ずぶ濡れの青年は、ひとまずコートを脱いだ。

下は黒いスーツにエナメル靴。どう見ても登山の格好ではない。

訝しむミカエラだったが、特に断る理由もなく中へ通した。

「どうぞ…何もお構いできませんけど…」


それと言うのも、ミカエラはこの青年のルックスが気に入ったからだ。

自分と同じ様な金髪に碧瞳…

それに目鼻立ちがハッキリした甘いマスクは天使を思わせた。


「ああ…ありがとう。お嬢さん…ええと…」


「わたしはミカエラ♪♪」


「ああ!よろしく…ミカエラさん…」

二人は握手を交わす。

大柄だが、細長い指は女性的ですらあった。


「そして、あの子は親友のビアンカよ♪♪♪」


「ああ…二人とも可愛いね。雨が上がるまで少しお世話になるよ…」


照れながらミカエラは暖かいお茶を用意する。

「あ、あなたも素敵よ……ジュ…ジュリ……」


「ジュリアーノ。ジュリアーノ・ステファネリだ…」


「ジュリアーノさんね…」


ミカエラは、迂闊にもジュリアーノの額にかかる長い前髪と、瞳を彩る長い睫毛に見とれてしまっていた。まるで、自分の分身か兄弟でも見る気分がした。


「あなた…中性的ね…とても綺麗な顔してる…」


「そ…そうかい?」

ジュリアーノは、照れながら前髪を掻き上げる。


「この山へは…何をしに来たの?」


不意にビアンカが割り込んできた。


「ああ…聞いてくれよ。僕は、実はコーザ・ノストラの一員なんだが…あ、この事は内緒だからね?ある揉め事を解決する為に近くの山まで来たんだけど、仲間と逸れてしまってね…さ迷い歩いていたらいつの間にかこんな山岳地帯まで入り込んでしまったのさ…」


「あなたが…コーザ・ノストラ…!?嘘でしょ?」

すかさずミカエラがツッコミを入れた。ビアンカは不思議そうな顔をしてジュリアーノを見詰めている。

「ミカエラ…コーザなんとかって…?」


「マフィアの別名よ」


「マフィア?」


ジュリアーノは、ウインクしながら口の前で人差し指を立て、内緒のポーズを取ってみせた。

「マフィアが別名なんだよ。…我々は誇り高きコーザ・ノストラさ」


「あなたがギャングだなんて…とても見えないわ…」


「はは…ギャングね(笑)」


確かにジュリアーノは一見、エンジェル・フェイスの優男で、とても暴力の中で生きる男には見えない。


「人は見掛けによらないって、言うだろ?」


言いながら、ジュリアーノは懐から拳銃を出すと、いきなりドアに向けてぶっ放した。


「きゃあ〜〜っ!?」


悲鳴を上げるビアンカとミカエラ。


銃痕の残るドアの向こうで、何かが倒れる音が聞こえた。


「な、何……?」


「奴らめ…こんな所まで追ってきやがったか…」


ジュリアーノがドアに近付き気配を確かめつつ、そっと開ける。

だが、意外な反応を示した。

「うっ…コイツぁ……」


ミカエラが恐る恐る近付くと、そこに倒れていたのはジュリアーノの思っていた敵対するマフィアではなく…

ラボミア軍の制服を着た兵士が血まみれで横たわっていた。


「お嬢さん方…あんた達は一体、何者なんだい…?」









《続く》


初掲載2009-11-24

【※イラスト:tyakki様】