砂かぶりの丘をゆき








男のその手が、少女の腰をそっと…
慰めるように触れていた。


ぐずり、と溶かすようにも見えるその手つきが、いくぶん艶やかに細いそこに、纏わりついては離れていく……。
この数分の間ですでに四回……。
少女の顔を見れば、存外に薄赤い目もとを潤ませ、年に似合わぬ物憂い様子で男によりかかっていた。



アンニュイな稚気。



あきらかに、イケナイことをいたした事後に見える。
まだ幼い神楽の顔をそれ以上盗み見ることはできなくて、男の顔に今度は目をやった、こっそりと。



いったいどんな顔して、彼女に悪さしたんだろう。
いったいどんな声で、言葉で、彼女を可哀がったんだろう。
いったいどんな───…



だらしなくて、身勝手で、ひねくれた、とてもいい大人とは言えない。
どこか世をすねたような不器用さをもつ、そんなそっけない男が信じられないぐらい彼女に甘いことは知っていたが…。
銀時のめずらしく細めた目の奥に、ちろちろと揺れるようにして紅い瞳が見える。
その瞳のわずかな光こそが、言葉にならない彼のあらゆる感情のうねりを現していた。


なんだか、一目瞭然でわかる危うい雰囲気をふりまきながらくっついている男と少女を、和室の向こう側から見つめていた。
新八は眉を曇らせた。だれの目にも少女の『男』とひと目でわかるほど、もはや隠しようがなかった。
だが神楽が、未熟な硬さの中に秘められた青い美しさであるのに対して、銀時には成熟した大人の、十分意識した当てつけるような厭らしさがあった。それが酷くなっている。
神楽の水底に遠ざけられたような神秘的な青さ、ふてぶてしさではなく、なんの障害もおかずに直接ぶつかってくる、具体的な男の溺愛である。
彼はいわゆる “食べてしまいたい” ような愛しさを彼女におぼえているのだ。
その開けっぴろげな様子に少し怖くなるものがあった。
男の中に隠されてあったものの本性を存分に垣間見た気がして、新八は不穏な気持ちになる。
仲間だからこそ、諸手をあげて祝福していいものか不安だ。とくに神楽はまだ十五歳になったばかりなのに…。
良識的で家庭的、数々の困難にもめげず、不屈の闘志をもって夢を実現していく原型を兼ね備えた美質でありながら、新八はどこかわきが甘かった。存在感があるようでいて、希薄だった。
自分が帰ったあとのふたりの様子は、さぞかし仲睦まじいのだろう。
この神楽がこれだけ昔から懐いているのだ。
銀時は新八がいないほうが神楽を純粋に可愛がっている。
とくにこの家の中では、誰にも憚られることなく。



ふたりは、ひだまりを避けるようにして畳に座りこみ、猫のようにブランケットを分け合っている。
決して自分のほうから人に近づくことのなかった2匹の猫が、世界が終わるまで、けだるく寄り添っているような───。




ぼんやり立ち尽くしていた新八に神楽が気づいた。


『あれ、新八いたっけ?』


そんなあやふやな台詞が聞こえてきそうなほど、まっすぐに、くったりと瞬きした。
その瞬間、彼の体の奥に、恋する女性から愛の告白を受けたかのようなおののきが走った。神楽のひたむきな視線。その透明な炎のような、不思議な熱感を帯びたまなざしに見つめられると、新八は背筋に悪寒のようなものを覚えた。嫌悪のせいではなく、なにかに魅入られたようなマゾヒスティックな快感と陶酔が自分を慄わせたのだ。
──だが、たぶん気のせいだろう。
銀時を含めた他の男と自分の違うところはここなのだと、自覚している。
よく見るとあまり顔色がよくない。血の気の失せた神楽が新八は兄のように心配になった。



「仲良しですね」


和室に一歩足をふみいれると、銀時がまんじりともせず神楽の腰から手を離した。
まるで一時も離したくないといっているようで少し笑える。


「いま来たのか?」
「ずっといましたよ!」
「「あれそうだっけ」」


そろった声に溜息を吐いて、さてどうしようかと思った。
気配に敏いこの男が、愚鈍なことだ。
しばらく気づかないフリでいたほうがいいだろうか?
いや・・





釘を刺すのはこの男だけにしよう。










fin


予期せぬ愛に 自由奪われたいね


12/31 22:22
[銀魂]




・・・・


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