空を見ていると、ここはきっと高原なんだろうな、穏やかで涼しい風が吹いているんだろうな、と色んな想像が巡ります。天高く、突き抜けて青い空。その下で笑いかけてくる女の子の笑顔も青空日和なんですね。背景にある風車や舞い散る花びらが綺麗。

「むかしのはなし」
無彩色の中にいる男の子と女の子。そして女の子が背負う歪なもの。見えないけど男の子の方にもあるんだろうかと。その二人が覗きこむのは窓なのか、はたまた映像なのか、どちらにせよ二人には遠い世界のものなのでしょうか。むかしむかし、と語りながら眺めるにしては眩しすぎる青空だなあ。

「煌めく展望」
この空から地面にかけての色のくすみ方が好きです。これぞ空気の層の色。明るく柔らかな色と絵の中で、顔を向こう側にむける彼女の希望と不安たるやどんなものか。どんな表情でどんな気持ちで飛行機を見ているのかなあ、でも大丈夫そうかな。光が空から彼女に向かって降ってくる。それなら、と安心して見送れる気持ちです。

「暗雲」
この綺麗なお姉さんのどこに!?と思ったら遥かに見える雷の筋。下方はピクセルが崩壊していくような。よく見れば王冠にも不穏な形と色。これ雷様よりも怖いやつなのでは…笑顔で怖いやつなのでは…とガクブルしながら見ていましたがやっぱりお姉さん綺麗です。あとお名前のサインが耳飾りに見えてかっこいい!と思いました。

「SKY COLOR」
中空から舞い降りるように「夜」から「夜明け」、そして「昼」から「夕暮れ」の空がやってくる。それぞれの色をまとったそれぞれの彼女たちに、それぞれの時間の物語がありそうな予感。あちらこちらを向く顔や表情も合わさって、その「空」のような性格でいそう。個人的には元気そうな「昼」の彼女のお話を見てみたいです。

「情空 旅模様」
私の知っている切り絵は新春のあれで(いやあれも凄いんですが)、それとはもう別世界のものが広がったー!な驚きでした。つまんでいる手は狐なんだろうか…滴る水のような雨降りの光景のような、いやしかし背景は青空…これは狐の嫁入り?と妄想が尽きることはありませんでした。人間すごいというかからつきさんがすごい。

「流れ星はどこだ」
こういう配色センスは自分にないなと眩しいものを見る思いです羨ましい。流れ星を探しながらも、いや待て、背景の月や星はがっつり縫い止められているじゃないの、と、そうするともうこの絵の枠を飛び越えた所に世界観が広がるのかなあと。あるかないかもわからない流れ星を探す旅路を、自分なりに楽しんでいそうな雰囲気。

「雲掴みの民の天空信仰」
これセンターに題名入ってここから物語始まるんですよね!!!と新連載の期待感200パーセント。六人がそれぞれの背景を背負い、その核心となる部分でもって六人は重なっていくのかなあとか。猛禽類を思わせる翼や手足が大変に好みでした……難しいんだよ……

「透過、響くは星茫(きみ)の音」
天を仰ぐような表情は穏やかで笑顔にすら見えるのに、何かをなくしているような喪失感。手に持つのは残ったものなのか、それともやっと手に入れたものなのか。脱げた靴、敗れた羽、その下に見える足は片割れのもの?と思いましたが、実はこの子自身のものだったり、とも考えました。

「空色キャンバス」
さて次はどんな空を、どんな色で、どんな風に描こう、と楽しそうな雰囲気でもありますが、どことなく絵を描いている女の子には寂しさも感じつつ。描いているこの子自身が、描いた空の所へ行きたいんだろうか。描いた空の数だけ希望がどんどん膨らんでいくような瑞々しさです。

「天空(そらから)の使者」
タイトルの読みにぐっと惹かれました。それを最初に言いたかった。鳳凰を思わせる大きな鳥、そのモフモフ感…神々しさと羽毛の気持ちよさと…しかし手前に見えるのは瓦礫でしょうか。そして鳥が一本足のように見えるのですが、瑞兆のようにも凶兆のようにも見えてしまう。絵の中の子は何を思ってこの鳥を迎えているんでしょうねえ。

「空想少女」
きりっとした眉に大きな目、きゅっとしぼった口に黒い髪。空想少女、というかわいらしい語感の中に収まりきらない女の子のインパクトの強さ。横顔がかっこいいです。あ、空想とはそのままではなく「空」を「想」うということでしょうか。耳に揺れる飛行機のピアスが決意表明のように見える。

「 「僕へ」 」
あ、これ社会人や大人にささる絵だと思いました。私はぐっさりきた。スーツに仕事鞄に…その向こうに広がるオーバーザレインボー…うっ心が痛い。ひとしきりささった後はデトックスのように清らかな気持ちになれる絵でした。あの紙飛行機には何か書いてあったのかなあ。辺りに舞うのは何回もトライした紙飛行機の後なのか。染みる。

たまに読み返すと

自分も色々考えて悩んだことがあったなあ、はっはっは。……いやまあ、これからもあるでしょうがね。
ちょいちょい呟いていってすっきりできればいいやなぐらいに眺めています。

というわけで節分でした。あと空アンソロ午前便が読み終わったので、感想あげられると思います。
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