佐助くん。
これ佐助くんサイドも書きたいなぁ。
激しく書きたいなぁ。
色々と設定があってですね。
ちなみに2人が恋仲だったことは一度もなく、どちらかと言えば佐助くんの片想いで、それでもにょもにょふがふが。
書くかもしれないから黙っておこう。
真田くんがなんだかどえらい空気読めるオトコに書いちゃったけど、BASARAで空気読めるのなんて慶次くんくらいだと思う。
小十郎さんとか半兵衛は、カンフル剤が側にいなければやってやれないこともなさそうでもないかもしれなくもないけど…。
BGMは我らがありぷろから。
もうこの曲は肉体の悪魔と並んで好き。
でも書き終わった後に思ったんだけれど、私、前にもこの曲で何か書いたような…?
なんだっけ。忘れた。
猿飛くんはすごい人だ。
文句のつけようがないイケメンでスポーツも万能だし勉強も出来る。
それら全てを鼻にかけたりすることなく、おせっかいなくらい面倒見も良くて、だからいろんな人に慕われたり惚れられたりしている。
顔も広くて意外な人とも顔が利いたり、とにかくすごい人なのだ。
大学中の誰もが猿飛くんのことを知っているんじゃないかと思うくらい。
だけど、誰にも優しいはずの猿飛くんなのだけれど、私は一度も話しかけてもらったことがない。
それどころか目も合わせてもらったことがない。
たまになんとなく視線を感じて目を上げるけど、そこには友達と楽しそうに喋る猿飛くんの姿があるだけ。
秋からのプレゼミで同じクラスになったのに、それでも猿飛くんは頑なに私に関わろうとしない。
しまいには周りの人に「彼と何かあったの?」なんて聞かれる始末だ。
そんなの、こっちが聞きたいよ。
今日も今日とて、猿飛くんは見事なまでに私を徹底的に無視する。
そりゃ私は猿飛くんの彼女みたいに可愛くはないし、というかむしろ男友達とか数えるほどしかいないようなそんな女だけど、でもこれはちょっと切ない。
誰にでも優しい猿飛くんとかいう前振りがある分、余計にせつないんです。
「ねぇ真田くん。」
「んごっ、にゃんでごあふふぁ。」
飲み込んでからお返事して欲しいなぁ。
心の中で呟いた言葉を表情から読みとったのか、そんな繊細なことができるような真田くんではないけれど、真田くんはちゃんとお口の中のお団子をごっくんしてからもう一度言い直してくれた。
いくら空き教室だからって、誰か入ってきたらどうするつもりなんだろう。
このハムスターみたいな間抜けな顔を見られちゃうのに。
(そんなことを気にするような真田くんではないのだけど)
ちなみに、真田くんが両手に持って頬張っているこのお団子は私の家の近所にある日の出屋さんという昔ながらの和菓子屋で買ってきたものだ。
日の出屋さんは萎びたような何の変哲もない和菓子屋さんだと思っていたのだけれど、その筋の人には有名なお店らしくて、偶然近所に住んでいることを知った真田くんに時々こうしたおつかいを頼まれる。
「なんでござるか?」
「猿飛くんのこと。」
「佐助?佐助がどうかしたでござるか。」
別に今ここで全部食べなくても…と思うのだけど、真田くんに言わせれば、団子というものは出来た瞬間が一番美味しいのであって、その後はひたすら風味は落ちて固くなっていく一方なので、一分一秒でも早く租借しお腹へ収めてあげるのが最大の敬意なのだとか。
全然分からない。味わって食べれば?と思うけど、口には出さない。私にだって、誰にも分かってもらえないような食の趣味、色々あるから。
恥ずかしくてここでは言えないけど。
話がそれた。
そうそう、佐助くん。それが、どうかしたんですよ。
私がカクカクシカジカとご説明申し上げると、真田くんはどんどん怪訝そうな顔になって、それから「うーむ」と唸って黙り込んでしまった。
「真田くん、いかがでしょうか。私猿飛くんに何かしましたか。」
「ただ単にお主のことが苦手なのではないか?」
「え、そんな身も蓋もない!」
「しかしそうとしか…、」
「真田くんひどい!もうお団子買ってこないよ!」
真田くんてば、自分がついこの間まで女の子全般が苦手だったからって。
(改善した理由を1から話していては長くなるのだけど、まぁ簡単に言ってしまえば最後に愛は勝つ!ということなのだ。)
なにやら喚いている真田くんを適当に交わしてもう帰ってしまおうと思ったその時だった。
ガチャと扉が開く音がして、なんと話の当事者である猿飛くんが入ってきたのだ。
「…旦那、廊下まで声が響いてるよ。」
猿飛くんは、いつものような人当たりの良い笑顔を貼り付ける努力もしないで、恐ろしいほどの無表情のままこちらへ近づいてきた。
「おお佐助!ちょうど良いところへ!ここへ座れ!」
「えっ!」
真田くん、いきなり何を!と私が抗議する間もなく、真田くんは無表情な猿飛くんの腕を引っ張るとぐいっと私の前の隣へと座らせた。
「何事も、聞き話さねば始まらぬ。」
「ちょっ、」
「佐助も。女子には皆優しくしろと言ったのはお前だぞ。」
「真田くん!」
真田くんは有無を言わさぬ強引さで、そのまま教室を去って行った。
うわ、完全に立ち去るタイミングを逃した、私。
恐る恐る隣に座っている猿飛くんを見ると、猿飛くんはかたくなにこちらを見ようとしないで、じっと前を見つめていた。
うーわー。恨む、恨むよ真田くん!
今度から手数料上乗せした代金を請求してやるからな!
「あのー、なんかごめんなさい。私も帰り」
「何喋ってたの。」
私はぎょっとして、立ち上がりかけた腰もそのままに猿飛くんを見た。
猿飛くんは頑なに前を見たまま、もう一度同じことを繰り返した。
「旦那と。何話してたの。」
「えっ?えーっと、いえ、別に何も、あの、ほんとに、」
情けないほど挙動不審になってあわあわと両手を振るけど、それでも猿飛くんは怖いほど無表情、無反応。
段々せつなさがぶり返してきて、やっぱり立ち去ろうと思うんだけど、泣きそうになって出来ない。
猿飛くんがどっか行ってくれれば良いのに。
ああでもでも、独り取り残されたらやっぱり泣くかもしれない。
ほんとに私、何かしましたか。
「さるとび、くん。あの、」
「…綺麗だね。」
今度こそ、ほんとにびっくりした。
何の前置きもなく、髪を触られたのだ。髪。今日、朝時間なかったから適当なアレンジをほどこした横結び。それを、つんつん、と引っ張られた。いきなり、なんだ。
「あの、あの、」
「染めないの?」
猿飛くんは指先で私の毛先を弄りながらぼんやりと言った。なんだろ、一方的にやきもきしていたとは言え、接触という意味で言えばほぼ初対面なのに。
というか、猿飛くん、彼女いるのに。
なんだろう、なんだろうなんだろう。この感じ。
キラキラ光る猿飛くんの髪の色の向こう側。翳んだ何かが漂ってる気がする。
「えっと、あーうん。今のところ。白髪になったら考えるかも、なんて。えへへ…へ。」
もうちょっとマシな答えは出来ないのか、私。
でも、なんだか考えがまとまらない。もっと大きな、考えなきゃいけない何かがあるような気がして。
「猿飛くんはその髪染めてるの?」
随分綺麗に染まってるなぁ。
猿飛くんは何にも言わないで、初めて私に笑いかけてくれた。
えっ、なに、突然どうしたんですか。っていうか笑顔…なんて素敵なんだろう。
なんて暢気なことを思った次の瞬間だった。
突然視界が暗くなって、あったかくなって、猿飛くんにぎゅっと痛いくらいに抱きしめられた。
「えっ、えっ!?さ、さるとびくん!」
いくら猿飛くんが社交性抜群だったとしたって、いきなりこれはちょっと!
というか、え、待って、ちょっと!
「猿飛くん、ちょっと、あの、」
なんとなく無碍に押し退けることも出来なくて、だからってここは構内なわけでして、私があわあわ動揺してなんとか腕の中から抜け出そうとしても、猿飛くんはそんなことちっとも気にしないでますます私をぎゅっとした。
あつい。身体が、頬が、あつい。
この人の熱を、恐怖と喜びを、わたしは、知って、いる?
「…忘れちゃったんだね。」
猿飛くんの言葉に、私の胸はおかしいほどドキッとした。
指摘されたくない何かを的確に突かれたようで。
猿飛くんは、私を力一杯抱きしめたままで私の首筋に顔を埋めた。
息がかかる。恥ずかしい。怖い。でも、嬉しい。
「それで良い。それで良いんだよ。」
あんなものは置いてきて正解だ。
猿飛くんは切々と、細い声で私に囁いた。
でも猿飛くん、あなたちっとも良さそうじゃないよ?
声も身体も震えて、今にも泣きそうじゃないか。
なんとかしてあげたい。この人を温めて、悪いもの全てから救ってあげたい。
唐突にそう思って、私も猿飛くんの背中にぎゅっとしがみ付いた。
だけど今の私には、この人の震えを止めてあげる手立てがない。
なぜかそれだけははっきりと理解できた。
「ごめんね、ごめん。ほんとに、」
猿飛くんは、何に謝ってるんだろう。意味が分からないのに締め付けられるこの胸は、いったい。
泣き出した猿飛くんを抱きしめながら、私は霞がかかったような思考回路で懸命に何かを思い出そうと頑張っていた。
猿飛くんの髪の毛の向こう、確かに一瞬何かが見えたような気がしたんだけど、でもそれはすぐに沈んでしまってもうどこへ落としたのかも分からない。
まるで波打ち際に漂う葉っぱみたいだ。
掴めそうと思った次の瞬間には、また向こうへと引き戻されていてとても手が届かない。
そのうちに、波に紛れて沈んでしまうのだ。
猿飛くんは一生懸命に、「なんにも思い出さないで」「俺を許さないで」「そうやって笑ってて」「今はもう何に怯えることもないんだ」って繰り返して、私の胸はその度にメッタ刺しにされたみたいに痛むけど、何も分からないまま。
猿飛くんが泣き止んだら、一体どうなるんだろう。
明日から私はどんな顔して猿飛くんに会えば良いんだろう。
それとも何事もなかったように、また関わらない毎日が来るんだろうか?
そう考えたら、また胸がちくっと痛んだ。
この痛み、確かに覚えがあるはずなのに。
「ひいさま…。」
おれの、ひいさま。
そう呼ばれた瞬間に、私の中の私じゃない私が勝手に口を動かした。
「…さすけ。」
いつの間にか、私も泣いていた。
この涙は、一体誰の涙なんだろう。
【細波】
BGM【汚れなき悪意】 ALI PROJECT
どうか、許されなくても。
ひいさま。
ねぇ、俺の姫様。