2023/10/18 Wed 20:30
実力者たち3


三人に料理が運ばれ、それぞれ口にする。
そうそう、海鮮料理ってこんなだった、と笑い合い、穏やかな時間が過ぎていく。

半分以下になったパエリアを食べながら、マリアはふとサイを見る。
レフト人にしては色白で髪の色素も薄い彼は、一際目を引く赤い瞳をしている。
が、右眼だけは常に眼帯で隠されていた。サイの右眼について何も知らないマリアは、何気なく問いかける。

「サイって、右眼は怪我か何かか?」

言ってから、気分を害しただろうか、とマリアは一瞬不安になったが、サイは気にした風もなく右眼の眼帯に触れる。

「いや、これは怪我じゃない。ちょっと特殊な力が宿っているから、普段は隠してるんだ」

「サイの右眼には精霊が宿ってるんだよ!」

「なんで克が得意気なんだ」

目をキラキラ輝かせる克に、サイは思わず笑う。
マリアは興味をそそられ、更に突っ込んで聞いてみた。

「精霊って、大精霊とかと同じ?」

「ああ。大精霊に比べたらもっと格は低いんだが……炎の上級精霊スザクが右眼に居るんだ。契約関係とでも言えばいいのか」

セイラは聖獣と契約したのだとマリアも覚えているが、精霊となればもっと難度が高いことは分かる。
そうそう契約できる者はいないということは、克の興奮っぷりを見てみても分かった。

「サイの右眼は炎なんだ。じっと見てると眼の中で炎が揺らめいてるんだよ」

「凄いな、そのスザクっていうのは、サイに力を貸してくれるんだ」

「ああ。俺は元々魔法は得意ではないんだが……右眼を使ってる時は炎の魔法剣が使えたりするし。右眼からスザクを"出す"ことも出来る」

「えっまじ?俺見たことない」

「そこまで危機的な状況にならないからな」

精霊と契約する魔導士なら、普通魔法で召喚という手段を使って呼び出すのだが、サイはその召喚魔法が使えない。
故に自分を扉代わりにして呼び出すのだが、これをすると体力をかなり消耗する為、使いどころが難しい。

「そうか…でも、それだけ火の素質があるなら今回わざわざ呼び出されたのも頷けるな」

マリアは言うが、サイはめんどくさそうに肩を竦めた。

「正直断るつもりだったけどな。なんか克が来たから……」

「なんかって何だよ!」

大笑いする克につられて二人も笑い、そろそろ船に向かうべく店を後にする。

「手続きしてくるから待ってて!」

そう言ってタッと走っていった克は案の定あっという間に戻ってくる。

「もう乗れるって!」

「だから早い」

マリアは思わず突っ込み、荷物を持って三人は乗船する。
リベルタの船に乗るのは初めてだったが、こういう文明は進んでいるのか、想像していたよりずっと頑丈で立派な造りであった。
瘴気の海を渡っても溶かされないだけの強度が備わっているらしく、外観はまるで軍艦のようである。
が、中に入ってしまえばそこはやはりレフトの船といった感じで、派手な絨毯やランプ、乗務員の制服もレフト帝国らしい民族衣装である。

「これですぐハシ国なんだもんなー、わくわくしてきた」

楽しそうに笑う克は、どこか懐かしそうに窓の外の海を見る。
船は出航し、港が遠ざかっていく。

「俺、ハシ国で生まれたんだ」

「えっ、そうなのか?」

てっきりレフト人なのだと思っていたとマリアは言う。

「俺と良はさ、すげーガキの頃にハシ国で奴隷狩りに合ったんだ。ハシ国って結界の外は警備が行き届いてないから、レフトの奴隷商人が潜んでることがあって…」

捕まった克と良は輸送され、レフト帝国に渡ったのだという。
そこで競りに掛けられる直前に二人で拘束を解いて逃げ出し、路地でこれからどうするかを考えていた時にゼフィランサスに会ったのだ。

「師匠がそこで俺達のことを拾ってくれて助かったんだ」

師である前に命の恩人なんだと話す克からはゼフィランサスへの親愛が溢れている。
随分雑な扱いをされているのを日々見てきたマリアだが、それすらもこの師弟にとってはじゃれ合いのようなものなのだろうなと思った。

「……で、ハシ国には、もしかしたら妹がいるかもしれないんだ」

真剣な表情になった克は、海の向こうのハシ国を見つめる。

「ハシ国から輸送される時、後ろの馬車が妖に襲われて、捕まっていた人達は散り散りになってた。俺の妹が乗せられていたのは、その馬車なんだ」

「そうか、ならその混乱に乗じて逃げ出して、今もどこかで生きてるかもしれないな」

「ああ、だからもし生きてたら、会いたいなって」

そう言って克は少しだけ寂しそうに笑う。帝国の人々は本当に、色んな事情を抱えているのだなとマリアは思った。

「サイの故郷もハシ国なんだぜ」

「俺がというより、祖先がだがな」

「そうか、だから二人とも肌が白いんだな」

マツリカのような黒肌か、小麦色の肌の持ち主が多いレフト帝国だが、他国の遺伝子を持っているなら二人のように色白でもおかしくはない。

「だからある意味、この渡航は巡り合わせなのかもしれない」

何かに導かれているような気がすると語る克に、そうだな、とサイも同意するように目を伏せた。




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