「あの……」

少女がこちらを窺っていた。
いかにもおどおどした町娘といった風貌の少女だが、見た目通りの存在ではない。詳細は聞かされていないが、幼い肉体に尋常ならざる魔力を秘めているという。
彼女こそが依頼主の計画の鍵であり、今夜の儀式で重要な役割を果たすという。

「大丈夫だと……思います」

躊躇いがちな声。少女は瞳を伏せ、そっと胸元で手を合わせた。さながら祈るように。厳かに運命を告げる預言者のように。

「リャオさんは、こちらに向かっています」

「なに?」

サイードは瞠目し、依頼主から受けた警告を思い出す――少女と必要以上に関わってはない。喋ってはならない。何故なら彼女は恐るべき能力によってこちらの情報を読み取ってしまうからだと。
だがサイードは言葉の続きを待つことにした。
魔法使いと呼ばれる者達は観察力や洞察力に優れ、中には本当に心が読める者も珍しくない。サイードの幼馴染にも悪魔的な洞察力で周囲から気味悪がられていた魔女がいる。それを思えば目の前の少女に心の機微を読まれることは些末に思えた。

「リャオさんは無事です。走っています。この速度だと、儀式の終盤に再会できると思います。……たぶん」

言い切らないのは少女の性格だろうか。

「何故、解る」

「この遺跡が教えてくれました」

サイードは息を吐く。魔法使いは人知を超えるということを改めて思い知らされる。