クマシエル
【小説再録】うちの母が宇宙の被捕食者だった件E
2020/04/15 05:50
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 (親父が帰らない)
俺の人生に親父は要らないと思ってきた俺があほなのか?
あれから食い物が尽きて俺の腹はとうに音をあげたが、親父はまだ出張から帰らない。
もう半月を過ぎていた。
 会社に電話を?
無理だ。
働き先を知らん。
実質会社員かも分からん。
毎日夕方にはもうオカンといちゃこらしてた印象しかなく何となく思っていたが、そもそも親父の事は何も知らなかった。
 このままでは空腹で万引きか食い逃げしか無い。
くそダサかろうが、逮捕されれば餓死はないが。
いや、でもそれは流石にダサ過ぎるが結局それしか…

 で、決行を躊躇う間に俺はベッドから起きれなくなり、いつしか気が遠くなっていた。


「全く馬鹿が!」
 マクアサラスは30年ぶりに故郷に狩り具(といっても今は護身用だが)の新調に戻っていたが、地球で20日後に戻ると馬鹿息子が意識不明の重態になっていた。
 家探しすれば小銭位あったろうに。
人間に馴染んだ彼女の財布だって彼女の鞄には入っていたはずだ。
(いや、しかし意外にもというか)と彼は思う。
 ただのクズにしては地球でいうモラルがあったのか。
(しかしそれで死にかけてりゃ世話ないが)
 マクアサラスならとても考えられない事で、こんなところだけ自分に似ていないとは意外である。
 彼女に似ているのかも疑問だが。
彼女ならいつも食を第一にしただろうから。

 先日退院したばかりでまた入院。
しかも症状は驚く程はかばかしくないという。
ここ1、2週間がヤマと思うように医師には言われていた。
 マクアサラスは1つ考えていた事がある。
普通の食肉の種は先輩狩人達から聞いていたのだと、どうやって増えるのかは全く分かっていないが、地球の生き物のような生殖行為では生まれないらしい。
というのも色んな星の種達はどれしもいつかの時代に狩人がそれぞれの星にいくつか持ち込んでその星の生物に埋め込んだものの末なのだが、殆ど死なない種達の数が次第に増えており、それは何らかの方法で繁殖している事を示している。
 それで彼は馬鹿息子の母親は種ではなく食肉の体の方で、ただの人間の体質で生まれたと思っていたが、違うのかもしれないと。
 亡き彼女は自分の食肉体と同じ位息子の食生活に過剰とも思える程心血を注いでいたが。
あれがただの息子愛でなかったという事は無いだろうか。

(ま、もしそうだとしても、このまま死ねばせっかくの苦労も無駄だがな)
相手が彼女でなく馬鹿息子となると、とことん冷たい彼である。

(……!)
 ふと気配を感じた。
これは恐らく。
マクアサラスはそっと辺りを窺いながら極限まで気配を殺し、袖に隠したテイゴ(狩り具)を構えた。
 背後のかすかな気配を紙一重にそらしながら、テイゴを素早くとき放つ。
 ギュンッ
(かかった!)
手に残った柄で刃先を手繰り寄せる。
(……!?)
 これは!?
 珍しくもマクアサラス人の特徴がある。
遠い地球で会う初めての同郷の狩人だった。
これなら話し合いで片がつくかもしれぬとマクアサラス(星)の公用語で話しかけた。
[お前、マクアサラス出身か? 俺もそうだ。話して俺が食肉でないとお前が納得すれば生かして帰してもいいが]
[…ふざけるな、死神が! お前を前にして殺るか殺られるかなのは知っている。殺ればいいだろう]
 薄々地球の狩人達の間では噂になっているだろうと思っていたが、やはりそうだったようである。
それと少し興味を惹かれて問いかけてみた。
[お前、こんな遠くの星で何故狩人を? ここまで流れてくるからにはやはり訳ありか?]
[……俺は…、マクアサラスからあんたを狩りに来ただけだ。知らないのか? あんたにはとてつもない高額の懸賞金がかけられている。これまでも沢山来てたはずだ]
(やつら、ただの狩人ではなかったか…)
 ずっと言葉が通じないあまたの狩人を返り討ちにしてきた。
まさか懸賞金とは!
今更驚かされたものの、最初の頃死なない程度に思い知らせるだけにしていたただの食肉の狩人の誰かが『狩人組合』に泣きつきでもしたのだろうと、その後も途切れる事なく彼の前に現れてきた狩人達についても合点がいった次第だった。
[情報の見返りに今は口封じに殺るのはやめておく。次はそうはいかんがな]
マクアサラスは男の後ろ首を完全におさえ、あとは刃を立てさえすれば殺れる状態だったテイゴを退いた。
[俺はまた来るぞ!]
 男がわめく。
[好きにしろ。ま、今は俺の気が変わればすぐ殺れるしやめた方がいいだろうがな]
 男は走り去った。


(さて… 狙われるのが俺と分かったからには俺がいなくなるだけだが、あの馬鹿を置いてっていいものか)
と、今死にかけている息子を思う。
どうでもいい息子でも中に彼女がまだ居るかもしれない可能性がある内は…
(死ぬまで待っても遅くはないか)
 マクアサラスは冷たく決断した。
 死体なら彼女の種があれば取り出せる。
         続く



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