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神域第三大戦 カオス・ジェネシス122

「“信仰”ってのは、貴様らが思うほど狭義じゃねぇってこった。分かったか?」
「…つまるところ、嘘でも今だけでもいいから、とにかくアンタを信仰してそれを示せってことだろう?」
「そうだ。だから、成功するのか?なんてことを考えるな。それは俺を疑っているということだからな」
パチン、と、髪留めが留まる音がする。その音にそちらへ視線をやれば、僅かに身綺麗にしただけだというのに、妙にそのタラニスは神格高く見える気がした。
前に垂らしていた深い紫の髪を後ろに流せば、やけにその髪も煌めいて見える。
「………こちらは準備に入る、合図をしたらウィッカーマンを出せ、いいな」
「…承知した」
タラニスは、最後に静かにそう告げると、バロールの目を盗んでその場からそっと離れた。策をなした直後に攻撃されないようにするためだろう、タラニスの姿はまだ辛うじて残っていた木々の影へと消えていった。
『キャスター、アーチャー!』
「!」
息をつく間もなく、バロールとルーによる戦闘の余波が二人を襲う。衝撃波があまりに鋭く刃のようになっているそれを両者は屈んで交わし、目配せを交わし合うとそれぞれ反対の方向へと跳んだ。
「やれやれ、参ったねこれは」
「!生きてたか」
「生きているとも」
たたた、と走って間合いを計っているクー・フーリンの元へ、マーリンがひらりと姿を見せた。白い衣装は至るところが薄汚れているが、足元に溢れる花弁は色褪せることなく咲き誇っていた。
クー・フーリンにかけていた防衛魔術がとけていることに気が付いたか、ついつい、と指をふるい守りをつける。
「そろそろ例のどっきりとやらをするのかい?」
「あ?おお…まぁな。余裕案なら魔力寄越せや」
「遠慮がないな君は!」
『…!キャスター、レオナルドから報告だ。向こうの方は決着がついた!凪子くんと深遠なる内のものが、二人でこちらに向かっているそうだ』
「あ?深遠のの方もくるのか?」
「一度乗っ取られていたんだろう?大丈夫なのかい?」
二者の不安げな言葉に、通信先にひょっこりとダ・ヴィンチが顔を覗かせた。
『彼女の乗っ取られは、サシでの勝負に負けて埋め込まれた、5つの要石によるものだ。この状況で再び埋め込む余裕はさすがにないだろうさ』
「…ならいいけどよ」
『ただ気になることがある。後半、彼女の中にバロールを復活させた当事者だと語る何者かが入り込んでいた。主導権を取り戻す時に弾き出されたそれが、そちらに行っている可能性がある』
「何?」
「成る程甦らせた輩が全く関与してこないというのは妙な話であるしの」
「!?ダグザ翁、」
突然会話に現れたダグザにマーリンはぎょっとしたように振り返った。驚いたのはクー・フーリンは同じで、彼の神は全く気配を感じさせなかったようだ。
ダグザはやや煤汚れた顎髭を撫でた。
「……これからタラニスめが動くのじゃろう?ならば儂はそちらに当たろう」
「大丈夫か?」
『それは外なる神を名乗っていた。全てが未知数で実力が測りきれない、危険であると言わざるを得ないぞ』
「なれば尚のことよ、人のお主らを向かわせるわけにはいくまい。深遠のがどちらも向かってきておるというのなら、戦力的にもどうにかなろう。…くれぐれも死んでくれるなよ、ルーにこれ以上、背負わせてくれるな」
「………っ」
スッ、と目を細め、有無を言わせぬ声色でそう念を押してきたダグザに気圧されている内に、ダグザは早々に姿を消してしまった。
「……覚悟を決めるしかねぇな」
「ぐっ!」
「!!光神が、」
姿を消したダグザにクー・フーリンがぽつりとそう呟いた直後、ルーの戦況に動きが出た。
ばっ、とそちらを向けば、大きく弾かれたらしいルーが身体を回転させながらどうにか体勢を持ち直していたところだった。一方で、ルーを弾いたバロールが高らかに笑い声をあげる。
「さァて、前座はここまでだな、ルーよ!ここまでではないだろう?なァ、抗ってくれるんだろう!?我が邪眼に!」
「チィッ…!」
忌々しげにルーは舌打ちをしたが、先のように荒業で目を閉じさせる余裕はすでにない。じわり、バロールの魔眼が光を帯び始める。
「さぁ、どうするんだ?!」
「……っ」
「うるせぇぞ、死に損ないが!」
「!!」
楽しそうなバロールと、僅かに焦りの色を見せるルー。その両者に割り込むように、タラニスの声が高らかと響き渡った。
それを合図ととったクー・フーリンは、ダンッ、と杖を地面に叩きつけた。
「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人」
地面を叩きつけたところから勢いよく木々が飛び出し、唐突なクー・フーリンの動きにバロールが意外そうに視線を向けてきた。
ぞくりと背筋に寒気が走るが、彼は臆することなく睨み返した。
「因果応報、人事の厄を清める社――我が信仰、雷神に奉らん!ここに示すは、ウィッカーマン!!」
意味があるのか、効果になるのかなぞは正直いって分からない。だが、クー・フーリンは詠唱を少し変えて、その場にウィッカーマンを作り上げたのだった。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス121

「…凪子さん……」
走っていった凪子と深遠のは、あっという間に姿を消した。マシュから漏れた心配の声は、リンドウに会うことなく戦場に向かった深遠のに対してか、あるいは修復したとはいえ、肉体疲労で足がもげ腕を爆破されたほどのダメージを負っているはずの凪子に対してか。
ヘクトールは左右に視線をやりながら、槍を肩に担いだ。
「マシュ、マスター、さっきの変な神がまた姿を見せないとも限らねぇ。そうなった時厄介だ、早く行くぞ」
「……うん、行こう、マシュ!」
「……。はい!」
藤丸の声についにマシュも覚悟を決め、3人は凪子達が向かった方向とは違う、リンドウの森に向けて走り出した。



「、っらァ!!」
「ッ、…はァ!!」
ガァン、と、鈍い音が森に響き渡った。

―否、そこはもう森といえるような所ではなかった。
近隣の鬱蒼としていた森はルーとバロールの衝突でそのほとんどが焼け落ちていて、破壊されたタラニスの神域同様、駄々広い荒野が広がっていた。その中心地は取り分け大きく抉れ、両者の衝突の激しさを物語っている。
バロールの背後にある木は折れておらず健在ではあったが、衝撃にかその輝きは大分くすんでいるように見えた。
「………ぷぁっ!」
両者の衝突による衝撃波に吹き飛ばされていたクー・フーリンは、己に被さった土をどうにか払い終え、ようやく息を吸い込むことができていた。
「…っ、ぁ、くそったれ、まだ生きてるかぁ!?」
「どうにか。……マーリンはもっと飛ばされたみたいですけど」
ぼすっ、と近くの瓦礫から子ギルも顔を出した。彼も同じように飛ばされていたらしい。
ヒュッ、と風を切る音がして、いつぞやと同じようにタラニスがクー・フーリンの隣に着地した。彼もそれなりにダメージを負ったのか、億劫そうにボロボロになった緑のマントを脱ぎ捨てていた。
「…ん、おぉ、面白いことになってんなお前ら」
タラニスは今回は意図して近寄ったわけではなかったようで、瓦礫にまだ半分埋まっている二人に気が付くと愉快そうに笑った。余裕があるのだかないのだか分からない神である。
「まったく、お陰さまでよ」
「だがちょうどよかった、準備しろ、そろそろ目が開く」
「…………!」
皮肉に皮肉で返したクー・フーリンだったが、続いたタラニスの言葉に思わず口を閉ざした。そして急いで瓦礫から抜け出し、杖を引っ張り出す。
視線を激しい剣劇を再開したルーとバロールの方へと向ければ、なるほど確かにバロールの瞳は先程ルーが強引に閉めたときより開かれている。
不思議なことに、完全に開かれているという判定になっていないのか、ほとんど見えているように見えるがまだ死の呪いは発動していないらしい。それもまたバロールのゲッシュによるものなのだろうか。
「……しかし、本当に効くのか?」
「1つ、良いこと教えてやろうか」
「あ?」
「神の力というのは強大だ。だからな、デメリットがある」
「デメリットだぁ?」
「その能力の強さは、他生物からの“信仰”に大きく左右されるのさ」
「!」
『………言説としてそう言われることは稀に聞くが……本当だったのか』
タラニスが不意に語りだした言葉に一瞬クー・フーリンは顔をしかめたが、続いた言葉に驚いたように目を見開いた。その言葉には、通信先で様子を見守っていたロマニも驚いた声をあげる。
タラニスはこれからの準備のためか、持っていた槍を消し、乱れた髪を簡単に整えていた。
「だからな、確実に成功させてぇなら俺を信じることだ。お前の呼び出したウィッカーマンに乗せる祈りを、本気のものにしろ。それが最大の秘訣だ」
『…つまり、バロールの呪いを跳ね返すだけの力を持たせるためには、貴方に対する信仰が必要?』
「そうだ。それを形として示せ。多ければ多い方がいいし、この非常時だ、質は問わねぇよ」
「…なんというか…それでいいんですか?その…」
信仰がパラメーターを左右する、という理屈はそう理解の難しい話ではない。だが、信仰にも度合いというものがある。タラニスの質は問わない、という言葉は、その信仰の度合いについては問わない、と言うことと同義だ。
そんなことが罷り通るのか、というのが、子ギルが問いたいことなのであろう。タラニスは少しばかり面食らった様子を見せたのち、何か思い至ったようであぁ、と小さく呟くと、にたりと醜悪な笑みを浮かべた。
「いいに決まってんだろ?質の良し悪しを決めるのは神側、つまり俺様なんだからよ。質だの価値だのを決めるのはお前らじゃねぇ、どうもそこんとこを人間は誤解しているみたいだがよ。要は、多少悪いのでも良いことにしてやるっつってんだ」
「………俺のウィッカーマンに騙されてもいいっていうのは、そういう…………」
『………成程。貴方への信仰というのは、何も人間に限った話ではないのか』
ややあってから、ロマニは納得したようにそう言った。

神を信仰するのは、人間だけではない。
その他の動物、生命体、それらが向ける信仰も神々は受け止めている。
故にこそ、その価値を計るのは神なのだ。多種多様の生命から向けられる様々な信仰の形の価値を計ることができるのは、向けられる当事者だけだ。

それ故、人間が考える信仰の度合いの違いなぞ、神にとっては関係のない尺度である、ということなのだろう。
タラニスは理解したらしいロマニの言葉に、楽しげに肩を竦めた。
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