「危ねえ!姐さん!!」


振り向いたアンジェラの見た物は、ロッソとパトリックが燻る場所から伸びる蔦の様な無数の触手。


「うわぁっっ……」


それは蛇の如く動き回り、アンジェラの脚や首に絡み付いてきた。

拳銃を乱射するジュリアーノ。
アンジェラは黒い手袋を外し、武器となっている義手を使い蔦を切断する。

「な…なんだ?コレは…?…まだ生きていたのか…!?」


ジュリアーノやその部下達がマシンガンを乱射する。必死に抵抗するアンジェラ。
しかし、もがけばもがくほど蛇蔦は絡み付いてくる。

ついには引き倒されロッソとパトリックが燻ってる場所まで引きずられるアンジェラ。

その様を呆然と見詰めるミカエラ。


「あ、あ、あ……」


「ミカエラ!何をしてるの?助けなくちゃ……」


ビアンカが、アンジェラに駆け寄り必死に蔦をちぎろうとするが、絡み付くばかりで埒があかない。


「フヘヘ…死んでたまるかよ…ロフカル如きにやられて死ねるかよ…」

パトリックの燻る肉塊から声がした。恐るべき再生能力だった。


「……この女の血を頂けば…少し回復するかな……?グヘヘ…」


アンジェラは完全に搦め捕られ身動き出来ない。
触手が服の中まで侵入してゆく。


「きゃああ〜〜っ!!」


「アンジェラさん!?」


「よせ…ビアンカ…お前まで巻き込まれてしまうぞ……」


ジュリアーノは、パトリック本体のある場所に移動し部下を誘導する。


「おいっ!こっちだ!!元を絶つんだ……」


本体に向かい乱射する。が、無駄骨だった。
やはり、パトリックには人間の武器が通用しないのか。


「ち…ちきしょう…!?どうしたら……」

諦めかけた矢先、ジュリアーノは先程までは存在しなかった光景が見えた。
ビアンカのすぐ傍に、長大な剣が突き刺さっていたのだ。


「ビアンカ!?その剣は何だ……!?」


「え……?」


触手を引きちぎりつつ、振り向くビアンカ。


「これは……?」



(ビアンカよ…聞こえるか…

その剣は我が宝刀“天魔の剣”だ……)


「だ、誰なの?…頭に直接、声が響いてくる…?…何か懐かしい声が……」


ビアンカは、頭を抱えて剣の方を見据える。ゆっくりと立ち上がり、剣に向かって前進。


(その剣を抜け!それを使いこなせるのはお前だけだ……)


「はいっ…」


静かに剣を抜き、構えるビアンカ。


(ビアンカよ!立て!討て!斬れ!!)


アンジェラは、すでに虫の息だった。
パトリックであった肉塊が緩やかに盛り上がり、徐々に元の姿を形成しつつあった。


「おいっ…姐さん…しっかりしろ!今すぐ助けるからな…」


ジュリアーノと部下達が力ずくで触手を引き離そうにも、もはや完全に一体化していた。


そこへ、草を踏む音が聞こえる。


ジュリアーノが振り向くと、剣を構えたビアンカが立っていた。


「ジュリアーノさん…そこをどいて……」


「あ…ああ……」


「化け物め…アンジェラを離せ……」


「んん…?なんだお前…その剣は……??」


一陣の風とともに剣を振り下ろす。

ゼリーでも切る様に、パトリックの身体はあっさりと真っ二つに切り裂かれた。


「…ぐあああっ!!」


断末魔の声とともに、アンジェラに絡み付いていた触手はすべて収縮してゆく……


「き…斬れた…?」


「おおっ…やったか!?」

ジュリアーノは飛び上がり、倒れるアンジェラに向かい走り寄る。
ビアンカは剣を下ろし天を見上げる。


「ありがとう…パパ…」


「やったな…ビアンカ!」

アンジェラを救出したジュリアーノが肩を叩く。


「あ…はい……」


不意に気付いた。


(……えっ?今、わたし…パパと言ったの…?)





わたしはビアンカ。



今はまだ、自分が何者なのか思い出せない。



だけど、この胸に宿る炎は誰にも消せはしない…



たとえ、わたしが悪魔であろうとも…








《続く》


初掲載2009-12-06