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:†四月馬鹿企画混合夢譚・壱†:




*文ストと獄都事変の混合夢小説です。
*獄都夢主が文スト世界に漂流します。
*両方の世界観が地続きになってます。
*夢主の一人称視点からお送りします。
*探偵社側になりそうな予感がします。
*怪奇要素が濃い目の話が書きたくて←



【:†虎憑き少年に鬼女は微笑む†:】



(小説よりも夢現よりも奇なるもの)
(それは獣か異形か必然めいた縁か)



ぽたぽた。そんな擬音で前髪から滴っているのは、つい先程―事故って頭頂にぶち撒けた飲み掛けの珈琲だ。香ばしい珈琲の薫りが、重く湿った頭部から漂っている。

「うわぁっ!!すみませんっ!!だっ、大丈夫ですか!?」

目の前の銀髪の少年が、驚愕の後に酷く慌てた様子で頭を下げて来る。それを見て、吃度そこそこは酷い有り様なのだろうと―自分からは見えない現状に苦笑し乍ら、人間で云う処の『平常心』で対応する。

「……うん。大丈夫だよ」

頭から滴っているのが出血じゃないだけ、未だ幾分かはマシだ。常日頃の身の回りに起こる物騒な出来事の彼是を省みれば、今回の不祥事は比較的些末な事である。

目の前で慌てふためく少年を落ち着かせる様に、懐からハンカチを取り出して、未だに顔を濡らしている珈琲を拭う。久々に背伸びして無糖タイプを選んだのが幸いしたのか、思ったよりも顔を濡らすベタ付きは少ない。文字通り『不幸中の幸い』だ。

それにしても。ぶつかった拍子で紙コップが宙を舞って頭に落下すると云う一連の流れは、在る意味神業掛かっていると思う。某『どっきり大成功』企画でも、中々ここまで鮮やかに決まっては呉れないだろう。お笑い芸人から見れば『美味しい』と云うシチュエーションなのかも知れない。

「此方こそ、ぶつかって仕舞って御免ね。あぁ。あと、珈琲は飲み掛けだったから、火傷はしてないよ」

「や、火傷もそうですけど。あの、着物を駄目にして仕舞って……」

「うん?着物?」

若干血の気の引いた顔色の少年に指摘されて、改めて自身の着物を見遣る。

私服として着慣れている―淡い萌木色を基調とした着物(和装)は、珈琲の濃い色でもって、本来の色合いを所々上書きされて仕舞っていた。中々に渋い風合いである。

「……おぉ〜」

「ほっ、本当にすいませんでしたっ!!クリーニング代を弁償させて下さいっ!!」

バッと。少年に勢い良く頭を下げられる。
誠実は必ずしも財源で賄えるものでは無いが、見た処―この少年は未成年の様だ。
だとしたら尚更立つ瀬が無いのだろう。

そして何より。気持ち良い位に潔いその姿勢に、私の口からは笑いが零れていた。

「あはは。いいよいいよ、弁償だなんて。和装と云っても普段着に近い私服だから、そんなに高価な物でも無いし。雨の日とかでも傘を忘れたら、普通にコレで濡れて帰る時も有る位だよ」

「そ、そうなんですか?」

「うん。だから……そうだねえ。今回のコレは、色の付いた雨に降られたとか、そんな感じで良いんじゃないかな?」

「いや、いやいやいや、流石に良く有りませんてっ!!」

せめて何かお詫びをさせて下さい。
そう云われるのと同時に、少年に改めて頭を下げられ、最早苦笑しか浮かばない。

律儀と云うか。正義感が強いと云うか。
実直と云うか。根がお人好しと云うか。

そんな調子で引き下がらない少年に対して、私は暫し思考する。久々の休暇。任務以外で現世に渡って来たのも久々だった。

空間的な地軸から見て、地獄の首都―『獄都』は、現世の日本國の首都である東京都の丁度真下に有る。今回来た横濱は、その地軸よりも多少なりと立地が異なるが―足を伸ばせば十二分に往来出来る距離だ。

獄都へ帰るには、現世に渡って来た際に開けた場所(入り口)迄戻らなくては成らないが、休暇は未々始まったばかりである。

しかも。今日は現世で云う処の『平日』である。この日を満喫しない手は無い。

其処まで思考して。目の前で滝の様に汗を垂らし狼狽し乍ら、此方の出方を今か今かと待っている少年を―ちらりと見遣る。

この子は、元来優しい人間なのだろう。
『憑いているモノ』はこの際別として。

現在の時代に於ける世界。現世の界隈には、嘗ての前世からの『繋がり』を引き継いでいる者たちが、少なからず存在する。

目の前の少年もその類いの人間だろう。

俗に『異能力者』と称されている人種。
万物の理の悉くをねじ曲げる能力を身に宿し、それを駆使する者たち。彼の大戦の後から高度成長期に掛けて国内外での出現率が高まったと聞きているが、如何やら―この横濱の街には、その手の人種の人口密度が、比較的他の地区よりも高いらしい。

一説に因ると。その『異能力者』なる人種には、各々に共通する『前世』が有るらしいのだが……まあ。それはさておき。今は目の前の少年の申し出に集中しよう。

「……ねぇ、少年。君はこの街の子?」

「あっ、はい。元々は違いますけど、今はこの街で暮らしてます」

手持ち鞄(ハンドバッグ)代わりの巾着からストールを取り出して―それを肩に掛け乍ら、少年の返答に「成程」と頷く。

「そっか。じゃあ、この街について、ある程度は詳しいって事で良いのかな?」

「えぇと。そうですね。詳しいと云うか、人並みだと思いますけど。それが如何かしたんですか?」

軽く小首を傾げる少年に、俗に云う処の『人好きそうな笑み』を浮かべて見せる。

「さっき、少年は私にお詫びをして呉れるって云ったでしょう?だからさ……」

云い乍ら、空いた侭だった少年の手を掴む。同時にビクリと少年の肩が揺れて、その反応に思わず小さく笑って仕舞った。

「食べ歩きデートしようよ、少年♪」

「なっ、何だ。良いですよ、デートくらい……って、えぇええぇっ!?」

了解したのも束の間。提案の意味を反芻したらしい少年は、耳まで真っ赤に染めて―悲鳴にも似た奇声を上げた。その初々しい反応に、私が笑ったのは云う迄も無い。

久々に触れた生者の体温は、今は遠い記憶のものよりもずっと、温かかった……。



(結ばれたる縁は奇なもの味なもの)
(事実の先にて奇怪な扉が開かれる)



【:†虎憑き少年に鬼女は微笑む†:】



《続》





>>>>《次回予告》



『生者の価値観はいまいち理解し難い』
『それは、何世紀経っても変わらない』


一人の獄卒が虎憑きの少年と出会った。
それは、偶然か。はたまた必然なのか。


『人間の口から出る『普通と云う感覚(或いは基準)』は、如何にも捉え処が曖昧で掴み処が難しい。人間は、難しい』


誰も予想だにしない二人の出会いから。
運命の歯車が、ゆっくりと回り始める。


『人間は難しい。故に理解し難い』


そして。物語は『入口』へと辿り着く。


『――次のニュースです。横濱の住宅街で連日児童の行方不明者が相次いでおり、事件性の高さから警視庁で捜査本部が敷かれる事となりました。これにより市警並びに軍警が捜索部隊を構成し、誘拐及び拉致監禁事件を視野に入れ、住宅街を含めた横濱近郊湾口の捜査が行われる模様です。市民の皆さん並びに保護者の方は夜分の外出を控える等、身の安全の確保に努めて下さい。繰り返します。市民の皆さんは――』


「人間相手だったら、多少のアプローチは効くとは思うけどね――無駄だよ」

「……は?」

「だから、無駄なんだってば。『自分たちの領分の中』だけで律儀に対応しようって云う姿勢は別に悪くないけどね。それじゃあ狭過ぎるよ。しかも要領が悪い。手遅れに為る迄時間は掛からないかな」


立ちはだかる失踪事件。綻びの無い謎。
行方不明の名探偵。獄卒は静かに笑う。


「此方側(現世)に『異能力者』と呼ばれる人間が居るのは知っているよ。でも、『相手』は人間ですらない。『生きている者の領分』で踏み込むには、この案件は余りにも分が悪いよ。被害が拡大するだけだ」

「何で……いや、貴方は、何を知っているんですか?」

「未だ何も。未々、知らない事だらけ。知りたい事だらけ。知らなければならない事だらけだよ。山積みだね。ただ、如何すれば『相手(犯人)』に辿り着けるかは知っているよ。多分。人間よりもずっと―ね」

「……貴方は、一体何者何ですか?」

「そうだね。『現世(此方側)の領分』では出来無い事が出来る者、かな。ちなみに、君たち人間の云う処の『異能力者』では無いよ」


異形。獄卒。異能力者。暗躍する思惑。
空間の交錯。現世と異界。此岸と彼岸。


「さて。此処じゃ何だし、早速『腹ごなし』に行こうか。あ。話は歩き乍らの方が時間短縮になるから、それで良いよね。何か長くなりそうだし」

「……え?行くって、何で……」

「何でって。君は『探偵』でしょう?『探偵』の職務は『探して解決する事』なのだから、早く行かないと本当に『手遅れ』に成っちゃうよ。『訳有り』何でしょ?」

「――っ!!」


獄卒は虎憑きの少年に手を差し伸べる。
虎憑きの少年は獄卒のその手を取った。


生者と獄卒。二人の手が重なる。
結ばれる縁。産声を上げる物語。


「……うん。『呼び掛け』に『応じ』たね。よし。じゃあ、行こうか」


虎憑きの少年の手を引く女性獄卒。
仲間を助ける為に。異界へと挑む。


「あの。如何して僕なんかを助けて呉れるんですか?」

「如何して助けるって、そんなの決まっているじゃない」


翻る着物。風に遊ばれる長い黒髪。
虎憑き少年の問いに鬼女は答える。


「『お詫び』をして呉れたお返し。所謂『お礼』だよ」


人間に程近い感覚と感情から。
虎憑き少年に、鬼女は微笑む。



(人間と異形の二人に待ち受けるは)
(闇に開く口か一縷の光差す希望か)



《※すみません。次回予告とか言ってるけど続きません》


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