神域第三大戦 カオス・ジェネシス115

「まぁ、これが最後と言うならすぐに終わってしまうのも芸がない。精々頑張って阻止してくれよ?」
「だったら開かなければいいだろう」
「おいおい、スリルなしに戦っても面白くないだろう」
「……………貴様、一体何が目的だ」
目蓋を引き下ろされ、魔眼開放を阻止されたと言うのにも関わらず、バロールは垣間見せた苛立ちをすぐに消し、楽しげな笑みを浮かべた。心から命のやり取りを楽しんでいるかのようなバロールに、ルーは呆れ果てたように何度目かの問いを口にした。
バロールはそうしてルーが見抜けないことがあることでさえ面白いのか、カラカラとした笑い声をあげる。ヒュオッ、と風を切るおとがして、ペシャリと地面に伏していた多節鞭が水を得た魚のように飛び上がった。
「しつこい奴だなぁ?お前の戦う姿を再び見るため、だと言っているだろう?」
「本気でそれだけの理由で他力を借りるほど、貴様は愚かでも節操なしでもない。見損なわせてくれるな」
「おや、お前が俺様をそんな風に評価する日が来るとは思いもしなかった。なんだァ?老いたか?」
「のらりくらりと逃げ回ってばかりとはな。強撃のバロールが聞いて呆れる」
「ネタバラシっていうのは一番つまらないと言うものなんだろう?俺様に声をかけた若造はそう言っていたぜ?」
「!」
バロールの言葉に、ぴくり、とルーが反応を示した。その内容に、カルデア側にも緊張が走る。

自分に声をかけた若造。つまりバロールはここに来てようやく、復活に関与しているとおぼしき他力について言及したのだ。

バロールはそんな面々の反応に、にやにやといやらしい笑みを浮かべるばかりだ。
「ルーよ、どうせお前はもう背負ってる責も大したことがなくて、生きなきゃならない理由も別にないのだろう?後顧の憂いがない、って顔は、つまりそういうことだ」
「……!」
ばっ、と、クー・フーリンは思わず視線をルーへと向けた。タラニスも顔こそ動かさなかったものの、視線はじとり、とルーをねめつけている。
そんな二つの視線を一切無視して、ルーは、ただバロールを見据えた。バロールも片目でその視線に応える。
「ならば、真相だの理由だの、そんなものはなんだっていいだろう。俺様はお前の戦いをみたい、お前は俺様の始末をつけたい。なら殺し合いをするだけだ、違うか?」
「……私がするべきは、し損ねた貴様の始末だけでなく、貴様を蘇らせる等という行いをした者の始末もだ。貴様との殺し合いだけで済む話ではない」
「あー…そう来たか。思った以上にお堅くて面倒な奴だな、こんなことなら先にあの若造、“殺しておくべきだったか”?」
「!?」
『…………どういうことなんだ、一体……』
つまらなそうにバロールが溢した言葉に、その場の視線がバロールへと向けられた。ぽろり、と、静観していたロマニでさえ、思わず言葉を溢すほどだ。
バロールの態度に眉間のシワを深くしたルーに対して、バロールはそれはそれは楽しそうに口角を歪めた。
「…………貴様は本当に、自己本意な存在だ……!」
「真面目ちゃんにも限度があるぜ?御託はいいからかかってこいよ、あの若造の始末をどうするにせよ、俺様を殺さねぇことには始まらないぞ!」
戦いの最中、真面目に言葉を交わしていたかと思われた両者は、双方言葉をそう吐き捨てると再び勢いよく衝突しあった。


――――――――――


「…っとぉ!!」
一方の凪子はというと、なかなか次なる展開へと繋げられないでいた。両足の要石を破壊した際の呪いも、残っていた防壁では防ぎきれなかったようで、破壊から少し遅れて若干の麻痺として現れていた。
凪子は僅かに震える右手に小さく舌打ちをしながら槍を構え直し、目の前の同じ顔を見つめた。左肩の辺りを吹き飛ばしたものの、腕を落とすほどには至らず、目の前でするすると再生していった。
ぺろり、と深遠のは、肩を吹き飛ばされた際に顔にとんだ血を舐めた。
「健気に頑張るね。無駄なのに」
「私の身体の再生能力に甘えてる状況でそんなこと言われる筋合いはないなぁ」
「そうかい?だって所詮君らは神の似姿、下位互換でしかないんだよ?まぁ、確かにこれだけの再生能力を持っちゃうと、勝てる、何て勘違いしてしまうのかもしれないけれど」
「何言ってんだ、人間が神の似姿と言われるのは、ニンゲンがカミサマの下位互換だからじゃなくて、カミサマがニンゲンに上位互換にしてもらったから、に過ぎないよ」
「これは驚いたな。神がニンゲンに作られた、とでも言う気かい?」
「見た目が似ているのは解釈の問題でしかない、って話さ。互換性があろうと存在は別モノ、ならば下克上はいつでも起こりうるのさ」
「君はそればかりだね。下等生物に随分と肩入れしているらしい、それは憐れみかな?優しさかな?」
「ただの事実ってやつさ。実際、人間は神をこのテクスチャから追い出したわけだから、なっ!」
凪子は言葉を交わしながら隙をついて槍を突きだしたが、相手は軽々とそれを避けた。