2017-3-26 13:26
『B&M』Vol.13「殺しが静かにやって来る」
パトリックは、地獄の暗殺者である。
闇の刺客、魔界の処刑人…そして“死神パトリック”
様々な通り名を頂いていたが、特に気に入っていたのが“魔王より魔王らしい魔王の様な奴”と言う異名だった。
「なんだぁ…この有様はぁ……??」
2メートルはあろうかと言う巨大なショットガンを肩に担ぎ、黒い鍔広の帽子に黒いコートに身を包んだパトリックは、戦場跡の様な死体が転がる地に脚を踏み入れる。
それは、ラボミア軍とジュリアーノの兵隊達の無惨な死体だった。
「また地獄に戻っちまったのかと思ったぜ…へへ…最近の地上も景気がいいらしいや……」
ビアンカの父ベルフェゴールは、ロッソと行動を共にせず、娘の危機には姿を現さず辺りを見守っていた。
新たな危険を察知したからだ。
それも、自分の身に降り懸かる危機だった。
闇夜に隠れ、姿を消していたベルフェゴールだったが、この地獄からの来客の臭いを感じていた。 小屋から離れた地に彼は待っていた。
「そこに居たなぁ…ベルフェゴール公…」
「死神パトリックだな…?」
「ご存知とは光栄ですな。しかし、会った途端にお別れ会とは寂しいけど、これも我輩の任務なんでねぇ……悪く思うな…」
ショットガンを構えるパトリック。
「パトリック、お前が来るとは…。魔王は…もう我々の動きを察知していたか…」
腰から、自らの愛用の剣を抜き構えるベルフェゴール。
「だから我輩を寄越したんだよ…お前さんの嫁も息子も、もうベリアル様に捕えられたよ…」
「おのれ…ウインドウめ……」
パトリックの言葉を聞き、怒りを瞳に宿したベルフェゴールは、左腕から稲妻の様な光線を発射する。
だが、それを吐息だけで軽く弾き返す。
「アディオス!大公…」
剣を構え、襲い掛かるベルフェゴール。
パトリックのショットガンが炸裂した。
それは、空間そのものを破裂させベルフェゴールの肉体を粉々に吹き飛ばす。
彼の細胞は地上から完全に消え失せていた。
(……ビアンカ…我が娘よ……もう一度、会いたかったぞ………)
ベルフェゴールは、断末魔さえも微塵に粉砕されていた……
「うっ………」
突然の悪寒を感じたロッソは、頭を押さえてうずくまる。
「どうした…ロッソさん…?」
酒を酌み交わしていたジュリアーノと幹部数人は、ロッソの急変に色めき立つ。
(あ…兄者……ま、まさか……!?)
ロッソは、兄ベルフェゴールの異変を感じた。だが、周りで心配そうに見守るジュリアーノ達を見返すと、何事もなかった様に立ち上がり、再び椅子に座り直す。
「ああ…なんでもない……ちょっと飲み過ぎたかな…」
「おいおい!だらしねえぜ…ゲリラの大将!!」
アルがロッソに近寄り、酌をする。
「まだまだ夜は始まったばかりだぜ…なあ、ジュリアーノ…」
「ああ、僕は少し酔い醒ましに外を歩いて来るけどな……」
「なんでえ!ウチのボスもたいしたことねえなぁ〜はっはっは…!」
「アル…あとで撃ち殺してやるから待ってろ…」
「お待ちしております。ドン・ステファネリ!!」
敬礼で応えるアルだった。
ジュリアーノは、火照る顔を外の冷気で冷ましにふらつく脚どりで出て行った。
アンジェラは、ビアンカから借りた服を腰に纏った姿で地下牢を抜け出す。
「ビアンカ…借りが出来たね……」
「気にしないで下さい。アンジェラさん……」
「もう一度聞くよ。わたしと一緒に……」
「ビアンカ!そこで何をしているの!?」
それは、様子を見に来たミカエラだった。
月が逆光になり顔は陰っているが、明らかに驚愕した表情が見えた。
ビアンカの横に佇むアンジェラの裸身が目に映る。
「ア…アンジェラ…?ビアンカ…あなた一体何をしてるの?」
「ミカエラ…ごめん。わたし…」
「逃がさないわよ!」
階段を駆け降り、アンジェラにタックルするミカエラ。その衝撃で床に倒れる3人。
「うぐっ…ミカ…」
「アンジェラ!!あなたはわたしが殺すの!」
「ミカエラ…貴様…邪魔をするな……」
ミカエラを留めたのはビアンカだった。
「ミカエラ…アンジェラを…許してあげて…ここは見逃してよ…」
「ビアンカ!あなた、自分が何を言ってるのか分かってるの!?」
そこに渇いた銃声が響いた。いや、銃声と言うより爆音に近かった。
それは、ロッソ達の居る小屋の方からだった。
「今の音は…?」
3人は顔を見合わせた。
ドアを突き破り、現れたのは刺客パトリック。
アルの頭とドアを同時に吹き飛ばし、さらにロッソの右半身をも粉々にしていた。
「な…なんでえ!コイツは……??」
さすがのマフィア達も慌てふためく。酔っ払っているため、武器を手にするのも覚束ない。
血の吹き出る右肩を押さえながら、ロッソはパトリックを睨み据える。
「そろそろ来ると思ってたよ……死神パトリック…」
《続く》
初掲載2009-12-02
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