話題:創作小説
■「でも・・・・水中なんて・・・どうやって・・・・!??」慌てる蘭姫に「それなら僕に任せて・・・・!」と龍斗は小さな金色の笛のようなものを取り出した。

「ぷぅー・・・・・・」と。それに息を吹き込むと、それはシャボン玉のように蘭姫を取り囲んだ。
「わっ!!」驚く蘭姫。それは中々固い泡のようである。彼女が中で立っていても中々頑丈で割れない様子だ。
「この中に入れば”水中”にも入れるぞ!」指を立ててそういう龍斗に「凄いじゃん!龍斗!」と、蘭姫が返す。
「だてに旅はしてないからの。」少々得意げな龍斗。
「”破邪刀”をリンクさせれば君なら一人でもコレを動かせるぞ。」そういう龍斗に「本当!???」、「なら・・・・!」と蘭姫が意気込んだ瞬間。
「おーい!!!!」と、後ろから誰かがやってきた。

里の民の一人である。「大変だ!!俺達の里が・・・!!!」

オオオ・・・

「何だこれ・・・」城の上から戒が覗くと。そこには霧につつまれた里の姿があった。

オオオ・・・・・
大きな白い魚がその中を大量にゆらゆらと泳いでいる。

”魚が!!”と思った瞬間「わあああああ!!!!」里の一人がそれに追いかけられていた。

『ザン!!!!!』
綺麗な斬撃音がして「大丈夫!??」と襲われた男と魚の前に蘭姫が立っている。
その手には刀を構えていた。

「どーなってるんですか?コレは・・・・?」
バサリと上空から知らせに来た男を抱えて白刃が覗いている。
と、ソレに気づいた追いかけられていた男は「それが、急に巨大な魚の大群がおしよせてきて・・・・!!!」
と手足を大きく身振り手振りで説明する。
と、今度は「きゃあああ!!!」と蘭姫の後ろで女性の声がする。
「おばさん!????」
ソレは喫茶きびだんごのオバサンであった。


『ザッ!!』
今度は斬撃が上空から振り下ろされる。
戒だ。城から屋根を飛び飛び身軽な身体でココまで急ぎでやってきたのだ。

「戒・・・!!!!」思わず安堵する蘭姫。
「蘭姫・・・!!!」次にやってきたのは姉の麗姫である。

「姉さん・・・!??」
「原因は水中にあります・・・・!!!」と、息を切らせてやってきた姫君は一度はぁはぁと息を整えると流石に鬼なのかまた何事も無かったように真顔でこう答える。「”先読み”の神通力で見えました。何者かが”水中”からこの里を狙っています。」

「蘭姫・・・!!!」

”戒と組んで『水中』に向かってください・・・・!」そう主君から命が下る。

「でも姉さん!!!」脳裏に浮かんだの里のこの現状。


「大丈夫・・・・!」次に現れたのは兄の里利であった。
「兄さん・・・!!!」振り向く蘭姫に屋根の上に居た彼あらがどん!というばかりに胸を構える。

「里は”三獣鬼”と僕達でなんとかする!!」
城の警備隊である。と、そこに「僕も手伝います・・・!!!」
と、白刃も加わる。

彼は元々書記官であり”刀”を持っていないため。水中にはいけないのである。
「うん。」里利が頷いて白刃を迎え入れる。
刀は持たなくとも彼はそれなりの術士である。戦力としては十分であった。

「蘭姫。戒のサポートは私がします。」
”一緒に親玉をたたきましょう・・・・!!!”
戒は刀を持っていながらも一等角(いっとうかく)のため、刀と泡をリンクさせることが出来ない。よって、麗姫がサポートとして神通力で組んで一緒にはいることにしたのだ。

ドプン!!!!
蘭姫達が水中に入るとすぐさまソレを発見する何かが居た。

「やや!?何だあれは・・・・!」
「”上空”から何かが来たでやんす・・・!」
角の生えたその生き物は口々にそういうと「オイ!『主様(ぬしさま)』に報告だ!!我らが楽園に”敵”が現れたとな・・・!!!」と二匹揃って奥のほうへと泳いでいった。

「・・・・・!」泡にリンクし動かしながら鱗の共鳴を探す蘭姫。と、
「破邪刀に反応があった・・・!」ときらりと刀を光らせる。それに対し「おいおい・・・・それにしても・・・」
喜ぶ蘭姫達とは別に戒と麗姫は冷静であった。

「随分静かな世界ですね・・・」

「あぁ・・・・」

”魚一匹いない・・・!!!!!”水は確かに澄みきっている。濁り一つ無い美しさだ。
だが逆にソレがひしひしと違和感を伝えてくる。

そして
”ワシらの楽園に足を踏み入れるのは誰だ・・・・!!!!!”
前方から禍々しくとどろく声がした。

「え!?」
驚く蘭姫に「あ・・・あれは・・・!!!」と頭の上の龍斗が反応する。“虹の鱗!???”
きらりと光るソレは確かに前方の大きな巨体の額に埋まっていた。

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・
二体の側近を連れた大きな主が彼らの前に立ちはだかる。

が・・・・・・

「亀・・・・・」
「亀だな・・・」
ちーん・・・・という音が鳴りそうなばかりに場数を踏んだ彼らは呆気にとられるのであった。
確かに甲羅を背負った大きな巨体が小さな・・とはいえ人間程の大きさの小亀をつれている。

「ひっひ・・・・只の亀だと思うなよ。」双子亀の兄のほうがそういうと今度は弟が「主様はこの楽園の”王者”なのだぞ!」とそう答える。

そして、「外の世界は今”魚兵”が侵略しているー・・・・じきにお前達もわがエサとなるだろう・・・!」主と呼ばれたソレがいうと。
「何がエサだ!!!今の言葉は気き捨てならねぇな!!!」戒がソレに反応する。
「里を侵略するとなりゃあお前達は”俺達”の敵だ!!!」

『ここで俺達が・・・・・・お前を倒す!!!!!』戒と蘭姫が刀を構えなおすと
「よかろう」と主は笑みを向けた。「ならば・・・・・!!!!」

ザァアアアアア・・・・・・・彼らの後ろから波が浮き立ちソレが目の前に現れる。
「里で捕らえた”子供達”が水死するまえに・・ワシらを倒して見せるんだな!!!!」
「え・・!???」驚く蘭姫。

「里の子供達が・・・!???」
自分と同世代の子供達である「なんてこと・・・!!!!」麗姫も口に袖を寄せる。

「くっ!!!」戒が一瞬ひるんだが蘭姫に指示を出す。
「蘭姫!!!お前は”親玉”をやれ・・・!!!後の二体は俺達がなんとかする・・・!!!」

”今水中でまともに戦えるのはお前だけだ。蘭姫!!!!”戒の指示に「分かった・・・!」と返す蘭姫。

「蘭姫!!敵の力の源は”虹の鱗”だ!!なるべくソコを狙ってこうげきするんだ・・・!!!」
「うん!!!」頷く蘭姫。

”ククク・・・”
どうやら”奴らは”額のコレに惑わされているようだな・・・・・

”わが力の源・・・・・本当の場所は・・・・・・”
含み笑いを見せる主が余裕の笑みでソレを迎える。


ザッ・・・・・・
そして場面は戒戦に移る。
「破邪刀”双龍(そうりゅう)”」
戒が刀を構えると後ろの麗姫に合図を送る。
「麗姫。頼むぞ!!」「ハイ!!」
「豪炎爆砕破!!!!!!!」

バシュ・・・!!!!

戒の技の殆どは炎技である。故に敵に向かうまでに泡で囲む必要がある。
ソレをサポートするのが麗姫の役割であるがどうにもスピードが出ない。
ゴポッ
炎が彼らに向かってくるが双子亀は「ひっひ」と余裕の表情である。

「双子亀真拳(ふたごがめしんけん)氷の舞・・・!!!」二匹が手をとりくるりと回ると大きな氷の塊がその牙をむき出しにするように噴出した!

”ボボボボボ・・・・!!!!!”
威力の高いはずの戒の攻撃もソレに拡散される。

「くっ・・・・」
炎がかき乱される・・・・・
やっぱり”水中”じゃ不利か・・・

コレが陸なら逆であるのが丸見えであるが・・・
「ヒッヒ・・お前じゃぁ俺達は倒せない。」くるくると回りながら上空へと昇る双子亀。「観念するんだな・・・・・」弟亀がそう言うと、
「それはどうかな・・・・!」と戒は笑った。

炎技が効かないなら・・・・・・・

「奥儀!!!双龍召喚・・・・!!!」
カッ・・・・・!!!!!!

龍角の結晶である刀に住み着く龍の化身を呼び出す戒。
オオオオオオオ・・・・と、大きな二首の龍が亀を囲むように顔を覗かせる。
「ヒッ・・・・・」


ひいいいいいいい!???????

---
所変わってこちらは蘭姫戦。
「破邪刀”時醒(ときさめ)”!!!!」
刀を構える蘭姫・・・・・!
「桜吹雪・・・・!!!」

ざぁぁ・・・・!!!

蘭姫の技は戒とは違い属性の無い無属性の攻撃である。
主に里の瘴気である”神気(しんき)”と呼ばれる(というか彼らが呼んでいる)それを集めた塊を終結させて拡散させる技である。それが主に向かって繰り出される。

が・・・・

「紅牙’こうが・・・!!!)」
オオオ・・・・主の大きな三本の長い爪が赤く光る。

「紅斬(くれないざん)!!!」
ボッ・・・・!!!
その一撃ではね飛ばされる。


「く・・・っ」
手足が邪魔で”額”まで技が届かない・・・・!!!!!
”それに・・・・”
時醒の反応がおかしい・・・・!!!本当に額のアレが”力の源なの”????

蘭姫の心が揺さぶられる。
でも・・・・

”わかんないけど時間が無い・・・・”

子供達の命がかかっている・・・
「桜吹雪・・・・!!!!!」

もう一発・・・・!!!
蘭姫が構えた瞬間であった。「ハッハ・・・・!!!!何発出しても同じ・・・・ん?!??」

「ひえー・・・・・・・」「お助けー・・・・・」

と、上空。彼らがそういう水面方向から双子亀が主に向かって転がり飛んできた。

そして”どーん!!!」と大きな音を立てて主の背中の甲羅に当たる。

ドフッ

「!??」

「な・・・・・」
コテーン・・・・・・・・そんな効果音を立てて気絶しながら浮いている小亀たちの方を振り向く主亀。
その背中にももう一つ光るものが見えた。

”反応が・・・!??弱まった・・・!???”
虹の鱗の共鳴反応である。

「蘭姫!!!背中じゃ!!!!・・・多分あの背中に”虹の鱗”が・・・!!!!」
龍とのこれを合図に「分かった・・・!!!」と蘭姫が空へと刀を掲げる。

「破邪刀時醒!!!!!桜吹雪・改!!!」

『桜龍・・!!!!!』
ゴァ・・・・ッ!!!!!!!

「何だ・・・!???」
ソレは桜吹雪を進化させて自由に形を保ったまま動かせる彼女の隠し技である。
”桜色の龍が・・・・周りを・・・包む・・・・!??”




---
フッ・・・
「え・・・・?」
驚く白刃。コチラは華桜の里。先ほどまで戦っていた大きな白い透明な魚達が小さないつもの小魚へと戻っていく。ビチビチと音を立てて勢い良く地面で跳ねるそれを見ながら里利はこういった・・・・・・
「里が・・・・元に戻っていく・・・・・・・」



「・・・・蘭姫!!!!!!」
サァ・・・・!!!!!

急いで蘭姫達の行った水中の入り口へと飛んできた白刃。と。ザバァ・・・・!!!!と大きな水柱が上がった。「!??」水中に覗かせかけた顔を上げる白刃。

と、見知らぬ”男性”が蘭姫を抱きかかえながら現れた。
傍にはその男の能力なのか戒や麗姫。里の子供達がふわふわと浮いている。

「蘭姫。主のおかげで真の姿に戻れたのじゃ・・・・有難う・・・のぅ・・・・」
そう言って蘭姫の額に口付けたのは”新の姿”を取り戻した龍斗であった。

「・・・・!????」
見知らぬ青年と蘭姫とのそんな姿を見せられる白刃の顔へは何かに打ちのめされたような表情が浮かんでいた。

てーん・・・・・

ニッっと笑う戒の頭には小さな小亀が三匹乗っていたのであった。

---
「それじゃぁ・・・・」
”僕はコレで龍の城へ帰ります。”
翌日、里で一晩夜を過ごした龍斗が空へ帰る日が訪れた。
「昨日は一晩泊めてくださりありがとうございました。」
丁寧にお辞儀をする龍斗。その目の前には麗姫と里利。奥に三獣鬼の姿が見えていた。

「・・・・・蘭姫は・・・・?」
と。麗姫の方を見る龍斗。こちら側からはその顔が見えない。だが。
「ごめんなさいね。あの子・・・・・」
麗姫が苦笑いすると「いえ、いいんです。』と、青年はその顔を見せた。

金色の瞳が特徴的な、確かに龍の青年である。
「いいんです・・・僕は元々縁結びの神、小さな“恋”の転機に携われていればそれで幸いじゃ・・・」



ここは喫茶きびだんご。
そこには長椅子に座ってお茶を飲む白刃と戒の姿があった。
「いいのか?白刃、見送りに行かなくて・・・。」

自分はともかくとして白刃も影の功労者。戒が不思議そうにそれを見つめる。

ソレに対して白刃は「えぇ僕は・・・」と笑顔を返すもすぐさま下へと目線を向ける。
思い出すのは昨日の出来事。彼女よりももっと大きいその青年に抱きかかえられ額に口付けをされるその姿。
「何だか・・・・打ちのめされちゃったような気がするんですよ。」

ずっと子供だとばかり思っていた蘭姫が・・・・大人になってどんどん強くなっていく。
その背には沢山の人々の愛を受けて最後は・・・・・
きっと”鬼長”として人々に愛される人間になるだろう。

「でも僕は・・・・」
この手の届かない場所に・・・・・・・
”彼女に行って欲しくない・・・・”
「エゴですかね?」
そう言って再び戒へと顔を向ける白刃に「いや・・・」と戒はフッっと微笑を見せる
『大人なんてそんなもんだよ・・・・』
自分にも似たような想いはある。ただそれは今は言えない。
自分は麗姫の許婚で里の守護者だからー・・・

「白刃、お前のソレはきっと・・・・・・ん?」
戒が何かに気づいたように目線をそちらに向けると戒の後ろ側から蘭姫が走ってくるのが見えた。
「蘭姫・・・!」白刃がソレを迎える。
その彼女の顔には満面の笑みが見えた。


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「いいのかい?見送りに行かなくて」
そう言って心配そうに言う白刃に「うん」と蘭姫は笑顔を見せる。

私は・・・・・・

”最後に自慢の特等席から見送りに行くんだ・・・・!!”

「それじゃぁ失礼します・・・・」

ヴンッ・・・・と大きな音を立てて龍斗は大きな龍へを姿を変える。
ソレは黄金色に光る金色の龍であった。
「わぁ・・・・」
空へ向かって昇っていくソレを見上げる里利。と、その上空に何かがいるのに気づいた。

「・・・!」
龍斗の眼前に黒い影。近くまで行くとそれは二人の鬼の姿をしていた。

「じゃぁね。龍斗・・・・」
白刃に抱かれて飛んできた蘭姫である。

「あぁ。君達もお元気で。」
“僕は最後に”帰るための最大の課題”をクリアすることが出来て感謝している。”

『それは小さな縁の糸』
小さな龍が結んだ小さな縁。

”全ては君達のおかげだよ”

「「有難う!龍斗!!!」」
そう言って有難うと言う二人に

”有難う、蘭姫”と。龍斗は心の中で小さく返した。

ソレは小さな”鬼の話”


『鬼世界の。物語。』