スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス112

「だ、大丈夫なんでしょうか…!?」
「あー……まぁ、打算も3割くらい入っているみたいだから、半分は煽りだろうよ。半分は…単に嫌いなだけっぽいけどねぇ…」
離れたところでその様子を伺っていたヘクトールは、焦ったマシュの声に上の空の調子でそう答えを返す。
凪子の言動が、その半分の要素は相手を煽り、己に意識を向けさせているものであることにヘクトールは気が付いていた。というより、ヘクトールは凪子が寄越した視線とその後の行動からそう解釈していた。
凪子はそう、防衛戦が得意というわけではない。共同作業を長らくしていない、と言っていたことからも、共闘自体慣れていないだろう。そうした想定を踏まえ、ヘクトールは饒舌になった言動をそう推測したのだ。
マシュはヘクトールの言葉に驚いたようにヘクトールを見、緊張した面持ちで視線を戻した。
「……何か、支援は……」
「…さっきの詠唱が何なのか、俺はよく知らねぇが……今どうやらアイツは神と戦っているらしい、なら下手に関わらん方がいい。言ったろ、オジサンたちは防衛に専念だ」
「…………はい……」
「気を付けろよ、マシュ。今は凪子の挑発に乗ってくれてるように見えるが、ブラフの可能性もある。急にこっちを攻撃してこないとも限らないぜ」
「っ、はい!」
ヘクトールの忠告に素直に頷いたのを横目に見つつ、ヘクトールも槍を構え直した。

「(………うーん、本気を出していないのか、実際大したことがないのか、さっきまでの方が厄介だったぞ…)」
そんなヘクトールの思惟を他所に、凪子は相手と激しくぶつかり合いながらそんなことを考えていた。
相手には確実に油断がある。それが計算されたものかただの油断であるのかは別にしても、それ故に攻撃が甘いことは確かだった。楽しそうに歪んでいる顔を見る限り、長く凪子をこの場に引き留めるという思惑があるのかもしれないし、単に長く楽しみたいだけなのかもしれない。
どちらにせよ推測の域は出ない話だが、確かなことは相手は“凪子を甘く見ている”ことだ。だから本気を出してこない。その上、深遠のと違って戦術レベルが高く、計算された攻撃を行ってくる。故に、攻撃が読みやすく、受け流すのも避けるのも無作為な攻撃に比べれば容易い。
結果、凪子にとっては先程よりも遥かに戦いやすい状況になっていた。実のところ、先程までの発言に相手を煽って調子に乗らせよう、という意図は凪子としては全くなかったのではあるが、凪子にとっては都合のいい展開となっていた。
「(……ふん、まぁあんまり考えすぎても、)アレか!」
凪子はそう呟きながら一旦思考を止め、大振りに振った槍で相手を弾き飛ばした。相手の思惑が掴めない以上、あれやこれやと可能性を考えるより、目の前の攻撃一つ一つに集中し、即座に見切って対応する方が凪子には向いている。
そう考えて凪子は戦闘に集中することにした。凪子の攻撃に相手は素直に飛ばされ、空中で退勢を整えて着地する。相手はにやっ、と笑い、バン、と地面を叩いた。魔法陣のような物が展開された様子は伺えなかったが、叩いたところから触手のようなものが生えそびえ、凪子に向かってうねりながら飛んできた。
「カルパッチョにして食うぞコノヤロウ」
凪子はおどけたように毒づきながら、飛んできたそれらを一本一本、確実に切り裂いた。切り裂いた残骸で相手の視線が途切れた一瞬、その隙に凪子は槍を地面と平行に構え、急速的に槍と足に魔力を籠めると、再び弾丸のように飛び出した。
「!」
残骸を吹き飛ばしながら突進してきた凪子に相手はたじろいだが、凪子の攻撃をかわす隙はなく、深遠のの腹部を凪子の槍が勢いよく貫通した。
「…っ、おのれ、」
「もらった」
「!?」
貫かれた相手は、やはり痛みはないようで忌々しげに毒づくばかりだったが、凪子も何も無計画に突進をしたわけではない。凪子は一旦槍から手を離し、両手でベルトに挟み込んでいた小型の鉄剣を引き抜くと、相手の太ももの付け根にそれぞれ引き抜いたそれを突き刺した。
「buried!」
「!?」
詠唱に合わせて軽く刺さったそれが、自動で勢いよく深く刺さる。凪子はぎり、と槍を強く握り直した。
相手は凪子の、“大した攻撃にならない攻撃”に戸惑っているらしく、随分無防備にその身をさらしている。凪子はぐい、と相手の顔を覗き込んだ。
「芸術は?」
「はっ!?」
「爆発だよォ!!」
どこぞの芸術家の言葉を凪子が口にした途端、槍とその埋め込まれた鉄剣を軸に反応し、勢いよく深遠のの腹部が爆発した。
「凪子さん!!」
近くにいすぎた凪子も爆発に巻き込まれ、後方へと吹っ飛んだ。思わずマシュと藤丸は悲鳴をあげたが、あらかじめ防御術式を発動していたが、ところどころ焦げたような跡を残したばかりで大したダメージはないようであった。
「…ふむ、成る程。足を潰しに来たか、だが無駄なことだ。この再生能力はお前の肉体由来のもの、破壊したところで意味はない」
「(………あれっ、もしかしてこいつ、要石の存在に気がついていない?)」
相手は両足を吹き飛ばされた、つまり要石を同時に2つ排除されたにも関わらず、さして気にしていないように再生された足で立ち上がった。そこで凪子はようやく違和感に気が付く。
要石は深遠のの意思を封じるもの、そして乗っ取っているもののはずだ。ルーが否定しなかった以上、それは間違いないだろう。だが、肝心のバロールを復活させた目の前の黒幕は、要石を破壊されたことを全く気にしている様子がない。
「(…まさか、それが私の身体をコントロールしていることに気が付いていない…?)」
頭に浮かんだ可能性に、思わず凪子は相手をまじまじと見てしまった。
続きを読む
<<prev next>>