4月頃からちまちま書いていて行き詰まった企画提出用のお話。
お相手は我らがキッド船長です。
お借りしてる本来の題名は「分かった振りはもういいよ」なんですが、段々逸れてきたので一応仮題。
※attention※
例によって例の如く夢小説。
名前出て来ないギリギリのとこで切ってあります。故に書きかけ。
それどころか手直しも面倒で文の途中でぷっつりと切れてます。すみません。
なんか色々とあれな話。あれって何だとか禁句。
それでも良いって御方だけどうぞ。
幼馴染みという程の縁でもなかったが、しかし世間一般的に見れば俺とあいつは幼馴染みという枠に当てはまるんだろう。今じゃ誰一人として信じやしねえが、あいつは確かに恐ろしい程の駻馬っぷりをその幼少時代に発揮していた。今では俺ですらその時代を夢か幻かと疑うばかりの性格の改変を遂げた。女は化けるというが、そりゃあ確かな事らしい。これほどまでに実感出来る例も他にないだろうと断言出来る。
ガキの頃のあいつは、全く豪い男らしさを備えた奴だった。その頃あいつに出会った俺は、何年かそこそこの付き合いを重ねてきたというのに、あいつが髪を伸ばし始めるまで女である事に気付かなかったというのだからとんだお笑い草だ。女の方が先に成熟するというが、その通りだ。精神的にも肉体的にも、あいつは俺や、連んでいた誰よりも一足速く成熟した。情けない話、あの頃はちょっとした仕草にも劣情を抱いたもんだ。俺も若かったらしい。
気付けばじゃじゃ馬だった、俺の知るあいつはどこか遠くへと飛び立っていき、思慮深いもの静かで知的な女がそこにいた。親しみは地平線の彼方へと消え失せ、横たわるのは埋まらない溝。あいつが変わり始めたのはいつだったかなんて事は、抱いた劣情をどうやり過ごしていたのかなんて事は、幼い親しみの喪失感をどこへ追いやったかなんて事は、何一つとして覚えてやしないが、それでもその変化で植え付けられた燻る熱情が、その後の俺達の関係を変えてしまった事だけは理解出来る。
「キッド、約束して。あなたの望むまま、攫われてあげる。だから約束して」
青臭い劣情のままあいつを奪い、海賊に出ようと思い立ったその日にあいつを日常から攫った。あの女の望んでいた平穏を滅茶苦茶に打ち壊し、平和が何より似合うあいつを危険に曝す事だと知っていながら、俺は自身の欲望に従った。欲望に忠実であるといった面は今も変わらず、そういった意味では俺は誰より海賊らしいと自負している。
反省の色も見せず、腕を引いた俺を、あいつは陰った顔で笑って、容易く赦した。その赦しは、逆に俺に後悔を与えた。知っていて赦したのなら、随分な確信犯だが、あの時のあいつにそんな余裕もなかっただろう。あの時あいつには断罪する権利があったというのに、制約させるでもなく、ただ緩い約束一つを俺に抱かせ、そのまま俺に付き従った。そのどこか必死な訴えは、俺の胸に小さな染みを残したのだった。今も色褪せない、鮮やかな染みをひとつ。
今、あいつは後悔しているだろうか。
いつの間にか大型海賊団になった一味の中で、誰よりも最初から共に在ったあいつだけがいつまでも浮いていた。そこだけが平坦。空気が違いすぎた。馴染めなかったのか馴染もうとしなかったのか、そんな事は俺の知ったこっちゃねえが、稀薄な気配で宴会の時すら誰とも交わらない姿を見たときは憐れみすら感じた。虚しさが付き纏う。
あの女は日増しに存在感がなくなっていくようだった。俺達がキッドを頭として海賊旗を掲げると決めたその日から、彼女はすでにキッドの横に居たから、どういう経緯があって船に乗る事になったのかは知らない。その時から今と寸分違わぬ疲れたような微笑みを湛えていたが、それでも街娘のような明るさはあった。グランドラインに入った直後までは、親しくはないにしろ、俺達クルーともそれなりに親交があったのだ。
「キラー、頭は先に街へ行ったぜ」
「……あァ、俺も直ぐ行こう」
いつからだろう。彼女と話さなくなったのは。徐々に徐々に回数が減り、やがて誰も疑問に思わない程彼女の気配は稀薄になった。なるべく小さくあろうとするかのように縮こまった背中を、俺は忘れられない。
真夜中、誰も居ない船尾で、憂いを帯びた顔をして遥か遠くを見つめる彼女に、痛みすら覚えたのはそう遠くない過去の話だ。今では誰にも会わない時間以外で、彼女が部屋を出ることもない。
小さく小さく。
淡く淡く。
消えて行こうとしているような。
「おい、キラー?」
「………」
傷付いて、いるのだろうか。
だとしたら俺が心配するのは、俺達が気に掛けるのは、お門違いというものだろう。俺達は共犯だ。この広い海の上で同じ罪を重ね、同じ苦しみを味わわせている。それは例えキッドの罪だとしても、知っていて誰も止めない俺達は共犯だ。
遠ざかる船を振り返り、船尾に腰掛ける彼女の姿が一瞬揺らいでドキリとした。
「ふふ、グラスが空よ、船長さん」
「……あァ」
「ウイスキーでもいかが?」
「…バーボンを寄越せ」
デカいソファだ。黒い革張りの、いやに座り心地の良いソファ。両隣に侍らす極上の女が甘えたように撓垂れ掛かってくる。億越えの首が関係しているのか、それとも羽振りの良さが関係しているのか。或いはその両方かもしれないが、俺達は街の一番大きな酒場のVIPルームにいた。媚び諂う店主の顔は見ていて反吐が出そうになるが、悪い気はしなかった。
権力とは違う力が、俺達にはある。強いアルコールを煽って、近付く夢に酔いしれた。
体の線を強調するようなシンプルなマーメイドドレス。こういう店にしては露出の少ない格好をしているというのに、カルアと名乗った女は驚くほど色香を漂わせていた。成る程、これは店一番の女だろうと納得出来る程の妖艶さ。
安いラム酒も嫌いじゃねえが、極上の女と最高級の酒に囲まれてる時はまた格別というものだ。満足出来るわけでもねえが。
かったるく流れ続ける音楽は、野郎共の笑い声で殆ど聞こえねえ。時折途切れる合間を縫って耳に届くグランドピアノの音色は、酷く耳障りだった。
微かに木の軋む音がし、視線を向ける。BGMは殆ど聞こえねえってのに、そういうもんには敏感な辺りが海賊の倣い性だなと鼻で笑った。
「ここに居たのか」
「よォ、キラー。遅かったじゃねえか」
「置いていったのはお前だろう」
「ははッ違ェねえな」
ふ、と軽く笑うキラーに合わせるように俺も喉を鳴らした。
宴も酣、遅掛けに来たキラー達を近場に座らせ、女達に酌をさせる。
ゆるゆると気だるげに動く