「おひゃよん宇治川―! 土曜は誕生日だったのよねん!? ってことではぴばよー!! これあたしとちおりんから!!」
「OH……近ぇわ」
高槻のテンションメーターは月曜の朝から振り切れていた。目の前に包みを突き付けられているらしいが近すぎて見えない。
なんとか受け取って中身を見れば、文房具のセットだった。
「フミヒラよく研究ノートつけてるだろ? ついでに使ってくれないか」
水無瀬が高槻を引き剥がす。
「Thanks. 大事にすっから」
「良かったわん」
「悪かったな、数日遅れで」
「おいおい気にすんなよ! こういうのは気持ちだけでも嬉しいもんだ!!」
高槻と水無瀬は胸を撫で下ろした。
「ところで当日はどうだったのん? 豆まきした? ケーキとか食べた?」
「ナオ達と河原で花火してたら櫻井兄が来てケーキくれた」
簡潔に説明すると、水無瀬が呆れた目をする。
「あんたらいつも花火してんな……」
「爆竹もしたけどな。むしろそっちメイン」
高槻がしたり顔で頷く。
「やっぱしお祝い事には花火よねん」
「中国じゃねーんだぞ?」
「おいおい何言ってんだ。節分の日に火薬で鬼を追い返す風習は日本にもあるぜ?」
「少なくともこの地域には無いだろ」
「ばれちまったか」
この町の節分は、まあベタに豆まいて終わりだ。イワシの頭を飾ったりもしない。
「でよぉ、櫻井兄のケーキすげぇの。手作り」
「あらん」
高槻が口元に手を当て、櫻井兄の席を見る。櫻井兄はダチと話し込んでいた。
「ナデシコちゃんって和食のイメージがあったわん」
茶道部で部長まで務めた男だからな。そんなイメージが付くのも無理はないだろう。
ちなみに調理実習の成績も優秀だったそうな。
「ていうかケーキ作れんのかよ」
「普段は和食メインらしいけどな。洋食でしかも菓子作りとなると勝手が違うから難しいって言ってた」
「マジかよ……」
それを聞いて水無瀬が打ちひしがれる。
「大丈夫だって、おれも料理できねぇからよ!」
「あんたの大丈夫は安心できない!」
「はいはい、ちおりんは簡単なクッキングから始めるからいーの。で、味はどうだった?」
「普段ケーキ食わねぇから比較できねぇが、甘さ控え目で旨かった」
「やっだー、そんなのへたな男だと勘違いしそーう」
高槻が「キャー」とか言ってる意味はよくわからないが、ロクなことじゃないのはわかる。
「なんか……、ヤマトが同性から慕われる理由がわかった気がする」
「『胃袋を掴む』ってやつ? でもあいつ普段の気遣いもあるからそっちじゃね?」
「そりゃそうか」
おれ自身は誕生日を意識してはいないんだが、こうして祝ってもらえるってのは嬉しいことだと思う。
それだけに、もう卒業なのが惜しい。せっかくこんなに毎日楽しいのに。
「なぁ高槻、水無瀬。楽しかったことってずっと続くと思うか?」
当然のように高槻が笑い、それを見て水無瀬も安堵の笑みを浮かべる。
そうか。こいつらはお互いがいれば足りるのだろう。
「当たり前じゃない! 明日はもっと楽しくなるし、明後日はもっともっと楽しくなるわよ。未来がそうであるように、今を変えていくの。そしたらきっと、何があっても大丈夫なのよん!!」
「そいつはいいこと聞いた! ありがとな!!」
おれは卒業したらこの町を出て行く。
それでも、彼女達の言うように、何があっても大丈夫だと信じられた。