【七夕小話再録】ベガ・アルタイル&ミー☆

【これは七夕に本当にあったかもしれない出来事━━━】


 あたしはしがないフリーターだけどさ、前はしょっちゅう悲しくて落ち込んだりしてたんだけど今はもうそういうのは無い。
相変わらず嫌な事は一杯あるけど、去年の9月頃からは本当に毎日が楽しくってならない。
それはあいつらがいるから。
ニャアー ニャアーー
 来た来た!
「ぼんちゃん、スポットちゃん……… あ、ミケちゃんも、みんな、暑くなってきたねえ」
あたしは鞄からカリカリフードを出して、背後の線路わきの変電装置の陰に隠した重ねたプラスチックバット(縁つき皿)を取り出すと、3枚の皿を分けてカリカリをそれぞれに均等に注ぎ入れ可愛い野良猫達の前に1枚ずつ置いてやった。


 あたしと猫達との出会いはあたしがその日も凄い落ち込んでいた時だった。
フリーターのあたしがその頃働いていたのは関西では1番メジャーな大型スーパーで、西日本最大の売り場面積をもつデザートコーナーの営業をしていた。
そこの先輩パートの乳製品担当の極悪おばさんのせいで毎日の様に苦しめられていた訳で。
内容は忘れたけど、(もう辞めてやる!)とか思って憂さ晴らしに海に来たら、海へ出る階段を降りたところで、機嫌良く走ってきた猫がいて、それがふさふさの茶と黒の毛をしたぽやっとした顔だちのぼんちゃんだった。
彼らの世話をしていたすぐそこの釣具屋のおばちゃんが入院する事になると、あたし以外のここの猫ファン達とも情報共有して、あたしは毎日餌をあげるようになった。
ぼんちゃん達は馴れ馴れしくはないのだけど、みんな野良猫らしい魅力的な子達で、このお友達が出来てからあたしはあまり落ち込まなくなったんだ。

 そして今日もデザートの猫缶を缶切りで開けながら、ぼんちゃんに愚痴を聞いて貰っていたのだった。
「でな、あのおばさん急に怒鳴りだして、もううんざりやったんやで」
ニャアー
 ぼんちゃんは律儀に返してくれる。
どんな愚痴も辛気臭がりもせず、ちょんと座って聞いててくれる。
(あー、ぼんちゃんが居たら何でも大丈夫な気がするわ)
 デザートの柔らかい餌にかぶりつく彼らに心が和む16時40分。
 さあて、5時10分のバスに乗らなきゃだからそろそろ片付ける事にする。
やはり変電装置の陰に置いといたほうきとちりとりで食べこぼしを掃除し、皿の食べ残しも片付けて皿の汚れを拭き、重ねて変電装置の陰にしまう。
カリカリを持ってきた袋に入れた食べ残しはうちに来る野良猫に食べて貰うから無駄は無し。
ごみも別の袋に入れ、さて完了。
 鞄を肩にかけてぼんちゃん達に別れを告げて帰り始めたんだけど、海から駅に戻る階段を上がりきったところで、
イギャーッ!
っていう退っ引きならない悲鳴が聞こえて勿論引き返した訳よ。

 そしたら3人の大きな男どもが猫が載っている神社の塀の方を向いて立っているのが見えた。
で、何か塀の壁にぶつかる音も。
あたしは最悪の想像で青ざめた。
 知ってる人はいるかもだけど世の中には自分に何の迷惑もかけない猫を虐めるやからがいやがるのよ。
それに快感を感じるというクソが!

あたしは必死で3人の前に立ちふさがると声を張った。
「何するんですかっ!」
「こんなとこに勝手に居くさっとうから追っ払っとんやろが。どかんかい!」
「何や。お前俺らに文句言う権利あれへんやろ! こんなとこで寝て邪魔なんじゃ! 放っとかんかい!」
「はよどけっ!」
3人目が肩を突き飛ばしてきてあたしは地面に思いきり叩きつけられた。
痛くてすぐ起きられなかったけど、あたしは睨みつけながら負けずに啖呵を切っていた。
「あんたらやって猫を虐める権利無いやんかっ! こんなん絶対許されへん!」
 あたしは父親の暴力で結構怖いもの知らずなのだ。
昔母はいつも「男の人には力でかなわないから我慢して」と言うのが常だったが、あたしはそれが堪らなく嫌だった。
暴力に屈するだけの人間になるのは真っ平だ。
父親を殺す妄想で自分を慰めた晩もあった。
男に生まれただけで何でもかんでもすぐに威嚇する様な人格が育まれるのがあたしには信じられない。
でも実際こうして居るのだから嘆かわしい事である。
「ちょっと〜、こんばんは」
 その時声がした。
声の方には暮れ始めた空を背景に大きな大きなシルエットがそびえ立っている。
「あなた達、弱い者いじめはやめた方がいいんじゃないの〜?」
 男どもよりも大きな体の様なのに何だかピンクのファンシーな服に見える。
近づいてくると、おや、オカマさん?
「そんな子はお姉さんがお仕置きしてあげなくちゃなんてね。キャハ♪」
 本当に大きな堂々たる体格のオカマさんに奴らはびびったようだった。
捨て台詞も無しに去ったのだ。
 猫は無事だった。
その後あたし達は海辺の喫茶店でしばらくお喋りした。
素敵な人だった。
少し恋した気分だったかもしれない。
 でもそれ以後あの人には逢う事は無かったのだ。
 了

【『異世界かるてっと』に影響された妄想小話。クイズ付き】『飛ばされてきたのがパチもんの世界と気づいた僕』

《気づくと異世界にいた僕(笑)》


 異世界で1番初めの記憶は、
向こうから朝起こしに来たので知ったのだが、
@うちの隣には双子の女の子が住んでいて、双子の姉の方がNKB(ニャーケービー?)に入ってトップアイドルになって僕を甲子園に連れてってあげると約束しているらしい(笑)


 A双子に連れられて何故か孤島に浮かぶ寄宿学校みたいな所に行くと、
《C》という能力を持った子ばかりが集められた学校なのだそうだが、そこが何故か僕以外女子ばっかりなのだが、誰も当たり前のような顔をしてるので、僕も何にも言えない。


 Bおまけに、体育の水泳の時間、水に入ると足が魚のヒレに変わる子が一杯いて、みんなで泳ぎながら踊ったりお菓子を食べたりしているが、誰も驚かないから、僕も平然とするふりをするしかない。


 C夕方、またまた双子に連れられてうちに帰ってきて、3人の勉強小屋でテレビ的なやつを観ていると、
『有名魔女っ子Mモモや、額にイナズマの印のある有名魔法使いを輩出したとかいう魔法学校願書受付中』とか、
『機械の体にするならメーテルクリニック』とか、
何かヘンテコなCMばかりやってるし…


 Dおまけに夕食の時間に、おじいさんに、
「お前を拾ってから明日で12年になるのう」
 おばあさんに、
「あれから12年か。わたしも歳をとったものさ」
なんて言われたものだから、本当の親はどうしたんだろうと思ったが、それよりこのおじいさんが後日「大賢者様」と呼ばれていて、そっちの方が驚いた。


 翌日は土曜日で、ちょっとこの町を探検してみる事にした。
Eすると、「上様、上様〜」という声が聞こえてきて、ふと見ると黒いジャージ姿のお姉さんが道路に飛び出すのが見えて、そこに市バスが!
とっさに僕はお姉さんを助けに道路に駆け出した。
絶対死んだと思ったが、何か大丈夫だった。


 で、(あれ?)と思った。
この展開、どっかで?
そう思った瞬間に目が覚めたのだった!

          おわり
 ━━━━━━━━━━━




 では、ご親切にこの駄文を読んで下さった皆さまに問題です!

僕(主人公)が陥ったパチもんの元になった作品が何か分かりますか〜?
@〜Eは全て別作品です。
パチもんなので、設定が完全に同じではありませんが、あれかなという手がかりは残しているつもりです。
なおCのCMについての元ネタは3つありますので、問題は@〜Eですが、答えの元ネタ数は全部で8個になりますね!
全部分かったらオタク度MAXかも(笑)
なので、単純にコメントを下さるだけでもとても嬉しいですねえ
宜しくですよん


あ、ヒントが欲しいかもと思いましたので、「続き」から書いておきました。
ご興味おありでしたらご参照下さいませね 
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【小説再録】Hachidori-Honey(Refill,please?[おかわり])

 俺様の様な白いハチドリはアルビノ、人なら白子とかいい、物凄く珍しいらしい。
砂名はコメディカルという医術の手伝いをする仕事なので少し医術知識に詳しいそうだ。
それに最近ではスマホという機械で何でも調べられるとか。
俺様が飲みたいと言った水蜜桃100%のジュースもそれを使って探し出したそうだ。
俺様がチョコレートシェイクを飲んでもいいかも調べて駄目と言いやがった。
別に蜂鳥の体でも基本人が食べる物は何でも食べれる、鳥扱いするなと言うておるのに過保護なのだ。
 それはそうと最近砂名の帰りが毎日物凄く遅い。
俺様なら女をそうも働かせるのはどうかと思うが、砂名が言うには男女平等というやつらしい。
今時の女は昔より強いと言うが、赤子を身籠る体はやっぱり大事にした方がいいと思う。
遥か昔、俺様が呪いを解いてやった川蝉は水干姿の若い娘だったが、一見白拍子(平安後期男装で舞う女性、貴族相手の高級娼婦)の様で本人はそうではなく曲舞々(クセマイマイ。踊りの流派)の踊り手だと言っていた。
芸事に疎い箒木には違いが分からなかったが仕事に誇りを持っているのは好感が持てた。
だから娘が呪いを解いた者に呪いがうつる事を黙っていても憎む事は出来なかった。
そして箒木自身もこの長い年月呪いの事を打ち明けては何度も断られる内、あの娘と同じ事を砂名にしてしまったのである。
 だから俺様はもう砂名を裏切らないと決めている。

「ただいまー」
 やっと帰ってきた。
今日も疲れた顔だ。
「お帰り、ご苦労だった」
顔の前でホバリングしながらねぎらってやる。
 それから口先でほつれ毛も直してやった。
「ハハキギ、ちょっと話があるの」
 だが思い詰めた様に彼女は言ってリビングのソファーにどさっと腰を下ろす。
 俺様はテーブルの止まり木代わりの木製の皿立てにとまると、砂名の表情から何かを読み取れないか見守った。
「この前健康診断の後再検査して結果を聞いてきたんだけどね」
「結論から言うと、わたし、もうすぐ死ぬの」
「……何となく夢見てたんだよね。きっとわたし結婚もせずおばあちゃんになっちゃって、その時はハハキギの呪いを解いて蛾になって飛んで暮らしてもいいかなって」
「だけど、おばあちゃんにならずに死ぬんだと思ったらハハキギの呪いを解いてあげたいと思ったの」
(……!?)
 砂名が何かとんでもない事を話しているのに内容が頭に入ってこない。
砂名が死ぬ、と言っているのは分かったが。
「ま、あんたの呪いを解いて蛾になっても長生き出来ないかもしれないけど、蛾の頭で難しく考えないで済むのはいい気がするわね」
 そう振っ切った様に言うのが怖かった。
「この家はハハキギが使えばいい。半年分はお家賃払い込んでるし。その後も困らないよう考えるし心配しなくていいよ」
 箒木がいつもゾッとさせられるのが何かを覚悟し肝のすわってしまった女である。
しばしば彼女らは既に彼岸に渡っている。
「砂名!」
「だからね、今まで本当に有り難う! わたしね、ハハキギに逢えて良かったと思ってるんだ」
「いや、だから砂名!」
「ただ、色々片付けもあるし明日の朝まで待ってね」
「いや、だからそんな事じゃなくて!」
「ん?」
 本当に砂名は箒木が何を焦るのか分からぬ様だった。
俺様は死に至る病に焦ったのではない。
いや、それも焦るが、でも独りで覚悟してしまった女の頑なさを砂名に見てそれに焦ったのだ。
 こうなった女は勝手に突っ走る。
目の前の箒木さえまるで見えぬかの様に。
そうして契約者だ何だと縛っても勝手に捨てられる儚いものだと何度思い知らされた事だろう。
 俺様は砂名が寝室に去った後リビングの皿立てで一晩鳥目で何も見えない闇の中まんじりともせず朝を迎えた。
 向こうも眠れなかった様だが、俺様に「おはよう」と声をかけ、外に飛び立つ為なのか窓を開け、おもむろに…
「そしたら始めるね。━━ 先に前回保留というか蛾になって言えなかったその願いを使うよ! 『人に戻って1人でもハハキギが困らず暮らせますように!』」
(そうだ、保留した願いで体を治せていた! 気づいていれば! ……なのに何という事を願うのだ、お前は! いつも俺様の心配ばかりして)
 箒木は泣きそうだった。
「さて『あなたの、』いや、正しい呪文じゃなくなるけど『ハハキギ、あなたの想いに感謝します』」
フォワーン!
(……!?)
「ハハキギ、良かった! あれ、わたし蛾になってない?」

 呪いが解けたのだった。
「あなた」という詠唱は相手を特定出来ず、きっと目の前のその呪われた者の「想い」ではなかったのではないか?
だが砂名が俺様の名を呼び、俺様が砂名の幸せを願う事で正しく呪いが解けたのだ!
 すぐに俺様は砂名の呪いを解いた時保留した願いで砂名の病の消滅を願った。
 とうとう俺様は人に戻り、砂名は病ではなくなった。
 二人で幸せになる!
絶対の絶対だ!
          了
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【小説再録】『Hachidori-Honey(後編)』

 いきなり! 全てが戻ってきた。
 あまりにも元通りになって(なり過ぎて)いた。
「いったい何が…」
 砂名は目の前の白い小さな鳥に訊くでもなく1人ごちた。
「本当に… 悪かった。俺様とした事が卑怯者に成り下がった。俺様の呪いはたちが悪い。呪いを解いた者に呪いがうつるのだ。それも不完全な形で。俺様も昔うつされたが、うつしたやつは川蝉だったのに俺様は蜂鳥だった。そしてお前は…」
「そういえば呪いが解けたのにあなたは何故鳥のままなの?」
「それは… もういい。俺様は蜂鳥でも最高にきらきらしい。だからもういいんだ」
「良くないよ! あんたがわたしにあれだけつきまとったのはその為だったんでしょ。頼まれたからには呪いを解いてあげたいと思うもの」
 砂名は半ば怒っていた。
今朝あれだけつきまとってきたのは、それだけ強い願いだったんじゃなかったのか?
じゃなければ意味も無く遅刻する羽目になった事になる。
それでは全く納得いかない。
彼女はギリギリの女だが、これまで間に合わなかった事はない皆勤賞だったのに。
「つまりわたしでは呪いが本当は解けなかったの?」
「いや違う。……いや、そうなのかもしれん。俺様はお前と契約しなかったし、これからもしない。契約して俺様に一生縛りつけなくても呪いを解いて貰えるかと思ったが、お前では無理だ。諦めろ」
(諦めろってどういう言いぐさ! そっちが頼んできたからわたしが助ける事にしたんだよね、なのに何それ? でもそれよりも、)
 砂名が許せなかったのは彼女の為にという理由をつけて彼が何かを隠しているのが分かるからだ。
それで俺様が力を無くしている。
それに砂名は微かに覚えている気がするのだ。
「あんた、えっとハハキギだっけ、鳥じゃなくてちょっとの間人だったのをわたし見たわよ。呪いは解けたのよね? なのに何で鳥に戻っちゃったの?」
 鳥は俺様のくせに今はくよくよして見える。
 黙ったままだし。
「じゃあいい! もう一度やるから。『あなたの想いに…』」
「やめるんだ!」
 鳥はありったけの声で叫んだ。そしてようやく白状した。
「俺様の呪いを解けば願いを叶える。これは裏の意味がある。呪いを解いた者が自分にうつった呪いを解く事を願う為のものだ。俺様が川蝉の呪いを解いた時、それに気づかずに、何を願うか考えている内に機会を逸してしまった。他の願いは期限が無いがうつった呪いを自分で解くには期限がある。呪われた姿で何かを食べる前に願わねば叶わぬのだ。何かを口にした時からは、契約者が死ぬまではその者に添いとげ、その後は辛抱強く自分の姿が見える者を待って、願いを餌に契約者にして何としても呪いを解いて貰わねばならぬ。契約者にすれば死に別れるまで逃げられる心配は無いが俺様はお前に会う前の強情な男で契約者には懲りていた。呪いを解く気も無い奴が死んでしまうまで無駄に待つのはもう真っ平だ。だが上手くいかぬものだな」
 そこまで言うと苦く笑う。
「お前は何故か蛾になった。声が無いと願いを口にする事も出来ぬ」
「え? わたし蛾だったの。何か飛ぶのが凄く気持ち良かった気がしたけど」
「あれはスズメガの仲間だろう。蜂鳥に似ているそうだ」
「あれ? 何で声が出なくて人に戻れたの? 多分人に戻りたいと願ってもない気がするし」
「……使い道の無かった俺様の願いで蜂鳥に戻り、飛び去りかけたお前を捕まえ俺様の詠唱で呪いを解いただけだ。納得したか? もう会う事もなかろう。さらばだ!」
 鳥は去っていこうとしている。
その時砂名は咄嗟に叫んでいた。
「わたし、あんたと契約してもいい! 一緒に呪いを上手く解く方法を考えようよ! わたしが蛾じゃなかったら上手くいったんでしょ? 別にあんたが見える人が現れるまででもいい! 一緒にいてあげるよ!」
何故こんな事を言ったのかは分からなかった。
でもどうしてもほっとけなかった。
(それに)ちょっと思った。
(いつかまた蛾になって飛んでみたかったりして)
 1度なったからなのか何故だか蛾になるのが妙に怖くもないのだった。
 それに何となく、いつか、いつかだけど、呪いが解ける日が来る。
そんな気がした。


 小さな白い鳥(今ではハハキギと呼んでいる)はぶつくさ文句を言いつつも結局砂名を契約者にした。
毎日毎日甘いジュースを要求して元気にしている。
 最近砂名は箒木の前の契約者の気持ちが分かってきた。
彼はきっと箒木を自分だけのものにしたかったのだ。
何だか砂名もそうなりそうな気がするけど、箒木がもし自分のそばを去りたいと言った時は彼女は決して縛るまいと決めている。
 その時はきっと呪いを解いてやるんじゃないかとも思う。
 そして砂名は大空を自由に飛んで暮らすのだ。
 もしそうなっても楽しい気がする。
(まだまだ先の話だけどね!)
         了 

【小説再録】『Hachidori-Honey(中編)』

 朝からとんでもない厄介事に巻き込まれたギリギリ女、甘木砂名。
朝出勤中だったが職場まであと5分の所で腕時計が始業時間になるのを見て、スッと気持ちが凪いでしまったのだった。
「気楽な鳥と違ってわたしは仕事だから遅れる連絡ぐらい入れないとなの。ちょっと待ってて」
「気楽気楽と偉そうに! 少しだぞ。早くしろよ」
 相変わらずあり得ない偉そうさだったが、遅刻したと思った時からどこか落ち着いてしまった砂名は小さい体で粋がるのも可笑しくなりながら、PHSのアドレス帳から職場に電話した。
 1時間の遅刻を連絡しPHSをしまうと、白い小さな鳥に笑ってうなずいた。
「……じゃあ行くか」
 一瞬たじろいだようだったが、我に返ったように鳥が指図した。
「どこへ?」
「人の目がある所で呪いを解くのは都合が悪かろう。静かな所は無いか?」
珍しく配慮のある物言いに、まともなところもあるのねと砂名は思いながら、
「分かった。向こうの公園なら」と先に歩きだした。
(それにしても、)砂名は再び思う。(あれは何という鳥だろう? 白い羽根が透き通るように光って、重さがないように飛ぶ)
(とっても綺麗)


 公園に着く。
思った通り平日の高速道路下の中途半端な大きさの公園に朝から来る者は無い。
 砂名は白い小さな姿の恐喝者を改めて眺めた。
今朝突然砂名の前に現れ砂名の日常を粉々にした。
 人と同じようにしゃべる小さな白い鳥につきまとわれるなんて思いきり現実味を欠いていた。
 そしてこれから何をさせられるのか、確かおとぎ話で呪いを解くには本物の愛がどうたらではなかったか?
(会ったばかりだし、猫か馬でもないこんなちっぽけな一応鳥なんて絶対無理)と砂名は思う。
「さて、何をしたらいい?」
 あと50分で仕事だ。
手っ取り早く済ませよう。
「……お前の仕事、そんなに大事なのか?」
今までよりも素直に言われ砂名は面食らう。
俺様どうしちゃったんだ?
「そりゃわたしが働く約束をしてる時間だもの。遅れたのはもうしょうがないにしても、わたしが訓練している利用者さんが待ってるからサボったりなんて考えられないわよ」
「……そうか。女のくせに宮づかえとは偉いな」
「別に偉くなんて。女が働くのは今時普通だし」
砂名はちょっと照れている。
当たり前の事でも褒められると少し嬉しかった。
「いや、お前でないといけない大事な勤めを果たしているとは見直したぞ」
 俺様のくせに労働を馬鹿にしないのは意外だった。
砂名も大学の一般教養で聞いたうろ覚えだが親王って確か帝の直系の者で、いかさま労働を馬鹿にしてそうなものなのに。
で、その大切な仕事にもうすぐ戻らなきゃだから、とにかくすぐ用を済ませよう。
 砂名はもう一度言う。
「それで、何をすればいいの?」
「………そうだな。お前はただ俺様を見て「あなたの想いに感謝します」と言うだけだ」
 (何だろう? 何か苦しそうに言ったみたいな)
「いいわ、言ったげる」
だが、問いただしている時間は無い。
砂名はさっさと片付ける事にした。
「『あなたの想いに感謝します』」
 急に体があまりにも痛くて砂名は気が遠くなった。
 痛い! 痛い! 痛…
「………ぉぃ、大丈夫か?」
(やめて、大きい声出さないで)
「おい!」
(誰? あなた…)
 砂名に覆い被さるように若い男がいた。
というか声が大き過ぎる。
「すまん! やはり俺様が間違っていた。今すぐ人に戻すよう願え。恐らく願いは叶えられる」
 男の声は大きくて理解出来ない。
それよりも目を開けてすぐ目に入った自分の鞄が何でこんなに大きいのかが不思議でならなかった。
「早くしろ! 早く願うんだ!」
(うるさい)
(? 声が… 出ない)
 砂名は何かが起きた事に気づいた。
(何が…?)
 急に背中が何かむずむずする。
 力を入れると背後でブオーッと風がたち、浮遊感と共に実際に浮き上がっていた。
(えーっ?)
何これ楽しーい!
砂名は何か滅茶苦茶爽快な気分になってきた。
このまま何処までも飛んでいきたい。
頭の中には今それしか無くなっていた。
いや、もう何も考えなくてもいいや、とにかく何処までも行っくぞーっ!!!
「こら待てっ!」
 その時、ギューンと何かがプレッシャーをかけてきた。
そしてグワンとよく分からないけど引き戻されてしまった。
(やだー! わたしは行くんだーっ!)と声無く叫んだけど無駄だった。
「おいお前、聞くんだ!」頭が回らない砂名に白い小さなやつが何やら必死そうに言う。
「良く聞け『あなたの想いに感謝します』」
 ボンッ!
 いきなり! 全てが戻ってきた。
 砂名は人の姿を取り戻し、目の前にはさっきまで同様白い小さな鳥がいて、さっき見たように思う若い男は居なくなっていた。
 いったい何が起こったんだろう?
砂名の勘違いでなければ、鳥の呪いを解く方法と言われてその通りしたら、凄く体が痛くなり、そこから最後、記憶が殆ど無かった。
        続く 
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