話題:妄想を語ろう

「そういえばさ」

 大剣を構えたままそいつが思い出した様に口を開いた。人里に物の怪が出るという噂を聞いて、わざわざ退治しにこんな辺鄙な所まで乗り込んで来た物好きな女だ。

「あんた“なんなの”?」

 女の問いに僕はローブの端を摘まみ恭しく礼をして見せた。

「――見ての通り、ただのか弱い美少年だけど?」

「冗談。ただの人間がそんな“臭い”ワケないでしょ?」

「良いだろう? 元はお前ら人間の血(マナ)で咲いた花達だ」

 言いながら辺りに咲く色とりどりの花達を見渡す。あまねく世界の花々を一つ一つ集めて回った僕の大切な仲間達だ。痩せたこの土地で咲かせるには少々……いや、かなり骨が折れたが。

「なるほど。死の大地に花畑があるなんて頭のイカれたやつの妄想だと思ってたけど、そういう絡繰りだったってことね」

「栄養に適した餌を見つけるには苦労したよ」

「なんでも良いわ。敵よ、あんた」

 言い切って、女が大剣を振りかぶり突っ込んで来た。それを躱して、くるり。片手で弄んでいた傘を開き術を発動させる。

「――な!?」

 吹き荒れる風に花弁が舞い上がる中、女が大きく目を見開いたのがわかった。傘を差してにっこりと笑いながらひらひらと空いた手を振る。

「残念だけどお前と戦う気はないんだ。人間は下界にお帰り」

「――ちょ、待ちなさ……――」

 花嵐が強くなりその声は次第に聞こえなくなった。
 きっとあの女は自身に何が起こったかすらわからないだろう。かつて存在した魔術ですら人間達の中からは消えてしまった。世界から魔力の源が消えたあの日から、もうどれだけの年月が経ったのか、数えるのも厭になる。
 人間からも世界からも置き去りにされた僕は、それでも同胞(はらから)達と生き続けるだろう。いつか朽ちるその日まで。

「……ねぇ、そうだろう? “  ”」

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