アイリス「マルクス様……いえ、お父様。私は、アイリスは、お嫁に行きます。今まで育てて頂いたご恩は決して忘れません。ありがとうございました。幸せになります……!」

マー「うわぁあああああああああああああああ!!!」ガバッ

ア「……? おはようございます、マルクス様。寝起き早々息が切れていらっしゃるのでお水をお持ちしますね」

マ「……な、なんだ……夢か……」


 * *


マ「で、だよヘリオス。もし手塩にかけて育てた娘がどこの馬の骨ともわからない男と結婚することになったらキミはどうする?」

ヘリオス「人を呼びつけておいて何だいきなり」

フラン「ヘリオスさんヘリオスさん、教会ってすごいですね! あんなにガラスを使ってますよ!? それにこのパウンドケーキもドライフルーツたっぷりでおいしいです!!」

ヘ「退屈ならあっちでわん太と遊んでても構わぬからな」

フ「はーいっ!」

マ「くっそぉ、娘ができたからってほのぼのしちゃって! 何その仲良し!! ボクなんか今朝、アイリスが結婚する夢を見たんだよ!? しかもボク神官だから司式しなきゃなんないの!! 何が悲しくて娘の結婚式を取り仕切らなきゃいけないの!? 『病める時も健やかなる時も』って嗚咽混じりで言っちゃうよ!? 極めつけはボクの眼前でチューするんだよ!? 頼みの綱のアコルスは式の最中ずっと笑いをこらえてるし、神官になんかなるんじゃなかった!! ぐすっぐすっ」

ヘ「泣くなよ……。他にも神官はいるんだろ? 代わって貰えばいいだろうに」

マ「娘の結婚式をボクがやらないでどうするの。べそべそ」

ヘ「はいはい。だがお前が見たものは所詮夢、気にすることもあるまい」

マ「なっ! キミはアイリスが一生結婚出来ないとでも言うのっ!?」

ヘ「面倒臭い奴だなお前」

マ「ふんだ。見てなよ! フランだってすーぐに大人になって、キミの元から離れるもん!! せいぜいその時に泣けばいいんだっ!!」

ヘ「生憎だが俺の家には結婚という制度は無いんでな。父上と母上も籍は入っておらず、同棲ということになる。相談する相手を間違えたのではないか?」

マ「うぐぐ、しょうがないじゃん! ソーマの所は男の子だし、ハッシュは娘が嫁に行くって単語だけで泣いちゃったんだもんっ」

ヘ「いい年した大人が揃いも揃って泣くなよ……。というか恋人すらいないんだろ? ならば結婚なんてまだまだ先だろ?」

マ「あっ」

ヘ「よし。では帰るぞフラン、わん太」

フ「はあい。あのね、マーくん。あたしけっこんとかよくわかんないけど、おとうさまがあたしのことで泣いちゃったら悲しい。アイリスさんもそうだと思うの」


 * *


マ「大切なのは娘の気持ち、か……。まぁ、アイリスならいきなり結婚なんかしないよね。何事も逐一報告する子だもん。ボクに何も言わないってことは彼氏なんかいないってことだもん」

ア「マルクス様、マルクス様に紹介したい男性がいるのですが」

マ「…………え???」