ぴぴぴぴぴ……無機質な電子音で、フィアは目を覚ます。
幾度か蒼い瞳を瞬かせた後、彼女はベッドの上に体を起こして、目覚まし時計を止める。
沈黙したそれをちらと一瞥すれば、いつも通りの時刻。
ふうっと一度息を吐いて、彼女はベッドを降りた。
カーテンを開ける。
射し込む光は眩しい。
それに少し目を細めてから、フィアは一度伸びをして、着替えた。
学校の制服に着替える。
学校の時間割り通りに荷物は用意してあるし、朝食を食べて出るだけだ。
そう思いながらフィアは部屋を出た。
早い所朝食の用意をしなくてはならない。
それから……"毎朝の日課"も。
とりあえずトースターにパンを二枚突っ込んで、スイッチを入れる。
フライパンに火を入れて、卵とウィンナーとを焼いたところで一旦コンロの火を消して、もう一度二階に上がった。
そして向かったのは彼女の部屋……の隣、兄の部屋だった。
ためしに軽くノックする。
……予想通り返事はない。
やれやれというように溜息を吐き出したフィアはドアを開けた。
ベッドで丸くなって寝ている兄。
すやすやと穏やかな寝息を立てている彼を見て、フィアは呆れたように溜息を吐き出した。
大分寒さは和らいで来たのだが……
この兄は如何せん、朝に弱い。
起こさずに放っておいたら間違いなく、昼まで寝ているだろう。
……故に、毎日彼を叩き起こすのがフィアの日課になっているのだった。
「おい起きろ」
そう声をかけて、軽く彼の肩を揺さぶる。
しかしもぞもぞと身じろぎをしつつ、フォルは布団に潜ってしまった。
「んぅ……あと十分……」
「……ほう、永眠したいか」
そうかそうか。
そういうと同時にフィアは足を振り上げる。
蹴り上げる構えに入った彼女の様子に気が付いたのか、フォルは目をあけた。
「あぁもう、ちょっと待ってよ……あんまり足あげると、下着見えるよ」
「っ、しばき倒すっ」
かぁっと顔を赤く染めたフィアはそう叫ぶ。
問答無用で蹴りを入れようとしたフィアだったが、それより先にフォルが体を起こした。
くあ、と呑気に欠伸をしながら彼は苦笑して、言った。
「冗談だよ、ふぁ……朝ご飯出来た?」
「……一分以内に降りてこなかったら知らん」
フィアはそういい捨てると足音も荒く部屋を出ていってしまった。
フォルはそんな妹を見送って笑う。
本当にせっかちなんだから、などといいながら、フォルも制服を身に付けたのだった。
***
身支度をしてリビングに行くと、既に朝食の用意が完全に終わっていた。
フォルは目を細めた。
「流石だねぇフィア」
「……願わくばもう少しすんなり起きてくれた方が助かるんだがな」
そう呟くフィア。
フォルはくつくつと笑いながら、席についた。
「さ、朝ご飯食べて学校いこうかー」
「全く呑気何だから……」
呆れた顔をするフィア。
どれだけ文句を言ったところでこの少年が早く起きるようになるはずがないのだ。
……諦めて明日もこうして叩き起こすことになるのだろう。
そう思いながらフィアは溜息を吐き出してトーストを齧った。
「あー、ちょっと焦げてる」
「誰の所為だと思ってるんだこの馬鹿兄」
じとりとした視線を向けられて、フォルはくすくすと笑う。
そして焦げている(無論フィアがわざと少し焦げている方を彼にわたした)トーストを齧った。
「あ、今日はちょっと帰り遅くなるからね」
「わかった。私もバイトだからな」
鍵は持っていけよ、とフィアは言う。
了解といって笑うフォル。
まるで母と子のような会話。
その実兄と妹の会話なのだから、傍から見たら面白いものなのだろう。
……当人(フィア)はそれどころではなさそうだが。
「……とにかくさっさと準備して出ろよ。
私は先に行くからな」
食事をとり終えて、フィアはさっさと片付ける。
フォルはまだトーストを半分齧った所だ。
あぁこれは完璧に置いて行かれる。
……まあ、それでもこうしてフィアが起こしてくれているおかげで遅刻することはない訳なのだけれど。
「さて僕もさっさとごはん食べていくとしようかー」
そう呟いたフォルは小さく笑って、残りのトーストを口に突っ込んだのだった。
―― いつも通りの日常 ――
(これが私の日課。
まぁ、それで良い…というかもはや諦めているんだがな)
(あれこれと喧しい妹ではあるけれど。
何だかんだ面倒見が良いのは事実だからなぁ)