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タイトルなし

多肉始めました。

STAR DUSTを散りばめて1-2

モノの20〜30分で白久磨町に着き、駅の改札を抜けると古民家が軒を連ねた懐かしい景色が眼に飛び込んで来た。そして真っ赤な夕焼けがそれらを染めて何処か懐古主義的な映画のセットの様に見えて嘘臭い。いやこれは嘘だ。過去の記憶のこの街を忌み嫌って俺を棄てた母親の様に俺はこの街を記憶の中から廃棄していた。

夕焼けを見ながらそんな母親を思い出すと涙が止まらず、端から見たらいい歳した代の大人が随分滑稽に見えたに違いない。周りの人目を気にしながら涙を拭いて、俺はこの街の中に足を踏み入れる事を決意した。

暫く歩いていると壁一面青く塗られた木造の一軒が眼に止まった。看板らしき物が出ていない。目立つこの青い壁が看板だと言うのか?これが今時の言うお洒落だと言うのか?一体何の店なのか?いや店なのかどうかも分からない。そんな事を呟きながらこの怪しい建物の入り口を見つけた。そのドアの小さな窓を覗くとカウンターとテーブルが見える。そして聞き覚えのあるジャズの名曲、スターダストがサックスの音色で生々しく聞こえ始めた。その演奏している姿が見えないまま、暫く聞き惚れて、店のドアを押す事すら忘れている。そして遠い記憶、学生時代にプラスバンド部でサックスを吹いていた自分の姿を思い出して何だか懐かしくなった。

STAR DUSTを散りばめて1-1

「小さな旅立ち」

床屋で待ってる間、暇つぶしに雑誌を開いた。前の職場近辺にある白久磨町(しろくまちょう)の特集だ。幼い頃過ごしたその街に良い思い出はなく、何時の間にかずっと避けてた街だった。しかし今のこの瞬間、もう一度行ってみたい好奇心に駆られた時に丁度調髪の順番が回って来た。

俺「待ってる間、白久磨町の雑誌の記事を見つけたんですがね…。」

長年この店に通ってるが俺から店主に話し掛けた事など髪の注文以外はなかった。随分驚いた様子で少しこわばった店主の顔。それを見て吹き出しそうになった俺に安心したのか店主の顔は直ぐにほころんだ。それは60歳を越えた店主の顔ではなく恋の悩みを聞いてくれる親友の顔の様だ。

俺「あの街、今そんなに凄いんですか?通勤途中の路だったんですけど勤め出してから一度もあの街の駅に降りた事ないんですよ。何せ陰気臭い街ですよね。」

店主「もしかしてあそこの出ですか?」

俺「えぇ、まぁ…。」

店主「実は私も白久磨町の出なんですが若い頃は商店街を中心に随分賑わった街でしたよ。それがバブルが弾けた頃から何時の間にかシャッター通りとか呼ばれ、客が寄りつかなくなって私はあの街を捨ててしまいました。」

俺「白久磨町に住んでたなんて奇遇ですね!私は幼い頃に家庭がもめまして…。雑誌にまで載る程復興してるなんて知らなかった私が取り残された浦島太郎な気持ちですよ。」

店主「随分小洒落た街に変わったとは聞いてますよ。」

俺「ところで、ほらあそこの商店街の駄菓子屋知りません?ガキん頃はよく手鼻をかんでたもんだからあそこのおばちゃんに汚い手で品物を触るなって、手を叩かれて怒鳴られたものです(笑)」

店主「もうどれ位帰ってないんですか?」

俺「20年?いやもっとかな?」

店主「近所なのにね…。もう一度立ち寄ってみては如何です?新鮮な気持ち…いや別世界に来た、竜宮城にでも来た気分になるかも知れませんよ。(笑)」

俺「もう一度ですか…?」

店主「あなたならまだ若いんだから間に合う。」

俺「それってどう言う意味ですか?」

突然店主は険しい表情となりただ黙々と髪を切り始めた。そして調髪が終わると勘定を済ませその気まずさから逃げ出す様に店を後にし、早速白久磨町へと急いだ。

そんな客の後ろ姿をずっと見えなくなるまで見守る店主。

店主「何もかも乗り越えてやり直して欲しいもんだ。お前ならやれるさ!無事に我が家をみつけて幸せにやって行けよ!」

STAR DUSTを散りばめて1-0

「廃」

静かな、雲のない真っ青で高い空。そして冬に近い秋の海。砂浜には車椅子姿の男。その傍らには女性と白人男性が付き添って居る。

女性「もう何も恐れる事も怯える事もないわね?」

女性はその車椅子の男に話し掛けるが男は表情はなくただ虚ろな眼で海を眺めてる。

白人男性「本当に申し訳ない。彼に車さえ貸さなければこんな事に…。」

女性「あなたのせいではないわ」

白人男性「奥さんにも大変…。」

女性「だからあなたのせいじゃないったら…。自分をそんなに責めないで…。」

白人男性「可愛いお子さんを亡くされたアナタの心情を察すると私には自分を責めるしか出来ません。」

女性「ねぇ?彼は本当にこのままなんでしょうか?いずれ身体は回復するでしょうけど彼の心は…。」

白人男性「私は精神科医ですが彼の昔からの友人です。出来るだけの事はしたい。でも正気を取り戻してお母さんと娘さんを亡くした事実を思い出したりでもすれば…。」

女性「もしその時が来たら嘘を付き通すしかないわ。彼の才能をその悲しみで再び失う訳には行きません。彼の才能は私にはかけがえもない宝物。彼は私に命とチャンスを与えてくれたんですもの。」

白人男性「一つ方法があります。でも大きなリスクがアナタにも彼にも伴うかも知れません。試して見ますか?」

女性「ええ、どんな事でも…。」

白人男性「彼の頭の中に仮想現実世界を埋め込み、徐々に現実の世界に引き戻して行きましょう。アナタもお子さんを亡くされて辛いでしょうが協力して下さい。」

女性は泣き崩れながら車椅子の男を後ろから抱きしめるが男は依然無表情で遠くを見つめるだけだった。

洗濯物(詩)

話す事がなくなる事が
幸せなら

そんな幸せ要らない

満たされて
怯えさえなくなるなら

そんな幸せ要らない

輝いていた
君を抱きしめて

得体の知れない
高揚に

何時も振り回されて
月夜に頭を冷やした
そんな日が
時折懐かしい。

言葉が通じなくて
それでも
言葉以上の
言葉を伝えたくて
伝わらなくて

そんな自分が
愛おしくて…。

でも洗濯物が
ベランダに揺れて
いるのを見てると

もしかしたら
俺は幸せかも知れない
なんて

ふと思った。
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