御題!
・メランコリックバイオレット
・秘密の花園
・またいつか。
この三文+リーマス、でいただきました。
久々によしっ、て思えるのが書けた。
と、自分でハードル上げて自爆するのがいつものわたくしの愚かな遣り道。
なので期待禁物。所詮は自己満なのです(涙
メランコリックバイオレットと言われてまっさきに思い浮かんだのはやっぱりクレマチス。
哀愁ただようむらさきいろの、わたくしの花。彼女の花。彼の花。あの方の花。
なんかもー!素敵な御題をどうもありがとう!ジョゼさん!
大変遅くなってしまって本当にごめんなさい。
エルシー
(ひとつ補足しておくと、リーマスは魔法界での就職が見つからないのでマグルの派遣社員として働いている…という設定です。)
(なので世界はマグルの世界です。)
(10月31日から3年くらい経ってる。)
ほんとにほんとにほんとに大好きだった。
一世一代の恋だった。
最初、落ちてしまった瞬間から。
自分でもみっともないと思うけれど、課長にかなりきついお灸を据えられている間も私はどこか上の空だった。
だって、もう自分でもどうしようもないんだもん。
お腹が空かないし、眠れないし、だから当然力が入らないし、目の前に紗がかかったみたいに全てがぼんやりして。
仕事どころじゃない。
あの人は転勤してしまったので社で会うことはないけれど、このオフィスにもあの階段にも社員食堂、駅までの道、最寄のコンビニ、自販機にだってあの人との思い出が詰まってる。
ああそういえば、友達の誰かに言われたっけ。
だから社内恋愛なんてよしなよって言ったじゃない、とか。
聞く耳なんてどこにもなかったの。
恋に溺れた私は魚と同じ。
目玉はヒトのそれほど役に立たず視界は歪んで、耳もないから何も聞こえない。
ただ浸かって満たされて浸って、そして静かに溺れてた。
なぜか置いてある、裏階段の踊り場のベンチ。
思えば、はじめて私があの人を意識したのはこの場所だった。ただの同僚だった彼が、ほんとはずっと私のことを気にかけてくれて見てくれていたって知ったのもこの場所。
最初に好きだと言ったのは、あの人だった。
恋人になって欲しいと言ったのだって、あの人だった。
なのに、なのにどうして?
きっと結婚するんだろうと、あの人の子供を産むんだろうと思っていたのは、全部私の独りよがりだったってこと?
もう涙も枯れ果てたのに、どうしてこんなに辛いままなんだろう。
悲しさとか悔しさとか虚しさとか、色々なもの。
どうしてちっとも薄れていかないんだろう。
「隣、良いですか。」
「え、は、」
同僚とランチを行く気にもならなくて、ひとり間抜けなほどぼーっとしてた私は、隣に人がいたことにすら気付けなかった。
昨日は車にクラクション鳴らされたことにも気付けなかったし…相当重症かもしれない。
私は私がこんなに弱いなんて知らなかった。
彼氏にフられたくらいでこんなことになるなんて、全然知らなかった。
「お昼。食べないの?」
「…へ?」
太ももに熱いくらいのぬくもりを感じて、ようやくだらだらと視線を下げると男の人の大きな手。その下の、缶の感触。
「これあげる。一緒に飲もう。」
そう言うと、男の人はぱっと手を離してしまった。私がほとんど衝動的に両手でそれを支えると、男の人は隣でカシュッと自分の缶を開けたようだった。
銘柄を見れば、ミルクココア。
確かにここは暖房も入ってないから寒いし、私も元少女の大多数に漏れずココアは好きだけれど、今はその優しいであろう甘さもぬくもりもただただ煩わしいだけだった。
ぎぎぎと音がしそうなほど錆付いた重たい頭を支える首を動かしてようやく隣へ目をやると、そこには予想外の人。
ルーピンさんだった。
え、どうして、なんで。
ルーピンさんは私が勤める会社のビルのメンテナンスを引き受けている会社の社員だ。
メンテナンスというのはつまり、事務や営業しかいないこのオフィスにおける様々な雑務全部(例えば電球が切れたりとか、トイレが壊れたりとか、時にはコピー機まで見てくれることもある)のこと。
ルーピンさんはそういう会社の従業員で、私の課があるフロアに問題ごとがあると電話一本で作業着姿でかけつけてくれる。
でもなんで、ルーピンさんが。
「ちょっと会わない間にずいぶん痩せちゃったみたいだ。」
「…はぁ。」
「何かあったのかな。」
「はぁ、…いえ。」
ルーピンさんとは別に知り合いというわけじゃない。
会社帰り、ひとりのとき、たまにぼーっとするために寄るコーヒショップで何度か見かけて、1・2度同席したことがあるくらい。
一緒にいて心地良い人だけれど、たいした話しもしなかったような記憶がある。
正直、今は誰かと会話するなんて煩わしくてたまらなかったけれど、不思議とルーピンさんはそこまでじゃなかった。
優しい空気を纏った人だ。
「例の彼氏、転勤したんだってね。」
いきなり核心を突かれて、でも私はそれにあんまり衝撃を受けなかった。
ルーピンさんの声は、言葉は、不思議なほどすんなりと私の耳と心に馴染む。
「前に彼と君がここでキスしてるとこ見かけたことあるよ。仮にも御法度の社内恋愛なのに、不用心だなぁと思った。」
ルーピンさんは甘く優しい声でわけがわからないことを言っていた。半分も理解できないままで、わたしの目からあふれ出す涙。
「…ついでにフられました。」
「それでこんな顔してるの?」
ルーピンさんは、私の顎にそっとカサカサの指を添えて、俯いていた私の顔を上げさせた。
力は全然入ってなかったけれど、逆らえない。
まるで魔法にでもかかったみたいだ。
「まるで世界が滅亡するって聞かされたみたいな顔だ。」
ルーピンさんは知らない。
何にも知らないんだ。
私がどんなにかあの人のことを愛してるか。
愛して、たか。
あの人と一緒ならこの薄汚れたほの暗い裏階段のベンチだってたちまち秘密の花園に早変わり。
自販機の安っぽいコーヒだってどんなバリスタが淹れたものより美味しいし、彼と交わす言葉はどんな詩よりどんな歌より私を楽しませてくれた。
差し出されたハンカチの色を見て、私の涙はいよいよ止まらない。
枯れたと思っていたのに、流れ出したら次から次へと溢れて止まらない。
そう、この色。
あの人が気に入って良く締めていたネクタイの色。
「この色は僕にとっても特別なんだ。メランコリック・バイオレット。」
大好きな女の子の色なんだ。
私の頬に目元に洗剤の匂いがする紫色のハンカチをそっと押し当てるルーピンさんは、予想外のことを口にした。
びっくりして涙も止まって、ぐちゃぐちゃになった顔を上げると、ルーピンさんは寂しそうに私に笑いかけた。
「…おんなの、こ?」
「…うん。同級生だからもう女の子なんて言い回しは可笑しいかも知れないけどね。卒業して、しばらくしたら全く会わなくなっちゃったから…どうしてもそんな印象の方が強くて。」
この色はね、僕にとってその子の色なんだ。
甘く優しい恋しかしたことがなさそうだと思ってた。
失礼だけど、そこには派手なドラマも悲しいドラマもないって勝手に思ってた。
「辛いことから逃げたいと思う?」
ルーピンさんは私にハンカチを握らせると、落っこちてベンチの下に転がっていた私の分のココアを拾って蓋を開けた。
そしてハンカチと反対の手にそれも握らせる。
「飲んで。甘いものは魔法のちからがあるからね。」
黙ってひとくち、口に含むとたちまちに胸がじんわりあたたまってきた。
これが本当に魔法なら、なんて優しい、私を甘やかす魔法だろう。
「本当に愛してるなら、誰にも、それがたとえ自分であっても、構わずに愛し続ければ良いと思うよ。報われなくても、辛くても、本当に愛しているならそれが自分の幸せにも繋がると思う。」
ルーピンさんの言葉は、長い長い長い間、真剣に誰かを愛している人間の言葉だ。
形振り構わない恋に溺れたことがある人の言葉だ。
私はそう直感した。
私みたいな浅はかな恋なんかじゃない。もっと深くて、濃くて、重たくて、正しくはないかもしれないけれど、とても真っ直ぐな。
そう思ったら、途端になんだか恥ずかしくなってしまった。
それをルーピンさんに悟られたくなくて、誤魔化すようにまたココアをひとくち。
美味しい。心に染み渡るみたい。
ひとくちごとに、わたしのこころ、マシになっていくみたい。
「そうでないのなら、きっと時間や色々なものが紛らわせてくれる。少しずつ、解決していくよ。」
「…ルーピンさん。」
初めて気付いた。
ルーピンさんの目、とってもきれいな色。
私は久しぶりに、本当に久しぶりに何かをきれいと思ったことにも気が付いた。
ううん、気が付けるようになったんだ。
ルーピンさんがそうしてくれた。
「ん?」
「ありがとうございます。魔法をかけてくれて。」
「…いいえ、どういたしまして。この魔法はよく効くんだ。何しろ僕らの学年で一番優秀だった女の子に教えてもらった魔法だからね。」
ひどい顔だろうけれど、にっこり笑ってそう言えば、ルーピンさんもとびきり優しいほわほわした笑顔でこたえてくれた。
ルーピンさんにはファンタジックな話が良く似合う。
まるで本当の魔法使いみたいだ。
どちらかと言えば、悪い魔女の呪いに対抗できない王子様の役どころだろうけれど。
「今度お返しさせて下さい。」
「あのコーヒショップでね。」
「はい、あのコーヒショップで。」
私はやっぱり、私のことを全然知らなかったみたいだ。
ほんの5分前まで、私は私の世界が滅亡してしまったと思っていたし、もう一生恋なんてできないと思っていたけれど。
そう遠くないいつか。
またいつか。
その前に、ルーピンさんとちゃんとお友達になろう。
【あまやかなごまかしが交錯するところ】
BGM【なし】なし
僕蜂蜜ミルクコーヒの蜂蜜5倍増しホイップクリームプラスのLLサイズね。
5倍増しとかできるんですか!?