神域第三大戦 カオス・ジェネシス30

『………あっ!!!繋がった!!!』
「!ダ・ヴィンチちゃん!」
「おっ」
マシュと藤丸が召喚サークルを確立している間、凪子は泉に潜って魚を獲りつつ泳いでいた。最後の一匹を獲り水面から陸へ飛び出たところでちょうど通信が復活したようだった。
ホログラム的に浮かび上がったダ・ヴィンチの顔には焦りと安堵の両方が浮かんでいた。
『よかった…!ロマニ!!無事だ!!』
『本当かい!?どうやって!?』
「虚数空間のことか?」
通信先では一騒ぎ起きているらしく、わぁわぁと雑多な声が聞こえてくる。ヘクトールの問い掛けに、ホログラムに入り込んできたロマニが強く頷く。ダ・ヴィンチは一転険しい表情を浮かべる。
『やはり何かあったのか?』
「生憎俺達は何も分からなくてな。あの嬢ちゃんの受け売りだ」
「呼んだ?」
木で作った即席の銛に魚を数匹突き刺したものを肩に担ぎながら、凪子はひょいと後ろから覗き込んだ。ヘクトールの言葉に、ダ・ヴィンチは意外そうに凪子を見た。
『君が?』
「おおん、虚数空間通るって理屈的におかしくね?と思って、拒絶しちゃった」
『な……』
「そうだ、繋がったなら存在証明そっちでやってよ〜この身体魔力含有量本体より少ないから消費がちょっとキツい。まぁ、時代的に大気のマナもやばいからなんとかなってるけど」
『え?あ、それは勿論…って、そういえばどうやって存在証明を!?』
はっ、と思い出したようにダ・ヴィンチが叫ぶ。微妙にすすり泣く声も聞こえてきた辺り、どうやら向こうからしてみると絶望的な状況であったらしい。
うーん、と凪子は自分が展開している固有結界の状態を改めて思い出す。
「えーと、私の体内に固有結界を展開して、この四人を“その世界の存在”だと仮定義。ちょっと私の固有結界は特殊なので。そこから固有結界をひっくり返した状態にして、存在を外側に配置することで地球の表面と重ねてる。えっとね、テニスボールをひっくり返して、その表面と地表が重なってる、みたいなイメージを持ってくれればいい。だから、今仮定義してる存在をそっちのコフィンの中に戻して存在証明し直せば、普段通りのはずだ」
『なっ…!?理論的にそんなことが可能なのか?そもそも虚数空間をどうやってぬけたんだ』
「あぁ、それは固有結界のなかに私も入り込んで、表面が出ないように結界を重ねつつさらにその表に虚数結界を展開して弾いた」
『な…………』
ダ・ヴィンチはポカンと口を開いて、呆然としている。それは映り込んでいるロマニも、改めて説明されたクー・フーリンやヘクトールも同じだった。げんなりしたように凪子を見ている。
「…そんな顔しなくても。魔術師として度を越してる、というなら、度を越してて当たり前だろ、何年生きてると思ってる」
『………まぁ、確かに、それはそうなんだが……』
「生きてるならそれでいいじゃないか。で、存在証明はそっちでできそうかい」
『あ、あぁ。ええと…こちらのコフィンの座標は分かるか?』
「ん、分かった。マシュ、通信切るなよー」
「は、はいっ!」

―――少しして、無事存在証明はカルデアに移った。これにはカルデア側も、地味に疲れていた凪子もほっと胸を撫で下ろした。
「ダ・ヴィンチ、一応確認しておきたいんだが、レイシフト自体は成功してんのか?」
『ん?あぁ、それは恐らく』
「恐らく?なんで不確かなんだ?」
クー・フーリンが確認のためにした問い掛けに、存外ダ・ヴィンチは曖昧な返答を返した。何故だと問えば、ダ・ヴィンチは困ったように腕を組んだ。
『君たちの存在は確かに観測できているし、そこは1世紀のイングランドに違いはない。…んだが、ちょーっと座標がずれていてね。それに、君達が通過した虚数空間は変わらず存在するようでね。それを通過しないことには君たちをカルデアに戻せない』
「………マジか」
『恐らく、今回の特異点の影響だとは思う。特異点と関係なかったら、また彼女の協力を乞わないと無理かな…まぁ、そっちはこちらで解析を進めておくから、今は気にしないでそちらに集中してくれ。特異点化の原因は掴めそうかい?』
「現地のドルイドの力を借りて、次の目的地は目処がついてる状況だ。な、そうだよな?」
ダ・ヴィンチの問い掛けにヘクトールがそう答え、凪子に話をふる。焚き火を起こし、せっせと魚を焼く用意をしていた凪子は、ヘクトールの言葉に通信に再び顔を向けた。
「あぁ、そのことならどうやらこの特異点は私の神殺しが関係してるっぽくてな。今からその神サマ訪ねてみようと思ってるとこだ」
『ほう。やっぱり君が関わっていたのか…ちなみに、その神サマって言うのは?』
「………タラニスだろう」
「ピンポーン、正解」
凪子が答える前に呟くようにそう言ったクー・フーリンに、凪子は明るくそう言った。