君だけを(5/5 R18)

ベッドの上の栄口が、身を捩らせながら時折くぐもった声を出す。
その声を聞きたいと思うけれど、ここは見た感じ特別いいアパートでもなさそうだし、下手に声を出したら隣に聞かれてしまうかもしれない。
栄口もそう思っているから、必死に声を抑えているんだろう。

……それはそれで、可愛いから良いんだけど。

栄口の張り詰めた熱を唇で扱き上げながらそんなことを考える。
片手の甲で口を押さえ、目をぎゅっと瞑った栄口。
服を脱いだときは寒かったけれど、今はもう、暖房なんかついていなくても互いの身体が熱い。
一旦栄口を口から離し、自分の人差し指を唾液で濡らす。
そして裏筋を舌先で舐め上げながら、濡れた人差し指で栄口の後孔の入口をくるりと撫でた。
「あ……」
小さく声を上げた栄口の腰が、ゆらりと揺れる。
動揺しているのか、それとも期待しているのか。
オレはそこにゆっくりと指を潜り込ませながら、栄口の熱を再び咥えた。
栄口の息遣いが、苦しそうなものに変わる。

昔は指一本くらい、無茶しても大丈夫だったけど……久しぶり、だから?辛いとかあんのか?
オレ以外のヤツに触られてなかったみたいだ、というのは有難いところだけど。

慎重に指を進め、記憶を辿り栄口の前立腺を探る。
覚えていた通りの場所をぐりっと押すと、栄口が堪えきれず大きな声を上げた。
「んっ、んん…っ、ぁあっ!」
口を押さえていた手は、いつの間にかぎゅうっとシーツを掴んでいる。
唇で次第に早く扱きながら前立腺を更に押すと、口の中の熱がドクン、と強く脈打って。
「あ、泉…っ、だめっ、出る……っ!!」
今にも泣きそうな甘ったるい声が聞こえた直後、口の中に熱い液体が迸る。
苦味のあるその味に、ああそうだこれが栄口の味だった、と萎えた熱を口から出し、後孔から指を引き抜きながら思い出す。
荒い息をしつつ、力が抜けだらんと横たわる細い身体。
それは、記憶に残っていた姿よりずっと鮮烈で、オレの背筋をぞわりと粟立たせる。
オレは栄口の精液を口に含んだまま、その弛緩した両脚を大きく開かせて、先ほどまで指を挿れていたそこに唇を寄せた。
「泉、なに……」
戸惑う栄口を他所に、オレは緩く開いたそこにぎゅっと唇を押し付けると、口の中の液体を注ぎ込む。
「あ……あっ、泉っ、や…っ、やめて……っ!」
流れ込んでくる感覚に驚いたのか、逃げようとする腰を押さえつけて。
全てその中に注ぎ終えると、オレは身を起こし濡れた唇を手の甲で拭った。

目の前に晒される、いやらしく濡れた後孔。
時折ひくついて、中に呑み込んだ白濁をたらりと零す。

眩暈を起こしそうなほど刺激的な光景に、ブチ切れそうな理性を何とか繋いで。
オレはそこに、再び指を埋め込んだ。
濡れて先ほどよりもすんなりと受け入れたそこを、中の液体をかき混ぜるように指を動かすと、ぐちゃぐちゃといやらしい音がする。
「すげェ音」
「や、ヤだ……っ」
その音は栄口の耳まで届いているのだろう、栄口は顔を真っ赤にしてふいっと横を向く。
オレはもう一本指を増やして、中をかき混ぜる。
「ん、んん……っ」
抑えた声を上げながら、栄口はもどかしそうに腰をくねらせて。

……中が楽になった分、もっと別のものを欲しているに違いなかった。

オレは指を引き抜くと、栄口の両脚を抱え上げその場所に限界まで張り詰めた自分の熱を宛がった。
これから何をされるのか解っているんだろう、栄口はとろんとした視線をオレに向けた。
オレはその目をじっと見つめながら、ぐっと腰を進めた。
「あ…ッ!」
最初の一瞬、ぐっと押し戻される感じがしたけれど、先端が通ってしまえば後は楽だった。
ずぶずぶと、栄口の中に沈んでいく。
「あ、あ、あぁ……っ!」
栄口は白い喉を晒し、断続的に高い声を上げる。
熱く濡れた粘膜が絡み付いてきて、時々強く締め付けられて何度かイきそうになったけれど、ぎりぎりのところで堪えて。
オレは根元まで、栄口の中に押し込んだ。
「い、ずみ……」
切れ切れに、オレの名前を呼ぶ栄口。
高潮したその顔は快楽と幸福に染まっているようで、その表情を見ているだけで栄口への愛しさが込み上げて来る。
だから。
「……栄口、好きだ」
想いをそのまま言葉にしたら。
「オレも、好きだよ」
泣き笑いのような顔で、可愛い声でそんなこと言われて。
我慢なんて、できるはずもない。
オレは何の前置きもなく、腰を引くと最奥まで一気に突き上げた。
「あッ、んぁ、ああ…っ!!」
突き上げるたび、栄口が甘く啼く。
前立腺を抉るたび、内壁がぎゅうっと締め付ける。

心を占めるのは栄口への愛しさだけ。
頭を占めるのはこのとてつもない快楽だけ。

無我夢中で、栄口と快楽を求めて腰を振る。

「あっ、ぁあっ、泉、も…ダメ、出る…でる……ッ!!」
揺さぶられながら、栄口が半ば叫ぶように限界を訴えて、内壁が脈打つように強く収縮を繰り返す。
オレはそれに耐え切れず、低く呻きながら栄口の中に精液を勢い良く吐き出して。
「ぁぁああッ!!」
それと殆ど同時に、栄口も嬌声を上げながら四肢を強張らせて快楽を極め、そしてぐったりと弛緩した。


目を覚ますと、もう随分と陽が高く上っているようだった。
今が何時なのか、気にならないことはなかったけど……ベッドから起き上がって確かめる気にはならなかった。
布団の暖かさと……腕の中に抱き込んだ、まだすやすやと寝息を立てる栄口の温もりを、手放したくなかったから。
それならばもう一度、とまどろみの中に落ちていきかけたところで、オレはふと気付く。
壁に貼ってあるコルクボード。
そこには「可燃ゴミ・月、木」なんて生活感溢れるメモのほかに、見覚えのある写真が貼ってあった。

それは、オレたちの……西浦高校硬式野球部一期生の集合写真だった。

最後の夏が終わって引退式の日、引退試合として行った紅白戦終了後の写真。
ドロドロのユニフォームを着た、まだ幼いオレたち。
泥まみれになって駆けずり回った日々も、グランドに照りつけるあの暑い日ざしも、嬉しさも、悔しさも、全て鮮明に覚えている。

だけど、それらはすべて過去のもの。

あのころにはもう、戻れない。
あのころの栄口とオレにはもう、戻れない。

でも、戻れなくてもいい。
こうして、また栄口の傍にいられるんだから。
今からまた新しく始めればいい。

「懐かしい?」
突然、腕の中で声がしてオレは視線を落とした。
そこでは、栄口がぱっちりと目を開けてオレのことを見上げていて。
どうやらオレが何を見ていたのかにも、気付いているようだった。
「起きてたのか」
「今起きたとこ」
そう答えると栄口はふわりと優しく笑い、言葉を続けた。
「泉は、まだ野球やってるの?」
「あー……一応な。草野球みたいなモンだけど。栄口は?」
「自分でプレイするほうは全然。中学ン時のシニアチームにコーチ手伝いみたいな感じで時々顔出してるくらいかな」
なんかそれも勿体無いなと思いつつ、へぇ、と短く答えると、栄口は微笑みを深くしてオレに言った。
「ねぇ、泉のこともっと話してよ?」
「は?」
「泉と会ってない間のこと、知りたいんだ。だから話して?」
「ああ、いいけど……オレが話したら、栄口も話すんだよな?」
オレの問いかけに、もちろん、と笑って頷く栄口に、オレは微笑みを返した。

……さて、何から話そうか。






*****

2010.11.24
2010年栄口誕企画、リクエスト内容は「甘く切ないR指定」でした。
リクエストありがとうございました!
大変遅くなってしまい申し訳ありません><
「甘く」と「切ない」を両立させるのが難しくて…こんなもんで宜しいのでしょうか?心配です^^;
元ネタはスMAPの「朝日を見に行こうよ」でした。





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