御題!
花の園
貢がれる
勇猛果敢
この三文+できれば政宗さまか幸村で、でいただきました。
うーむ。
どうも失敗臭が漂ってる!
ごめんね、うさぎねこさん!
やっぱりあっちの18禁路線の方が良かったね(笑
大変お待たせしましたー。
明日には、もう1つ、あげられる…と思う、たぶん。
もうしばらくお待ち下さいませ。
エルシー
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私はそのとき、屋上のベンチでまどろんでいた。膝の上には食べかけのミルククリームがたっぷり挟まった小さなフランスパン。でも眠い。昨日夜更かししたから。
突然、そんなに遠くない場所で絹を裂くような声がして、(という言い回しは父に勧めてもらった時代小説で覚えたもの)、次いでバン、キィ、バタンの音。
ドアを開けて、ドアが閉まりかけて、そして閉まった音だ。
あ、誰かが。と思って閉じていた目を開いたら、予想外に目の前に両足。
近づいてる気配なんて少しも分からなかったから、私は正直とても驚いた。
「飯喰いながら寝れるなんて器用なヤツだな。」
赤ん坊かよ、と言いながら許可も得ずにどかっと隣に腰を降ろすこのお方は政宗さま。
私のクラスで一番の…適切な言葉が見つからないので目立つ人、とでもしておこうか。
人気者と言うのもちょっと違うし、かと言ってカリスマでは大袈裟すぎるし。
「寝てない。ちょっと休憩してたの。」
「飯喰うにも休憩が必要なのかよ。」
いやらしく笑うこの人の頬はほんのりと赤くなっていて、ふうむ、彼女と痴話喧嘩でもしたのかしらと思うのだけれど、私は賢いので詮索したりしない。
口は災いのモトだ。
「これどうぞ。」
下の自販機で買ったばかりの紙パックのジャスミンティを差し出すと、政宗くんは黙って受け取ってぴたっと頬に押し付けた。
この男、女に気を使われることに、貢がれることに慣れ過ぎている。
ありがとうも言わないし、私のお昼の飲み物の心配もしない。
(かばんの中にペットボトルのお水も持っているから、まぁ別に構わないんだけれど)
自分から進んでやってんだから、構わねぇだろ。とでも言いたげだ。
その辺がきっと、この人の不幸な気質だろう。
きっと人に迷惑かけちゃいけませんとか、何かしてもらったらありがとうって言いましょうねとか、誰にも教わらなかったんだろうなぁ。
「めんどくせぇな。」
何が、とも聞かない。言わない。賢い人は余計なことを以下同文。
面倒なら、私みたいに関わらなければ良いのに。
近寄ったり、隣に座ったり、モノを受け取ったり、独り言になっていないことを言ったり、しなければ良いのに。
でも私は口にしない。賢い、以下どーぶん。
この男の前で食事をするのはなんだか気が引ける(というのは間違いで、実はちょっと恥ずかしい)(別にこの男が好きなわけじゃないんだけれど、なんていうか、その辺は自分でも微妙な乙女心)ので、大きな口を開けてパンにかぶりつくことを諦めて、本を読むことにした。
今日は体育もないし、残りのパンは部活の前に食べよう。そうしよう。
「もう喰わねぇの?」
「…うん。」
これはあげないけどね。これは私のパン。
ビニールの口を折りながら、私は心の中でそっと呟いた。
それからしばらく、政宗くんは私があげたお茶をちゅーちゅー飲んだりしながら静かにしていてくれた。
私は読んでいる小説に夢中になって、もうチャイムよ鳴るな!という気持ち。
双子の女の子たちが、おじいちゃまのお家でもある城の中を逃げ回る。
女の子たちが本当に勇猛果敢で、お茶目でおしゃまで、賢くて、(私は賢いものが大好き)(だから自分もできるだけそうあろうとしているのだけれど)、そしてとても可愛いのだ。
2人で知恵を絞って、得体の知れないナニカから逃げ回る。
逃げて、逃げて、あと少し、朝日が昇れば助かるわ!でも、あああ、危ない!
「そんなに熱中して、何読んでんの。」
はっと現実世界に引き戻されて、一瞬ぽかんとした後で、たった今まで私の手のひらにあっためくるめく大冒険はヤツの手元に。
私はもう、小さな世界の秩序を正すためにお前こそを仕留めてやろうか?と凶暴な気分になった。
つまり何さらしてくれとんじゃ死なすぞワレぇ!という気分。(この下品極まるテンプレートチックな台詞は一体どこで覚えたんだろう)(記憶にない)
「政宗くん。」
怒りをこめて名前を呼ぶと、政宗くんは口元だけで笑いながら私に本を返してきた。
「ホラー小説の双子はなんで女なんだろうな。それも子供。」
「そんなの当たり前だよ。誰も主人公が双子の青年のホラー小説なんて読みたくないだけ。」
それじゃ冒険活劇になっちゃうでしょ?と、余計なことまでは言わないけれど。
「なんで?」
ちょっと意外だった。
どーでもいーオーラ全開なのに。
私と会話を続けること自体も、だ。
私は政宗くんという人間を、そういえばほとんど知らないのだった。
目立つから、勝手に知ったような気になっていただけで。
「女の子の方が弱くて可愛いからだよ。」
「…もうちょい、詳しく。」
「だからね、例えば冒険するとして。迷い込むなら誰だってすずらん香る山上の花の園が良い。どこまでも広がる青い空、鳥は歌ってうさぎは微笑むような。ゴキブリしかいないような臭い相撲部の部室なんて嫌でしょ。そういうこと。読書するなら、可愛い女の子が出てくる方が良い。応援したくなっちゃうほど弱ければなお楽しめる。」
「それがお前の見解なわけ。」
「でも政宗くんだって分かるでしょう。ただでさえ面倒くさい体育で、しかも高校にもなってなぜかクラス対抗ドッヂボール。そんなシチュエーションで、誰にとっても一番素敵なのは女の子たちのとびっきりの歓声が溢れてること。世界に彩りとアクセントを与えるなら、女じゃダメなことよりも男じゃダメなことの方がたくさんある。」
私がそう言って、今日はじめて政宗くんの顔を見ると、これまた予想外なことに政宗くんはこちらをまっすぐに見ていた。
ちょっと羨ましくなるくらいの目力だ。
私はふとその眼差しに耐え切れなくなって、ふざけて小声で「まさむねくーん」と昨日のクラスメイトたちを真似ながらまた前を向いた。
学び舎に静かな場所なんてないけれど、それでもここはまだマシな方だ。
「ある程度はしょうがないと思うよ。」
何のことだか、と一瞬自分でも思った。でも口をついて出てきてしまったのだから仕方ない。
あまり賢いやり方じゃないけど、思ってることを素直に口にしてみよう。
それが余計なお世話だったとしても。
「一生のうち一回でも、たくさんの女の子にきゃーって言われる人間がいったいどれだけの割合で存在すると思う?」
政宗くんは黙ってる。
「だから、ある程度の面倒はしょうがないんだよ。きっと。」
さっき政宗くんを引っぱたいたのは、政宗くんの彼女だったのかな。
私には知るよしもないけれど、彼女だってヒロインになりたかっただけなのだ。
この孤独で格好良いヒーローの。
政宗くんはその辺り、たぶん自覚がなさ過ぎるのが問題なんだよ。
政宗くんは黙ってたけど、別に怒ってる風じゃなかったのが良かった。
予鈴が鳴って、すっかり膝の上にあるだけになっていた本を閉じて(寝る前のお楽しみに取って置こう)立ち上がろうとした私に、政宗くんはようやく口を開いた。
「お前は?」
「え?あ、」
手首をぎゅっと掴まれて、ベンチに引き戻された。
「次生物室だよ、早めに戻らないと、」
「お前は、どうなんだよ。」
何が、とは聞かなかった。
聞かなくてもなんとなく分かったから。
政宗くんが何て言って欲しいのかも、なんとなく。
でも私は政宗くんの彼女じゃないし、ましてやお母さんでもないから。
だから、言わない。言ってあげない。
「面倒くさい、かな。」
そう答えると、政宗くんが薄く笑うのが空気で分かった。
ふうん、なるほど。少し、政宗くんのことが分かってきた気がする。
「たまにはちゃんと言えると良いね。」
私も笑って返す。
政宗くんは私の手首から手に握り直して、ちっちゃな声で何かをもごもごと口にしたのだけれど、私は聞こえないフリをした。
伝わったから、まぁしょうがない。生物は諦めてあげるけど。
「でも政宗くん、私まだお茶のお礼も聞いてないよ。」
【屋上にて】
BGM 【WANNA BE A HAPPY WARRIOR】 鬼束ちひろ
人恋しいので、もちょっと一緒にいて下さい。