ある、あさのはなし(アノリミアss)


「…」
君は今日も、夜が西の空へ去っていくのを見守っていた。夜は長く君のそばにいて、朝が来るのを恨めしそうに黒い裾をのばしていた。
君の隣にはふじのぶが、子猫のように丸くなって眠っている。
君は、ふじのぶの丸まった体が小さく上下するのを確認して、紺色の空にぽつんと浮かぶ明の星を見た。ダイヤのようにきらきらと、孤独に光る明の星。
「ひとつ…」
急に君の心は暗闇の雪原に放り出されたように冷たくなって、怖くて怖くて堪らなくなった。
ガタガタガタガタ
自分を強く抱きしめ、腕に力いっぱい爪を立てた。そして、引っ掻く。
引っ掻く、引っ掻く、引っ掻く。
肩は鬱血し、薄い皮膚の腕から血が流れた。
「う、ぅ、うう…」
膝におでこを擦り付けて、声を押し殺して泣いた。
ごめんなさい
そう、言葉が漏れた時、君の背を優しい温い愛しいものがふわっと触れた。
「げん、だいじょうぶよ」
開け方の南の空に浮かぶ雲のように、ぼんやりとした声。たけど、確かな安心感のある声。
「…ぶ…のぶ」
君は、布団から身を起したふじのぶのほうへ振り返ると、胸いっぱいに息を吸い込んで、迷子の子供が親を見つけた時のようにぎゅっと、ぎゅっと、抱きついた。そしてポロポロ、ポロポロ涙を流した。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい…」
「痛かったやろ。なんも悪くない、なんも怖くない、だいじょうぶよ」
ふじのぶは、うまく呼吸のできていない、ガタガタ震える君のやせ細った背中を優しく優しく撫で続けた。


いつの間にか、空は明るくなっていて、明の星は天色の空にとけていた。
部屋に差し込む朝日がふたりを包む。
「ひとりじゃないよ」
ふじのぶは、優しく囁いた。
君はその言葉を揺りかごに、ゆっくりと眠りについた。


ある朝の話

*Hug !comm0
ちいさなお話*11/15 10:41
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