一緒に帰宅した国永はルームウェアに着替える為に作業着を脱ぎ始める。
その間、鶴丸はキッチンへ買ってきた品物をしまい始めた。
今日の晩ご飯は鶴丸が担当し、スープカレーにする事にした。

「ただいま、おかえり。鶴、準備する前に髪染めてくれないかい?」
「おかえり、ただいま! えー、また染めちゃうのか? キレイだけど、元のままでも国兄とおそろいで嬉しいのに……」

しゅん、と存在しない耳と尻尾が垂れる姿を垣間見、くすくすと笑いながら頬にキスをする。
それを素直に受け止めた弟は嬉しそうにはにかみ、頬を染めた。

「ほら、こうしたら鶴の可愛いほっぺとお揃いだ。それに桜色は鶴も好きだろう?」
「おそろい? ほんと!? うん、サクラ好き! 国兄の色だからもっと好きー!」
「ああ、俺も鶴が好きだ、大好きだ。だから鶴の好きな色にしたいのさ」

着替えたルームウェアで後ろから抱き着き、腕の中に隠してしまいながら頬擦りをする。
直ぐ近くに感じる愛しい人の温もりと匂いに包まれ、鶴丸もうっとりと頬を緩めた。
いつものしゃんと立っている兄も好きだが、鶴丸にだけこうして緩い顔を見せて甘えてくる姿も愛しい。
ずっと一緒だと約束してくれた通りに感じる体温が愛しくて、鶴丸も国永の頬にちゅっ、と触れるだけのキスをする。

「じゃあこれ片付けたら行くから、国兄は準備して待ってて?」
「ああ、お安いご用さ。染めてる間に鶴は夕食の準備を頼むな」
「えへへ、特製カレー作るから、楽しみにしてくれな!」

ふにゃふにゃに顔を緩めてジャガイモとやせ細ったニンジンを持つ鶴丸に頷き、頭を撫でてから風呂場へと向かう。
染めている間は定着してから洗い落とすまで動けなくなるため、上層から流れて来た雑誌を持ち込んだ。
ヒスイから受け取った染色剤を片手に取り、別の品物をいつ鶴丸に渡そうかと破顔する。
やはり夕食を食べ終わってから、布団に入る前が良いだろう。
早く幼いあの子の笑顔が見たいと待ち望み、枕の横にそっと置いた。
椅子を持ち込めば後は鶴丸待ちとなり、暇つぶしに雑誌を開いてみる。
三条製薬の会長、彼の美貌で有名な三条御子息の宗近氏が就任という見出しを見てつまらないと思った。
写真に写る顔は確かに見惚れる程の美しさで微笑む姿だろうが、所詮は違う世界の話だ。
それより気になるのは上層でのファッションや最近の出来事。
薬を"仕入れ"する為には欠かせない物で、その程度の興味しか無い。

「国兄、お待たせ!」
「ああ、ありがとうな、鶴」

頬を赤らめながら顔を覗かせた鶴丸に、さては何かイタズラをしたなと感付きながら微笑む。
内容は粗方がオメガの習性に基づいたものだが、お仕置きと表して国永もイタズラをして返す。
毎回違う趣向を凝らすのは面白く、鶴丸の淫靡な姿を堪能できる貴重な時間だ。
今度は何をしでかしたのかと微笑み、雑誌を床に置いて鶴丸を腕に抱く。

「いつも通りよろしくな?」
「うん、ちゃんとまんべんなく、染めるんだよな。任せて!」

国永の腕に抱かれ、ふにゃんと笑う鶴丸が正面から液剤を混ぜてブラシで髪をなでつけていった。
落ちないように尻を掴んで固定しながら、上機嫌に鶴丸に髪を弄らせる。
時折もじもじと動きながら、慎重にブラシを動かす鶴丸は真剣だ。
本当は立った方が染めやすいのを、国永はわざと鶴丸に座って正面からすると教えた。
いつだってくっついて体温や匂いを感じていたいのは国永も一緒。
ただ日常の一つ一つに理由を付けてくっつく方が楽しく、そして愛おしい。

「くにに、できた!」
「ん、ああ、さんきゅう。それじゃあ鶴はご飯の準備を頼むな?」

礼にとおでこにちゅうを落とし、鶴丸の頬を撫でて微笑む。
嬉しそうにはにかんだ鶴丸は頷いて返し、また後でね、と言ってから風呂場を出て行く。
鶴丸の体勢では染めづらかった後ろ髪に染色を足し、雑誌に手を取ると再び目を落とした。
どこぞの女優が結婚、誰々が離婚と上層は色めき立っている様子。
他には抑制剤の新薬が三錠製薬から発表、と国永の意識を奪う。
今度の物は身体への負担が軽く、副作用に発熱も酩酊も伴わないという。
もしこれが本当の話だとしたら、喉から手が出るほど魅力的だ。
発表の日がいつなのか、場所はどこでなのかと目が追ってしまう。
値段は一体いくらだろうか。
否、いくらだとしてもその分ウリの回数を増やせば良いだけだ。
他にめぼしい情報は、と目線を流しているうちに、気付けば染色が乾いている事に気付いた。
結構な時間が経ったようで、けれど呼びに来ない鶴丸に疑問を覚える。
雑誌に夢中で気付かなかったのか、いや、鶴丸の声ならばどんな最中でも聞き取れる自信はあった。
では何故なのか?
答えは、

「んっ……はぁ、くにに、しゅきぃ……あ、もっと、しゃわってぇっ!」

髪を洗い流した国永が鶴丸の部屋へ行くと、見覚えのある布きれに鼻を埋めて自慰をする姿で分かった。
今日の作業所は蒸し暑く、その中でも鍋の傍で作業をしていた国永は汗をかいた。
国永の匂いと共に汗が多く含まれた布地、パンツなどをいつものようにネスティングしようとしたのだろう。
けれど蒸れて濃くなった匂いに耐えきれず、オメガの欲に逆らいきれなかった鶴丸は疑似セックスをしていた。

「俺にどうして欲しいって?」

蠱惑的に笑みを浮かべ、鶴丸の手に覆い被さるように手の平に包み込みながら大事な部分を握り込む。
突然の感触と声に、夢から覚めたような声を出して鶴丸は驚いた。

「あ、く、にに!? や、これ、ちがッ!!?」
「うん? 何が違うんだい? 俺の匂いで発情したんだろう、いけない子だなぁ」

口の端をぺろり、と舌で舐めながら微笑みと共に手を握り込んで上下に摩る。
発情している鶴丸は殺そうともしない喘ぎ声で悦び、喉を晒して背後へと倒れ込んだ。
真っ白い肌を真っ赤に染めて快感に悶える様を、愛おしい者を見る目で舐る。
ちゅ、ちゅ、と喉から鎖骨へとキスを痕を残していき、薄桃色に反応する乳首をちゅうちゅうと吸い始めた。

「や、くにに、きもちぃ! もっとしゃわって、かんでぇ、ちゅるをぎゅってしてぇっ!!」
「ん、良いのかい? ご飯もまだだろう、お腹空いたんじゃ無いのか?」
「ひにゃッ! くににで、いっぱいしてぇ、おなか、いっぱい、とんとんしてぇ?」

完全に飛んで肩で息をしながら強請る弟に、舌を絡めて呼吸すら奪う口付けをする。
空いた手で乳首をぐりぐりと押し、挟み、引っ張りあげた。
その間にもう片方の手は足の間へと沈み込み、後孔を攻め上げる。
発情したそこは既にトロトロと淫液を流し、ぐにゅぐにゅと動く壁が奥へと誘い込もうとしていた。

「はは、すっかり出来上がってるな。良いぜ、一杯愛してあげような、可愛い鶴。ずっと一緒だ」
「ん、ん、いっしょ、うれしぃ、ちゅるもあいしてる、くににぃあいしてるの」

へにょりと歓びに笑みを浮かべて力の入らない腕で抱き着いてくる鶴丸をあやすように受け止め、猛っている国永自身を引き出してゆっくりと埋めていく。
埋まる度、足を引き攣らせて悦びの声を上げる鶴丸はうっとりと頬を赤く染め上げていった。
その姿に溜まらない満足感を覚え、国永は腰を早めて上から押し潰すように穴を抉っていく。

「ふにッ!? あ、あああ、くにに、いい、きちゃ、はぁあ"んッ! ちゅるの、くににでいっぱッ!!」
「ん、ふっ、つる、つるッ……かわいい、もっと、突いてやろうなッ! 好きなとこ、どうだッ?」
「ひぃいいん、あ、らめ、いっちゃ、ちゅる、いっちゃああ"あ"あ"あッ!!」

先ほどから溜めきっていた精を腹に吐き出し、鶴丸は後孔を締め付けて国永のモノを出そうと収縮した。
しかし動きを止めて耐える国永に願いは叶わず、鶴丸は腰に足を絡めてより深く繋がろうとする。

「くにに、らひてぇッ! ちゅる、とんとんして、おにゃかにほひぃのぉッ!!」
「くっ、はは……そんなに直ぐ出したら、鶴だって物足りないだろう? 今日は一回だぁけ」
「や、やらぁあああ! もっと、ほひぃッ! おねが、ちょうらい、ちゅるにいっぱい、ちょうらぁああいい!」
「んッ、こら、ワガママ言わない。俺は腹が空いて、君も君の飯も我慢してるんだぞッ!」

言葉尻に合わせて突き上げると、かひゅと吐息と共に声を絞り出した。
その瞬間に合わせてがんがんと腰を突き上げ、水音が室内に響き渡る。
ばちんばちん、ぱちゅぱちゅ、ぐちゅぐちゅと響く音に鶴丸は顔を赤くして酔いしれた。
まるで耳からも犯されている様な状況で国永の突き上げを腹一杯に感じながら中だけでイク。
急激に搾り取るような動きに変わったそれに、国永は耐えきれずに最奥めがけて吐き出した。
お互いに繋がった多幸感に酔いしれ、抱き締め合ってベッドに崩れ落ちる。

「はにゃ、くににぃ、いっぱい……」
「あんまり可愛いと、毎日抱き潰すぞ……」

鼻をぷいっと指で挟まれ、鶴丸はふるふると顔を振って逃れようとした。
しかしくすくすとイタズラ気に笑う兄から逃げられず、結局頬を膨らませて不服を表す。
色々と満足感で一杯になった鶴丸はそのまま寝落ちようとまぶたを下ろし、

「こら、寝る前に飯食うぞ? それに身体洗わないと」
「うぇ、このままねたーい……」
「だーめ。ご飯はちゃんと食うって約束したろ? それに後処理しないと腹壊すぞ」
「むー……はぁい」

だましだまし起き上がり、顔を上げたところで国永からおでこにキスを貰って両手を差し出した。
そうすると国永が鶴丸を抱き上げ、ダイニングの椅子へと座らせる。
ご飯をよそうのは国永の仕事で、鶴丸の分を普通盛り、自分の分を大盛りにした。

「頂きます。上手そうなジャガイモカレーだな!」
「いただきます。うん、今日ジャガイモいっぱい使った!」

嬉しそうに微笑む鶴丸に笑い返し、薄味のスープカレーを平らげていく。
肉が入るのは時折、孤児院の配給が良かった日に分けて貰う位だ。
育ち盛りの兄弟が食べるには貧相な物だが、下層ではごく当たり前の光景だ。
むしろそんな飯さえ用意出来ない者も居る中では良い方。
ようやく作り上げた日常の形だった。
鶴丸の頬に着いている米粒を取って己の口に入れ、鶴丸が食べ終わるのを見守る。
そうした次には食器をキッチンに下げ、鶴丸を抱き上げて風呂場へと連れて行った。

「今日はあわあわー?」
「ああ、給水制限の日だからあわあわだ。君は俺が洗うから、俺は君が洗ってくれよ?」
「うん、国兄洗う!」

嬉しそうに笑い、ぎゅうっとしがみついてくる鶴丸を抱き返しながら服を手際よく脱いで洗濯カゴに入れていく。
自分の分もそうして二人で風呂に入り、カサ増しをするとまずは鶴丸の中から先ほどの国永の精液を掻き出した。
鶴丸は少しだけ不満そうな声を上げたが、すぐに掻き出す指の動きに夢中になる。
膝に座った鶴丸の自身がふるふると起ち上がり反応するのを、けれど何もせずに泡で髪の毛、身体と洗っていった。
洗い流すのは一回で済ませる方が良いので、次は国永の番だ。
鶴丸と正面で向かい合い、反応した鶴丸のと自身のを両手に握って兜合わせに擦り上げる。
二人とも快感で身体をひくつかせながら、まだ濃い精液を射精した。
そうして国永の髪の毛、身体と洗っていき、合間にキスを堪能しながら洗い流して風呂を後にする。
寝るのは大体国永の部屋で、少し広めのベッドに二人とも横について手を握り合った。

「おやすみ、国兄。また明日」
「おやすみ、鶴。また明日な、愛してる」

二人で似たような顔を付き合わせてベッドに眠る。
これが兄弟の求める平穏で、ささやかな幸せだった。