入院した病院で、患者は何を頼りとするか。


医者か?
家族か?



だが、最も身近で患者と接する者は誰か?
…看護師なのだ。





私の受け持ち患者の容態が思わしくない。
否、容態といっても、体の方ではなく…心の容態だ。

認知症が進むにつれ、患者は涙を見せるようになった。

あれがない、これがない、と常に不安を抱いて。


私が今日の終業時刻をすぎた後、やっと書類仕事を終わらせた時もその患者は涙を流した。


その患者の話を聞いていると、夜勤の看護師───先輩にあたるのだが───が、私に向かってこう言ったのだ。


「あんたはその場しかないけど、私はこれから見ていかなきゃなんないんだから、甘やかさないで!」



────私は看護師としての経験は浅い。

だが、その言い方には憤りを感じた。



看護師が患者の話を聞いて何が悪いのだ?

そのようなことを言って、話を無理矢理中断すれば、余計に不穏になるのが分からぬか?

まして、その台詞を患者の前で言うとは…



呆れて物が言えなかった。





だが、その先輩看護師はいつもは優しい。

それに、確かに先輩看護師の言うことにも一理はあるのだ。



理想の看護など、ままならないものだ…