シストとエルド中心中編の七話目です。
今回は151年三月のお話。
シストとエルドが入団したのは141年なので、十年が経過しました。
そんなにも長く、彼らは一緒に居たんだなぁと改めて思っています。
三月といえば?なイベントがらみのお話です。
年中行事じゃなくて個人行事ですけどね!
今回はちょこっと、アネットも登場です。
彼らも何だかんだで仲良しだったんだなあってことを感じていただけたらなぁと。
そんなわけで追記からお話です!
ふわり。
甘い花の香りが、漂う。
その香りを吸い込んで、シストはほぉと息を吐き出した。
「いつの間にか、春だなぁ……」
そう呟きながら、空を見上げるシスト。
晴天。
美しい青空が広がっている。
任務を終えたすがすがしさもあってか、この空気はとても心地よい。
眩い太陽の光に目を細める彼は、いつの間にか立派な少年に成長していた。
「俺たちが入団してから十年かぁ……」
彼の隣で呟く少年……エルドも同じくだ。
幼げだった子供の頃の面影は大分薄れ、凛々しい雰囲気を纏うようになっていた。
「早いよなぁ」
そう。
いつのまにか、二人が騎士団に入団してから、十年が経っていた。
気が付いたら、というのが正解だ。
いつも通りの生活を送っているうちに、任務をこなしているうちに、いつの間にか此処まで成長していた、といったところだ。
エルドはふと、シストの方を見た。
そしてまじまじと、彼のことを見つめる。
彼の視線に気が付いたシストは不思議そうに首を傾げて、彼に問うた。
「?何だ、エル」
「背伸びたな、シス」
そういいながら、エルドは軽く背伸びをする。
彼は、シストより少し背が低い。
そのことに今、気が付いたのである。
「そうか?」
きょとんとしたように瞬きをしているシスト。
それをみて、エルドはむぅと唇を尖らせた。
「うー……俺ももうちょっと伸びるといいんだけど」
そう呟きながら彼は背伸びをする。
シストはそんな相棒の姿を見て、くすくすと笑みをこぼした。
「まだまだ成長期だろ、伸びるよ、エルも……俺も」
「シスも伸びたら意味ないし!」
もう!とエルドは声をあげる。
それを聞いて、シストは愉快そうに笑い声をあげた。
「はぁ……それにしても、さ」
シストはそういいながら、空を見上げる。
美しい青空。
そこにひらり、と淡い桃色の花びらが舞っていく。
「こうやって一緒に任務に出掛けるの、何度目になるだろうなぁ……」
しみじみと、そう呟くシスト。
エルドはそれを聞いて可笑しそうに笑う。
「そんなの数え切れるはずがないだろ?
十年近く一緒に任務出かけてるだろ」
そういって笑うエルド。
シストは"そりゃそうだけどさ"と苦笑を漏らした。
「いや、いつもこうやって一緒に出掛けてるからさ……
改めて、ずっと一緒に居るんだなぁと思ってさ」
相棒となってから、何年だろう。
相棒になるより先から、ずっと一緒に居るのだ。
一緒に居ないと落ち着かないと、そう思うくらいに。
「まぁ、それは確かにそうだなぁ……」
エルドも懐かしむように、そう呟く。
ふわりと吹いた風が、彼の黄緑色の髪を揺らしていった。
「シスと初めて出会った時はさぁ」
「だからそれは忘れろって」
エルドの言葉にシストは苦笑する。
あの日の、あの時のことは忘れてほしい。
シストがそういうと、エルドはくっくと笑った。
「まさか初っ端の訓練で剣忘れる奴がいるとは思わなかったよ」
「俺だってあんなミスするとは思わなかったよ……っていうか緊張してたんだよ」
シストはそういいながら溜息を吐き出す。
エルドはそれを聞いてエメラルド色の瞳を細めた。
「シスはプレッシャーに弱いもんなぁ……
それは未だに変わってないよな」
「……性分、だと思う。
エルは逆に何というか、プレッシャーに強いよなぁ……」
彼が緊張したり、それ故に失敗しているところは大して見たことがない。
シストがそういうと、エルドは肩を竦めて、言う。
「繕うのが得意なだけだよ……こう見えて結構緊張するときはあるしな?」
「ふぅん……そうなのか」
意外。
シストがそういった時、一度、ぶわっと強い風が吹いた。
長いシストの髪が風に攫われる。
「いて……っ目に、ごみが……」
シストはそう声をあげて、慌てて顔を伏せる。
ごしごしと目を擦りかけたところで、エルドは彼の手首を掴んで、止めた。
「おいおい、擦ると痛いぞ……ちょっと待て」
そういいながらエルドはそっとシストの瞼を指先でなぞる。
微かに魔力を感じるから、恐らく彼なりに何とかしようとしてくれているのだろう。
「う、……いてぇ」
小さく声をあげるシスト。
「ん、これで良し、ちょっと瞬きしろ」
エルドはそういう。
彼がぱちぱちと瞬きをすると、ゴミがとれたようで、はぁっとシストは息を吐き出す。
「痛かった……」
「よしよし……取れたな?」
もう大丈夫か?
そう問いかける相棒に、シストは小さく頷く。
「ん……さんきゅ、エル」
助かった、という彼を見て、エルドも笑う。
それからそっと、シストの長い髪を漉いた。
「それにしても……シス、髪長いな」
エルドはそういいながら軽くシストの髪を弄る。
それを聞いてシストはアメジストの瞳を瞬かせて、言った。
「あー……まぁ、姉貴の好みだからな」
「あぁ、お前の姉さん、髪の長い奴が好きだもんな」
俺も伸ばせって何回か言われた、といって笑うエルド。
シストはそれに苦笑しながら、言った。
「姉貴はほかの奴相手にもそうなのか……」
そういって笑うと、シストはぐっと伸びをした。
それから、エルドの方を振り向いて、言った。
「さ、そろそろ帰るか!」
「ああ、そうだな」
二人は頷きあって、城に向かって歩き出したのだった。
***
「あれ、シスト」
城に戻ったところで、不意に声をかけられた。
その声の主は鮮やかな赤髪の少年……アネットで。
自分たちの同期生。
彼はほかのメンバーより少々早く成長期が来たためにか、シストやエルドよりも背が高い。
炎豹という部隊柄もあって、体格も良かった。
「おぁ、アネットか」
「ただいま。アネットも、任務帰りか?」
少し汗をかいている様子の彼。
そう問いかけると、アネットは小さく頷いた後、シストに視線を向けた。
「おう、ただいま。あとシス……髪の毛、花ついてんぞ」
可愛いな、などといってアネットはにかっと笑う。
エルドは"え?!"と声をあげるシストを見て愉快そうに笑う。
「ふは、落ちないままで帰ってこれたのか」
「!エル、お前が付けたな!?」
さっき髪弄ってた時か!
そう声をあげる、シスト。
エルドはそれを聞くとくすくすと笑いながら、言った。
「はははは、まさか気が付かないとは思わなかったけどな!」
「あぁあもう!何でそういうことするかなぁ」
恥ずかしそうに顔を赤く染める、シスト。
それをみて目を細めたエルドは、軽く彼の額を小突いて、言った。
「誕生日祝いだよ、シスの」
「……へ?」
唐突なエルドの言葉にシストは驚いたように目を見開く。
花を振り落そうとした手も、止めて。
それをみて、エルドはふっと笑みを浮かべながら、言った。
「今日、シスの誕生日だろ?」
そういって首を傾げる、エルド。
いわれてみて、気が付いた。
今日は、確かに……シストの誕生日で。
「……すっかり忘れてた」
「だろうと思ったよ」
そういいながらエルドは苦笑する。
そして改めて彼の方を見ながら笑いかけて、言った。
「誕生日、おめでとう……相棒」
エルドはそういって、小さく笑った。
シストは彼の祝いの言葉にぱちぱちと瞬きをした後、照れくさそうに表情を綻ばせて、頬を引っ掻く。
「……ありがと。何か照れるな」
「はは、顔が真っ赤だ」
アネットもからかうような口調で言う。
シストはそれを聞いて唇を尖らせた。
「……そりゃ、照れるに決まってるだろ」
「あははは、良かったな、祝ってもらえて。
っていうか、アレだ……ルカはもうパーティの用意してるよ!」
そういって、アネットはシストの腕を掴む。
大きく目を見開く彼の手を掴んだままに走り出すアネット。
「ちょっと?!アネット!」
「ほら急げシストー!エルドも遅れんなよー!」
あっという間に遠くなる、アネットとシストの声。
それを聞いてエルドは苦笑を漏らしつつ、急いで彼らを追いかけた。
「あの調子じゃあまだ準備中の食堂に突っ込むな」
ルカに怒られる前に止めるか。
そう呟くエルドは愉快そうに笑っていたのだった。
―― 花の日 ――
(柔らかな花びらが舞う、そんな日。
それは君が生まれた日で)
(俺とお前が出会ってから、どれだけの日々が過ぎただろう?
少しずつ深まる絆は今や、決して切れることのないものとなっていて…)