ふたりのおしゃべり
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2017.3.20 Mon 20:28
なばてあ

「移動しよう」


と提案したら、意外にもすんなりOKされた。


ラインやカカオトークなどの、よく使われているアプリのIDを交換することを、移動と呼んでいた。


「緑ので良い?」


もともと使っていたチャットアプリは、直接の出会いにつながる「ライン」などの、運営にとって不都合な単語を検知して、メッセージの送受信を停止させるような仕様になっていた。


よって、移動することは、そのアプリを使って人と繋がろうとする人にとっては最初の関門だった。


移動を切り出した途端、出会い厨認定されて会話を打ち切られたり、変に勘ぐられたりして普通の会話ができなくなるということがよくあった。


その点、彼女は僕のことを少しは信用してくれてたのだと思う。


というか、彼女は人というものをあまり疑いたくない人間なので、そのあたりは気楽な様子だった。


「ヤリ目だったらこんなに長く会話しないでしょ」


と言われた。


実際、その通りだった。


僕は彼女ともう少し人らしく、血の通った方法で仲良くしたいと思い始めていた。


やりとりを続けるうち、電話で話すことになったのも、そんな僕の気持ちがやんわり彼女に伝わったからだと思う。


「思ったよりも声若いんだね」


というのが彼女の僕に対する感想で、


「俺も、もっと子供っぽい声かと思ってた」


というのが僕の彼女への第一印象だった。


印象に齟齬はあったものの、話してみての人となりの印象は、チャットの時と変わらなかった。


新しい発見としては、似ても似つかないと思っていた彼女に、僕と似たところがあったということだ。


すなわち変態的な世界に興味があるところ。


初めての電話で一番盛り上がった話のネタは、僕の知り合いの、


尻にパイナップルを突っ込んで入院した男の話だった。


「やばー笑 その人今何してるの?」


「一番最近会ったときは、なんか普通の格好してたんだけど、どっか様子がおかしくて」


「うん」


「どうしたんですかって聞いたら、「海亀の産卵の準備をしてるんです」って言ってて」


「なんだそれ笑」


「ピンポン玉をケツに何個も仕込んで、自在に出し入れする訓練をしてたらしい」


「めっちゃケツいじめるやんその人笑」


という具合。


こういう話を、本当に面白そうに聞く女の人と久々に出会ったので、少し驚いた。


「しろさんはさ」


「うん」


「そんなに話面白いのになんで初対面だと緊張するとか言ってんの」


「なんでやろ」


「しかも俺とは普通に話せてるし」


「多分ね、電話だからだよそれは」


「直接は緊張するんだ?」


「うん。固まると思う。」


「なるほど」


話し終えて、最初は想像すらしていなかったことを想像し始めている自分に気づく。


彼女に直接会うこと。


もしも彼女と実際に会うことができたら、僕は、彼女は、どんな風に振るまうのだろう。


考えても想像ができなかったけど、多分楽しいのだろうなと、漠然と思った。


「もしも会えたら、しろさんがしゃべれるまで待ってるね」


「めっちゃ時間かかるよ」


「アイス溶けちゃうね笑」



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