2022/10/21 Fri 21:28
はじめましてのご挨拶2



「え……っと、ここですか?」

「?うん」

先輩に案内されたご実家は、それはもう壮観な佇まいの日本家屋。 
広い庭は手入れの行き届いた粋なデザインで、玄関までを繋ぐ砂利や飛び石すら綺麗だ。
例えば京都の文化財とかそういう風に言われても納得してしまうような立派なお宅で、圧倒される。
そういや先輩、前に祭りに行った時に着物や浴衣を着慣れていると言ってたな。
こういう家で育ったのならそれはもう、納得も納得だ。

「すげー…」

思わずアホみたいな感想が口から溢れて、先輩は笑う。

「まあ、一般家庭とはちょっと雰囲気違うよな」

「違いすぎますよ!お屋敷じゃないですか!」

うわー、と外観を見上げていると、先輩はいつの間にか玄関まで進んで鍵を開けていた。
うおお、待ってください……!!心の準備が…!!
マジで前回の先輩と立場が逆転してて笑ってしまうと内心では思うけども、表面ではそんな余裕はない。

「ただいま」

扉をスライドさせて先輩は中へ入り、振り向いて俺を招く。

「どうぞ入って」

「…お邪魔しまー…す」

うわぁ、外も凄かったけど中もすごい。
ごちゃごちゃしていないのに、飾ってあるものがお洒落で華やかに見える。
書家が書いたような作品が飾られているし、瑞々しい生け花も、控えめなのに存在感がすごい。

「母さん、庭の方にいるのかも。入って」

「あ、はい」

靴を脱いで家に上がり、先輩の後をついていく。
なんだろう、懐かしさを感じるお婆ちゃんちとかとはまた別の世界だ。
チラリと庭を見ると渡り廊下に離れまである。

「あれは茶室」

「茶室?!」

俺が庭を見ていたのに気付いた先輩が教えてくれる。

「母さん、茶を立てるのが好きなんだよな」

……それでも家に茶室があるって凄いでしょ。
いったいどんなご両親なんだ……とドキドキしてついていくと、先輩は縁側で足を止める。

「母さん、ただいま」

「おかえりなさい、サイ」

後ろから覗くと、縁側に黒髪の綺麗な女性が座っていた。
俺と目が合うと、立ち上がって丁寧にお辞儀をしてくれて、俺も慌てて頭を下げる。

「お邪魔します。有田克と言います」

「サイの母の緒方巴です。有田くんの事はサイからよく聞いています」

にこりと微笑まれて、思わずドキッと心臓が跳ねる。
40代くらいだろうか?物凄く綺麗な人だな…。
日頃から着ているのだろうな、と思われる和装がとても似合う優しげな人だ。

「先輩にはいつもお世話になってます」

「ふふ、なにもお構い出来ないけれど、ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます」

「母さん、お茶でも淹れようか」

「そうね、少し待ってて。今日は天気が良いから、縁側でお話ししましょう」

巴さんは立ち上がり、台所へと向かうようだ。
持ってきた菓子折りは今渡そうかな。

「これ、ほんの気持ちですけど、よかったら」

「まあ、気を遣わせてごめんなさい。ありがとう、お茶と一緒に頂きましょうか」

「はい、是非!」

巴さんが部屋の奥に姿を消し、慣れた感じで縁側に座った先輩の隣に腰を下ろす。

「よくこうして縁側で寛いでたんですか?」

「うん。ぼーっと池眺めたりな」

「うわよく見たら獅子威しとかもある!すご!」

こんなの観光施設でしか見たことないですよ!とはしゃぐ俺を、先輩は微笑ましげに見つめている。
血は繋がっていないけれど、巴さんとサイ先輩は雰囲気が似てるなと思った。
なんていうか落ち着くオーラが出てる。物凄く。

「お待たせ。有田くん抹茶は平気だったかしら」

「はい、好きです」

「お口に合うと良いのだけど」

「ありがとうございます、頂きます」

出されたのはもう本格的な抹茶だ。緑茶とかじゃなくて専門店とかで頼むようなやつ。
俺の持ってきたお菓子が添えられていて、和菓子を選んでよかったと思った。

俺、サイ先輩、巴さんの順に並んで縁側に座り、美味しいお茶を飲みながら穏やかな時間が流れる。
不思議だよな、めちゃめちゃ暑い真夏日なのに、ここにいると涼しいとすら思う。
やっぱりなんだかんだ日本家屋って良いよなぁ。

「今日は父さん出張?」

「ええ、地方の舞台制作に携わってるわ」

「お父さん、舞台の方なんですか?」

「夫は殺陣師なんです。弟子への指導の他に、ドラマや映画の出演者に指導もしているので、あちこちに行ってるんですよ」

「ええー!かっこ良すぎます!」

殺陣師って、殺陣師だよな!
俺はアクション映画がめちゃめちゃ好きだから、どういう仕事かはわかる。
うわ、かっこ良すぎる。え、もしかして先輩も殺陣が出来たりするのか?

「先輩もやってたり?」

「俺は囓った程度だけどな」

笑いながら言う。幼い頃からお父さんに連れられて道場で刀を触っていたらしい。
刀を振る先輩を想像したらかっこよすぎて震えてしまった。

「母さんは弓道とか、書道とかの師範なんだ」

「そうなんですね!凄くお似合いです」

日本の文化を愛するご家族なんだなぁ。両親ともその道の師範だなんて凄すぎる。
先輩、えらいところに引き取られたんだな。
ご両親の話を聞いていたら、なんだか先輩が色々器用なのも頷けてしまう。

「有田くんは、サイとお付き合いをしていると聞いたのですけれど」

不意に巴さんがそう言って、思わずドキリとする。





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