切れ長の目元、筋が通った高い鼻、襟足の癖っ毛加減、長い睫毛。相変わらず細い身体、少しの隈と、もしかして少し背が伸びたのかな。スーツ着てたから、そう見えたのかな。


見間違えるわけがないよ。
7年近く君の隣に居たんだから。



話題:元カレ、元カノ



いつも通り夜勤を終えて、駅までの帰り道はスマホを見ず勘に頼った。雨が降ってたからポッケから出したくなかったっていうのもあるけど、近場だから大丈夫だろうと思ったんだよね。まぁ、案の定曲がる所を間違えたみたいで少し遠回りしたんだけど。

でもそれがなかったら、会えなかったね。


ホームに降りたら電車がドアを開いたまま停車してて、間に合ったと思って乗ろうとした。通勤ラッシュ。慌ただしく走る駅員さん。

普段と違う空気は、お年寄りの方が体調不良で保護したりなんだりしてたからだったみたいで。その電車は足止め食らってたから、そこにいた。遅れは5分。


少しでも空いてる車両に乗りたいな、と歩いていたら君がいた。マスクをしてスマホを弄ってて、こちらには気付かなかったし、声も掛けなかったけど。

だってさ、仕事前に朝から見たくもない奴の顔見るの嫌でしょ。僕は話したかったけどね。



この路線を使うのは知ってたけど位置関係までは確認してなかったよ。路線図を確認してる間に、電車は走り出した。



1回目は4年前、横浜駅の改札前で擦れ違った。君も僕も気付いてた。君は僕を凝視してたみたいだけど、僕は出勤前だったのと、君に向ける顔がなかったから気付かないフリをして素通りした。逃げたんだ。

まさか2回目があるなんてね。
まぁでも頭のどこかで、この辺で活動していればその内また会えるだろうとは思っていたけど。


本当に少し、少しだけ、話し掛けようか迷った。
なんなら隣が空いてるから素知らぬ顔で立っててやろうかと思ったけど。

でもなんだか、良いサプライズではなさそうだしな、と思って止めた。



今ならきっと、目を見て話せる。
ごめんねと、ありがとうを言える。

20歳で死ぬと決めてた僕が、今は命張って色んなことを教えてくれた母に背中押されて、仲間に恵まれて、やりたいことに向けて生きてる。

今まで乗り越えてきたこと、変われたもの、未だに変わってないもの、まだ足踏みしてること。どれと向き合っても必ずあの時の君が思い浮かぶんだ。



また、いつかどこかで会えるかな。
その時は、笑って見せたい。

「やりたいことがあるから、死ぬわけにいかなくなっちゃったんだよね」とでも言ってみようか。



そしたら君は、なんて言うのかな。