クマシエル
『IT』が怖いかどうか
2017/10/27 23:59
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『IT』の作者であるスティーブン・キングはクマシエルにとっては中学生の頃に超能力物の面白さを教えてくれた作家なのですが、と同時にSFなのにホラーであるという何だか分からないジャンルを初めて教えられた作家でもありました
彼の出世作である『キャリー』が実験的な手法で書かれた作品である事はあまり知られていないかもしれませんが、SF作家が夢だった洋楽とSF大好き少女には本当に革命的な作品で、このテイストの作品の魅力の秘密を分かりたくて何度も読んだ覚えがあります
多分一般的には小説の形態としてあまり優れていると批評家には評価されなかった手法かもしれませんが、何というかクマシエルにはとても新しかったのですね
あまりにも酷いいじめにあった末に火を起こす超能力でみんなを焼き殺すキャリーが主役なのに、彼女の主観で書かれている部分より、事件後インタビューを受けたその事件の関係者の主観でキャリーについて語られ明らかになっていく方がずっと多くて、何かリアルな事件の実録物みたいな緊迫感があるのが虚実をぼかしてしまって、ちょっと本当の事件について書かれた物を読んでいるように錯覚させて、でもこれがSFで絵空事だとは分かっているんですよ それでも読んでいる内に何だか現実みたいな不安感を煽られてしまう
元来SFはそういうジャンルではないんですよ はっきり最初から現実ではないという前提だけど、未来にはもしかして現実になったりしてというのを楽しむジャンルのはずで

で、そういうスティーブン・キングの作品は、作家自身はSF指向の高い人だったようなのに、いつしかSFとして書かれたようなものでも概ねホラーと呼ばれるようになり、段々一般的なホラー寄りの作品が実際増えていったんですが、そうした経緯を経て今回2度目の実写化となるこの『IT』は処女作『キャリー』から随分経っての完全にホラー作品ではあるのですが、クマシエルはあの時の『キャリー』における現実の出来事に思わせる気持ち悪さを読者に与えた才能が、彼の作品をホラーとして成功させたんだろうなと思うのですね!
明らかにSFである宇宙物や『神々のワードプロセッサー』のようなちょっと不思議な事が起きる話もあるのですが、それらも作家自身はSFとして書いたんでしょうけど、どれも何か結末が物悲しくてちょっと怖くて、ただ不思議という結末とはいかないのがどうしてもホラーチックなんですよね
特に割と最近の短編作品『神々のワードプロセッサー』では、男主人公のとてもいい子で不遇な甥が死ぬ前に主人公に残した自作のワードプロセッサー(ワープロ)は古い部品を組んだ今にも壊れそうな代物だが、それに打ち込んだ事が現実になる、現実を変える事が出来る凄いワードプロセッサーで、主人公は唯一心を温めてくれていた甥の死後、ろくでなしの家族がほとほと嫌になり、とうとう甥が生きて自分のたった一人の息子であり甥の母が自分の妻であるとワープロに打ち込んでしまう だがワープロが煙をあげて壊れそうな中慌てて打ち込んだもののそこで完全に壊れてしまった為、上手くいかなかったと嘆き悲しんでいたところ、しばらくして甥の母が優しい妻の態度で現れ、甥も彼の息子で生きており、上手くいったのだという、一見ハッピーエンドを迎えます
でもこれって本当にハッピーエンド?って思いませんか 息子になって生きてる甥が本物なのか何となく気持ち悪いし、元々の妻と息子が消え失せてるし、妻じゃなかった甥の母が(真実を曲げて)彼の妻になってて、それでいいのか何となく不安な感じがしませんか?
必ずこういう不安な結末になるスティーブン・キングはやっぱりホラー作家といっていいのかもしれませんね あくまで本人はSF作家のつもりでもいるのかもしれないんですが
『ペットセメタリー』『ミザリー』『グリーンマイル』も作者の意図はどうか知りませんがホラーといわれていますよね
ま、少なくとも『IT』は分かり易くホラーだと思います でもクマシエルは怖いというより、何か気持ち悪いんですけどね
でも確かに面白い作品ですので、映画がヒットすればいいなと思ってはいるのですよ! 以上、長文で失礼致しました



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