夢の女。

あのよ

この季節になると決まって同じ夢を見るんだ

髪を結った鮮やかな着物を着た女

その女がさ、えらい別嬪でね
こっちをジッと見てるんだ

まるで何かを訴えてるかのように

でな、話は変わるんだが実はな俺達の先祖はどっかの城の主らしいんだよ

で、それがどうも女らしくてね

俺はなこう思うんだ

夢に出てた女は先祖の霊ではないか…ってね。

きっと未だに成仏できてねぇんだろうな

ま、俺なんかの夢に出たってどうにもなんねぇんだけどよガハハハ

と叔父さんはでっぷりと太った腹をバンバンと叩きながら豪快に笑った

アレから二十数年、あの豪快に笑う叔父さんも老衰でとうとう亡くなった

いつからだろうか

お盆に入ると毎年決まった夢を見るんだ

黒髪に髪飾りを飾った鮮やかな着物を着た女が…

(笑)

楽しいな♪
楽しいな♪

僕の頭の中はいつも音楽が流れてる♪

こっちでクルクル
あっちでクルクル

あ!

この曲は昔流れてたバンドの歌だ!

こっちでは最近売れているアイドルの曲!


楽しいな♪
楽しいな♪

皆に僕のこの楽しさを分けてあげたい!

だからねぇ、看護士さん。
いい加減僕をこの部屋から出して?

逃亡者

ごめんなさい

ごめんなさい

私は逃げる

いつでも逃げる

過去に犯した過ちから

あなた達から

自分自身から

嗚呼ごめんなさい
嗚呼ごめんなさい

ボロボロになり自分で自分を殺したくなりどうしようもなく無様で情けなく負け犬の私を貴方は手を差し伸べた。

だけど

その手さえ払おうとしている私はやはり私をいつか殺さなければいけないんだと
考えにつきました。

しかし

いざ死のうとしても怖くて怖くて足がすくみ椅子ごと尻もちをつきました。

貴方からも逃げ死からも逃げ自分自身からも逃げ、逃げて逃げて逃げて逃げて…

私はどこに行くんでしょう?

白い階段


その女の子は頼りなくか細い手で手摺に掴まり跨いだ

ここは8階立ての団地の最上階。

地上には楽しげにはしゃぐ子供達の姿

少女はその光景を見て微笑んだ。

そして静かに息を吸い空を仰いだ

真っ青な空の下、手摺に掴まり片足は宙に投げ出し口ずさむ歌は昔母から習った子守唄。

ふと、地上にいる幼い男の子と目があった

少女はその子に微笑みかけた。

事情を知らない男の子は同じく微笑みかけ手を振り近くにいる母親に指指した

そばにいた母親は自分の息子が指差す方に上を向いたら…










少女はそのまま地上に吸い込まれた



殺意

またフラッシュバックだ…

眠剤飲んでも寝付けない

アレからどのぐらい時間が経ったんだろう…

カチカチカチカチ…

耳をすませば時計の針が進むのが分かった

カチカチカチカチ…

暗闇の中、やけに響き渡る音

私は中々寝付けない事にイライラし気分転換にキッチンに向かった。

グラスに水を注ぎそれを一気に飲み干すと隣の部屋から響き渡るイビキに私は眉を顰めた。

いい加減にして欲しいものだ…

この呑気な寝息を聞いて私は夜中だってのに盛大なため息をついた。

この人のおかげで私達は今までどれだけの苦労をさせられたか。

思い返せば思い返すほど腹立たしくなってきた

ふと視線の先に見えたのは食器棚。
その食器棚の手前にある引き出しを開け包丁を手にした私は盛大なイビキをかく同居人の寝室の襖を開けた。

だらしなく空いている口からごうごうと寝息をたてでっぷりと太った腹はまるで刺してくれと言わんばかりに肥えている


この人を殺したら私はどうなるんだろう


その疑問を頭に覚えつつも手は勝手に包丁を握り直した

そして刃先を下に向け思いっきり突き刺した




ザクっ…





そば殻が入った枕には羽毛など飛び散らず刃先の数センチ隣はヨダレを垂らした同居人の間抜けな寝顔だけだ。


まだ寝ている…


呆気にとられる私。


仕方なしに抜いた包丁を見つめもう一度包丁を握り直した。が…
この男の為に自分が犯罪者になるのはバカバカしくなった。


ジリリリリリリリリ!


時刻は6時。
けたたましい目覚ましの音に皆が起きてゆく。

先ほどまで自分が殺されるかも知らない男が呑気な声で、自分を殺そうとした人間に声をかけた。

「おはよう。xxx」


私「おはよう。xxx」


こうして私の新しい朝が始まる。









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