テロルは胸騒ぎを感じていた。
向かい来る槍使いに雷撃を放ち、降り注ぐ矢はサルファーが吹き飛ばす。こちらが呪文を唱える隙を突いて近接戦闘に持ち込もうとする相手には石畳を棘のように隆起させて時間を稼ぐ。
一人、また一人と向こうの手勢が倒れていく。戦線が後退していく。逃げようとする相手を追撃する形だ。流れは確実にこちらに来ている。
だが、護衛に囲まれエラムの表情が気にかかる。焦っている、あるいは何かを待っている表情。

「普通に考えりゃ、時間を稼いでいるわよね。ああもう。研究内容の押収って条件がなけりゃ、こんな遺跡ごと生き埋めにしてやるってぇーのに……」

小さくぼやけば、頭上から返る声。

「一応言うけど、やめてね。折角の遺跡なのに勿体ないよ」

子供のような声色で喋る使い魔は、テロルにだけはぞんざいな口のきき方をする。

「確かに保存状態がいいわね。お宝は無さそうだけど」

「がめついー」

長い付き合いの相棒である。軽口を叩き合うのもいつものことだ。