つい先日の事。
同居している白月と日用品を買い出しに行き、もののついでと遊んでから帰る事にした二人の帰路は夜遅くになった。
最終バスを待っている間に寝入ってしまったらしい黒鶴を白月が抱えて連れ帰ってくれたのは記憶に新しい。
が、それ以降不意に身体が熱くなる謎の現象に黒鶴は悩まされていた。
たとえばそれは、寝入っている間に見た夢を思い出そうとした時。
白月がいつものように黒鶴を抱えるようにテレビを見入っている時。
長い指がカップをなぞり、コーヒーを飲もうと伸ばされる時。
腰に走る甘い痺れに、変な声が喉を突いて出そうになるのだ。
黒鶴は自分でも分かっているほど、肉欲というものに疎い。
もともとそういう気分になる事自体が稀なのだが、そんな時も大体は身体を掻き抱いて堪えるように眠りにつく。
溜めすぎると夢精すると知ってからは、それが嫌で最低限は触るようにしていたが、それも事務的なもの。
吐き出した後の虚無感や倦怠感が好きでは無く、潔癖なまでに拒否をしていた。
それなのに。

「ん……はぁ……」

今、深夜に程近い時間帯。
不意に訪れた身体を苛む熱に、夕食後早々に部屋へ引き籠もってからずっと身体を持て余していた。
下肢に触れようか迷う度、尻込みして拳をきつく握り締める。
けれど日増しに強く渇いた感覚を覚えるようになってしまい、心はもう陥落寸前。
どうすれば良いのかもよく分からず、そうなった時に今まで一番に頼ってきた人物に縋ってしまいそう。

「……しろ、つきぃ……」

ぐずるような、掠れる声で聞こえるはずも無い名を呼ぶ。
それだけで弱った心が羞恥に震える。
こんな姿を見せるのは嫌だと思うのに、彼ならばこの熱の払い方を教えてくれるような気もして。
布団にくるまった不格好のまま、右手をそろりと動かして下肢へと伸ばしていく。

「くっ、ぅん……」

熱くなった部位は内股を掠めるだけでビクビクと震えが走り、噛みしめた口端から吐息が漏れ出る。
パジャマに手を滑り込ませれば、先走りで中心の濡れそぼった下履きに手が当たった。
熱く押し上げる固まりの形をなぞるように手を動かせば、ぞくりと背筋がわななく。
慣れない事をする恥辱と、密やかな事をなす罪悪感が思考を過ぎった。
ともすれば漏れそうになる吐息すら恥ずかしい事のように思えて、動かす手が緩くなる。

「ん……ぅ、はぁ……」

ヒクヒクと物欲しげに引き攣る内股に、背筋が粟立つ快感を追おうと必死に目を瞑った。
けれど意識をすればする程、その奥の窄まりが更なる悦楽を求めてうずき始める。
それは、確かに夢の中での出来事だった。
白月の細く長い指が胸を弄り、背筋をなぞって双丘の合間に隠された秘所に埋められ。
どこをどう動いているのかは分からないが、ぐちゅぐちゅとした水音と共に白月の指がもたらす瞼の裏を白く染め上げる程の衝撃を身体が覚えているのだ。
ぐりぐりと手の平で先走りをあふれ出す鈴口を、亀頭をひたすら責めていく。

「く、ふぅ、はっ、ぁあっ、ん……!!」

もう片方の手は上下に扱きあげ、雁首をなぞるように動かした。
枕に頭を押し付け、目の端に浮かんでは落ちる涙の雫を擦り付け。
そこまでしても尚訪れない絶頂に、焦りだけが心を占めていった。

「は、も……む、りぃっ!しろ、しろぉ……っ!!」

縋るように喉から引き攣れた叫びを上げ、涙と涎でぐちゃぐちゃに濡れた顔を更に涙で汚していく。
と、コンコン、とふいに扉を叩く軽い音が空間を過ぎった。
一瞬前まで泣いていた事も忘れ、ビクリと大袈裟に身体を震わせて黒鶴は恐る恐る布団から顔を出す。

「――たずよ、まだ起きているか?」

聞こえてきたのは、今の今まで縋りたくて呼んでいた名前の人物で。
ふにゃり、と目の前を再び涙で溺れさせながら、足に絡みついて邪魔になった下履きを脱ぎ捨てて布団に身体を起こした。

「しろっ、しろぉ……っ!!」
「鶴!?どうした、何を泣いておる……怖い夢を見たのか?」

黒鶴の悲痛な泣き声に、平素は見せぬ慌てた声と様子で白月は部屋へと踏み込んだ。
顔をぐしゃぐしゃにしながら頬を紅潮させて涙を流す黒鶴の常にはない様子に、白月は思わず息を呑む。
彼が何をしているのかは、監視カメラと盗聴器から察しては居た。
いかな黒鶴とはいえ、欲求を無視し続ける事が出来ない様を白月は何度も見てきた。
が、今回はどこか不穏な物を感じ取って様子を見に来たのだ。
それがまさか布団の上で両手と足の間を濡らしながら、細い足をさらけ出す様を見る事になろうとは。
苦しさからか顔を異常に赤くさせ、ひくひくとしゃくり上げる様は悲壮さが垣間見える。

「ちがっ、しろ……しろつきぃ……おれ、おれ……っ、ふぅう……」
「どうした?ゆっくりで良い、まずは呼吸をしろ。な?」
「ん、ふっ……しろつきぃ……」

戸惑いながら肩を抱くように細い身体を抱き留めれば、胸に小さな黒い頭が押し付けられた。
ぎゅうっと腰に回された手が縋るようにパジャマを掴み、混乱の極みを示している。
まずは落ち着かせなければ、と黒鶴の格好には目を向けないようにしながら背中をぽんぽんと叩き続けた。
そうしてしゃくり上げる泣き声が収まった頃、黒鶴が腕の中でもぞもぞと動き始める。

「それで……訳は、話せるか?」
「……ん、へいき……。白月、あの……たず、うまくできなくて……」
「上手く出来ない、とは?」
「そ、の……あつく、て……もじもじ、するんだけど……」
「うむ……む?」
「この間、出掛けてから、おかしくて……一人で、い、ぃ……」
「た、たず?その、もしや……覚えて?」
「一人で、イケな、……え?おぼえ?て何を??」

きょとん、と首を傾げて見上げてくる様は無垢そのもの。
それなのに小さな桃色の唇が薄く開けられ、赤い舌がチラチラと覗く様は淫靡でもある。
吸い寄せられるように顔を近付け、間近で輝く琥珀の瞳に見詰められる事で白月は口付けしそうになる本能を抑え込んだ。
誘うかの様な無防備さも、全ては信頼あってのもの。
黒鶴にその気は無いのだと自身に言い聞かせる事で、罪悪感を呑み込んだ。

「いや……どうおかしいのかは、分かるか?」
「……ん、その……白月、に……いっぱい、触られた?夢を見た気がして……」
「俺に?」

それは恐らく、夢ではないと言いたかった。
だが、そもそもは夢での自分の行動がおかしかったのもあり、何より仕込んだ覚えの無い道具を使っていた事から現実とも言いがたい。
唯一救いなのは不思議そうに首を捻りながらも恥ずかしそうに口をつぐむ黒鶴がよく覚えていない事だろうか。
思いが通じた後ならまだしも、何も知らない純粋な子を稚児にする真似は望まない。
否、純粋な様を楽しみながら仕込んでいくのは望むところではあるのだが。

「それは恐らく、寝起きの悪い鶴をよく触っているからだろう」
「……そうなのかい?……確かに、朝は弱いけど……」
「うむ。無邪気で幼い頃と変わらぬ寝顔を見ると、ついな。手が伸びてしまうのだ」
「へえ……ちなみに、触るって、どんな風に?」
「頬をつねったり、頭を撫でたり……色々、だな」
「そう、か……」

言葉と同時に、白月の肩に頭を預けて黒鶴は小さな頭を擦りつける。
落ち着きと共に思った事は、今目の前に居る人に実際に触られたら、どうなるのだろうという好奇心。
晴らす事が出来なかった熱は、未だに身体に燻っている。

「その……白月、が……触るの、嫌じゃなければなんだが……」
「……鶴よ、兜合わせというのを知っているか?」
「かぶ?なに??」
「うむ……お前が嫌でなければ、だが……ようは扱き合い、だ。その、上手くイケなければ辛かろう?」
「ぁ……ん、しろ……さわって??」

胸に縋る手で服を掴み、くて、と首を傾げて真冬の夜の瞳を見上げた。
潤む琥珀の瞳に涙目で見上げられ、白月は内心の悦びを抑えた微笑みで頷く。
全て任せておけ、と耳元で呟き、上着の間から見える兆しを手の平で握り込んだ。

「んっ、あ、はぁ!?」
「おや、強かったか?すまんな、俺も慣れは居らぬ故」

むしろ喜び勇んで気が逸りすぎたのを、吐息と共に吐き出して誤魔化す。
片手は黒鶴のを緩く握り込んだまま、もう片方の手で自分も下履きの中から猛ったモノを引き摺り出した。
目の前の人物が思わず息を呑む音が響く。

「き、君のそれ……大きすぎないか?いや、一緒に風呂入ってるから知ってるけど……」
「そうか?まあ、何事も大きい事は良い事だと言うだろう?」
「いや……凶悪すぎて、えぐいだろう……」

驚きのあまりマジマジと覗き込んでくる無邪気な瞳に見られ、ビクリといきり立つモノが反応した。
それを見て我に返った黒鶴は、おずおずと白月の顔を上目遣いに様子を見ながらモノに手を伸ばす。
兜合わせは分からなかったが、扱き合いというのであれば恐らくはこうするのだろう、と。
予想していなかった積極さに、白月は息を呑んだ。

「んっ……ふ……」
「あ、悪い……痛かった、か?」
「いや、そのように丁寧に触られるとは、思わなかったのでな……驚いた」
「え、あ……本当?」

驚かせられた、という事に無邪気に喜びを見いだす子に、白月は微笑ましいと言わんばかりに頷く。
嬉しそうに眼を細めた黒鶴はそのまま両の手で白月のモノを緩く扱き上げ。
白月も負けじと黒鶴のモノをやわやわと握り込み、雁首に指を引っ掛けながら扱き始める。

「あっ!?あ、ぁあ、やぁあっ!」
「ははっ、ここが好いか?随分好い声で啼く」

翻弄されるままにきゅうきゅうと握り締めてくる拙い手に、搾り取られそうになりながら黒鶴の顔を見て攻める箇所を変えた。
とぷとぷと溢れさせる先走りを指に絡め、鈴口を引っ掻くように裏筋を指の腹で押す。
面白い位にビクビクと背筋を走る刺激に踊らされ、黒鶴は腰を前後に動かし始めた。
自然、前に居る白月の逸物と擦り合わせるような動きになり。

「あ、ぁ……しろ、しろぉ……っ!きもち?たず、きもち……いぃ……!」
「くっ、……ふ、ん……ああ、いいぞ……っ!」
「い、あ……!うれしっ……!!」

はぁはぁと互いに息を荒くさせながら悶え、快楽に落ちていく。
少し前の黒鶴では自分から過度に触れてくる事も、過度に触れさせる事も許さなかったのにたいした進歩だ。
内心で気に掛かっていた事柄が解消されたのなら良いのだが、と白月は頭の片隅で考える。
黒鶴は過度の快楽に舌を出して喘ぎながら、額に汗を浮かばせて悶えた。
不意に白月は目の前で見せられる痴態に黒鶴の手を取り、自身と一緒にモノを握り込んだ。

「んんぁっ!?や、にゃに、こええぇ!!」
「は、は……これが、兜合わせ、だ……どうだ?気持ち良かろう?」
「ん、ひっ!あ、あぁあ、こえ、やぁ!きもひ、ぃいっ!」
「そうかそうか……鶴よ、他に触って欲しい場所は、あるか?」
「ん、んんっ!あ……ぁの、こ、こぉ……!」

ぐい、とモノを握り込む白月の片手を引ったくるように絡め取り、自身の双丘へと触れさせる。
まさかそんな場所に誘い込まれると思っていなかった白月は驚きに目を見開き、頬を一気に紅潮させた。
しかし快楽に溺れる黒鶴はそんな白月の様子に気付くだけの意識を残して居らず。

「ここのぉ、おくっ!しゃわってぇ……、きゅうきゅう、してぅのぉ!」

ふにゃり、と緩んだ頬で早く触って欲しいと懇願する。
遠慮するように尻を揉み込むだけだった手が、上から抑え付ける一回り小さな手に誘われて後孔の縁へと掛かった。

「あ、あ!それ、しょこぉ!」
「……ふふ、愛らしいなぁ、鶴よ……」

はふはふと呼吸を荒げながら口端を緩めて頭を振りしきる黒鶴に、遠慮は捨てるぞと両手で尻を柔く揉み始める。
上から抑え付けていた手を前に回し、二人のモノを擦り合わせて扱き上げながら従順に快楽を追い始めた。
先走りを絡めた指で後孔の縁をふにふにと引っ掻くように刺激し、浅い場所を抜き差しする。
滑りの足りない行為はこれ以上を望めなかったが、それでも求めていた快感に黒鶴が涙を流して啼き始めた。
先頃の夢のような一時の合間にも思ったが、黒鶴は快感に弱く、敏感な方のよう。
打てば響く鐘のように素直な反応を表す様に、自分色に染めてやりたいと悪い欲が頭を掠めた。

「んっ、ひぃ、あ、も、もう……イ、イっちゃ、でちゃぁあっ!ぁん!」
「好いぞ好いぞ、イって好しっ!俺も、イク!」
「ふぁあぁん、しろぉっ!」

ビクンビクンと身体を震わせ、極めようとする黒鶴の後孔に中指を奥まで突き入れる。
その瞬間に好い場所を掠めたのか、きゅうっと後孔を締め付けて黒鶴が吐精した。
瞬間、握り込まれた手の熱さに白月も後を追って精を吐き出す。
二人揃って黒鶴の手を汚し、折り重なるようにくたりと身体を預けた。

「……鶴よ、平気、か……?」
「……ん、ぁ……きも、ちぃ……。は、ぁ……しろ、つきぃ……」
「そうかそうか……うん?」
「えと……また、その……」
「ああ、溜まる前に言うと良い」
「……うんっ」

ふにゃり、と事後とは思えぬほど緩みきった無垢な微笑みで頷く黒鶴に、白月は額にキスを落とす。
眼を細めて嬉しそうにする黒鶴に、一歩前進かと内心で喜びを隠しきれない白月だった。