昨日が天使の日だったのにうちの天使代表主人公のフィアをかけなかったのが心残りだったので。
フィアとシスト、アルという久しぶりの三人でのお話。
少し短めですが、書けて満足です。
フィアが天使として認められなかったのは兄が注いだ魔力の所為。
それは本来忌むべきものだが…というお話。
色々詰め込んで書いたのでとっ散らかった感はありますが、三人とも大好きなので、書けて満足です。
ともあれ、追記からお話です!
「フィアって、天使なんだよね?」
唐突なその言葉に、休憩のためにと淹れたコーヒーの入ったカップを持つ手が滑りそうになった。
実際、隣でコーヒーを啜っていたシストは小さく噴き出し、咳き込んでいる。
それを横目に小さく咳払いをして、フィアは発言者……自分の親友のアルを見た。
彼の性格的にあり得ないとは思っていたが、からかうような表情ではなく、真剣そのものといった表情だ。
いきなり何を、と言いたいのを飲み込んで、フィアは小さく頷いた。
「……一応な」
「でもあんまりその姿見せないよね」
重ねて、アルはフィアにいう。
それを聞いて彼は幾度かサファイア色の瞳を瞬かせた。
それからことり、とカップを置く。
コーヒーの水面がゆらりと揺れた。
そこに映りこむ、自身の姿。
それを暫し見つめた後、フィアはいった。
「俺にとっては別段見せつけるようなものでもないんだ。
そもそも俺は自分が天使の血を引いていることを少し前まで知らなかったわけだし……」
そういって、フィアは少し困ったように微笑む。
シストはそれを聞いてふと声を漏らした。
「確かに、そうなのか」
確かに、フィアは天使の能力を有していることをつい最近まで知らなかったのだ。
ただ自分は強い魔力を持っているのだな、と思っていただけで。
そのことは、シストも聞いている。
フィアは彼の言葉にこくりと頷く。
そして、少し微笑みながら、いった。
「勿論必要があれば力も使うし、天使の姿にもなる。
……だが、そうならないことを祈るばかりだな」
フィアはそういって苦笑を漏らす。
シストはそれを聞いて少し驚いたような顔をした。
「どうしてだ?やっぱり厭か、その姿見せるのは」
天使の姿。
それは確かに、異質なものだ。
それに、フィアにとっては"捨て去った"女性としての姿なのである。
もしかしたらそれが嫌なのだろうか、とシストは思ったのである。
しかし彼の問いかけにフィアはあっさりと首を振る。
そして少し迷うようにサファイアの瞳を伏せた。
「そうじゃなくて……何というのだろうな」
そう言いながら彼は指先で亜麻色の髪を弄ぶ。
暫し言葉に悩むように口を噤んでいた彼だったが、やがて顔を上げて、シストとアルを見た。
「……俺が天使の力を使わなければならない状況、というのはつまりそのくらい危険な状況、ということだろう。
そうした状況に俺一人で陥るとは考えにくい。
……お前や、他の仲間たちが危険な目に遭うのはもういやだ」
そんな彼の言葉は、声は、切実なものだった。
未だにくっきりと覚えている。
自分が攫われ、それを助けに来た仲間たちの姿。
どんなに傷ついても諦めず、自分を救いだそうとしてくれた。
きっと、あの場で誰かが命を落としたとしても、きっと彼らはそのまま自分を助け出そうとすることを諦めなかっただろう。
それは嬉しかった。
嬉しかったけれど……怖かったのだ。
目の前で誰かを失うのではないか、と。
守るために騎士になったのにそんなことは嫌だ。
そう思いながら、彼らを助ける術を考えて……彼(フィア)は、天使としての力を使うことを選んだ。
またあの姿を晒すということはつまり、あの時と同じような状況に陥るということ。
それは、もうごめんである。
フィアのそんな言葉にシストとアルは一瞬言葉を失った。
しかしすぐに、優しく微笑む。
「そっか」
「やっぱりフィアは優しいね」
アルはそういって、屈託なく笑う。
手放しにかけられた褒め言葉にフィアはさぁっと頬を赤く染める。
「な……何を、改めて」
少し上ずった声で、彼は言う。
くすりと笑って、アルは黄色の瞳を細める。
「そう思ったからさ。
ちゃんというべきことはいう時に言わなきゃいけないなぁって、僕思ったんだ」
そう言いながらふんわりと微笑む彼。
フィアはそれを聞いて大きく目を見開く。
シストもふ、と息を吐き出して、いった。
「はは、確かになぁ。
この国が平和だから忘れそうになるけど、本来騎士ってのは平和な仕事じゃあないからな」
それはきっと、騎士という仕事の危険性をよく理解しているシストだからこその発言だ。
相棒を任務中に亡くした彼だからこその……
フィアはそれを聞いてゆっくりと瞬きをする。
それからゆっくりと頷いて、いった。
「……そうだな」
確かに、今のこの幸せは約束されたものではない。
明日にも一人欠けること、自分が死ぬことだって十分に考えられる。
……そう思うと、この平穏が心地よく、かけがえのないものだと、改めて感じられた。
そうだ。
そうなのだ。
自分が此処にいられるのは、奇跡か。
フィアはそう思いながら、手近にあったミルクピッチャーを手にとった。
指先でそれを暫し弄んでから、真っ黒のコーヒーにそれを注ぎ入れる。
真っ白のミルクがコーヒーに混ざって、淡い色に変わっていく。
「それに、俺はもう純粋な天使ではないからな」
その様を見つめながら、フィアはいう。
そして顔を上げると、二人の友人に微笑みかけてみせた。
「天界に受け入れてもらうことも出来ない異物さ。
まぁ俺としては、天界にいるよりも地上(ここ)で皆と過ごす方がす……性に合っているから」
好きだ、と言いかけたのは飲み込んで、フィアはいう。
しかしその頬の赤さで、彼が言おうとしたことはアルにもシストにも伝わっている。
彼らは顔を見合わせると、微笑ましげに照れ屋な堕天使の姿を見て笑ったのだった。
―― 滲む色さえ… ――
(ごくごくわずかに混ざった、堕天使(あに)の魔力。
それに感謝することがあろうとは、思いはしなかったがな)
(仲間と共に過ごす日々を手に入れられたと思えば、幸福なもの。
例え天使としての地位を手放そうとも、俺は俺なのだから)